幕間:皆殺しの夜
三人称に挑戦。
某所にて。
「なあ運命の女神よ」
「なによ、救済者?」
「先ほどからあの少年をずっと見ているが……なぜそうも苛立っているのであるか?」
「……」
ペナルティメーカーと呼ばれた白髪スーツ男に、フラグと呼ばれたいかにも女神といった風体の少女がいる。
男の問いかけに少女は不機嫌を隠さずに、しかし何も言わずに黙りこむ。
「方向性はともかく、頑張ってはいるのである。もう少し――」
「それ以上あの男を庇うようなら、」
表面上は不機嫌さを消し、潰すわよ? と少女は言う。
少女の言葉に嘘偽り、一切の躊躇がない事が分かった男は、何か疲れたように溜息を吐いた。
その噂の対象、アルヴィースは迦月と肩を並べて剣を振るっていた。
時刻は夕暮れ、日が沈む時間帯。
セイレン東部にある、とある男爵邸にいた私兵の大半はただのゴロツキで、彼らが一当てすれば確実に屠れる程度の者たちだった。
黒髪の少女が踏み込み、隊を崩す。そのまま彼女が暴れれば逃走する者が出るのも仕方がない。だが、その逃走者は黒髪の少年が切り伏せる。誰1人逃すつもりのない死神たちが猛威をふるった。
攻撃系の魔法は一切使わず、剣のみによる制圧。
攻撃魔法を主力に使うのがアルヴィースという男の戦い方だが、貴族と言っても所詮は男爵、つまりは領地をもたない貴族の雇える兵などたかが知れている。つまりそれだけの武力でも十分だった。
むしろ制圧劇は蹂躙劇で、攻撃側の参加者には負傷者一人でない、やりすぎとも言えるものだった。
それを成し終えた後、少女は少年に話しかけた。
「のう、ここまでやる意味があったのか? 頼まれて手を貸しはしたが、あまりにもつまらぬ戦じゃったぞ?」
「一罰百戒。ただの見せしめだよ。こうすれば、あの子らに二度と手出しできなくなるし」
「ずいぶん過激な意見じゃな。じゃが、生き残りの一人もおらぬようでは話が広まるまい?」
「それは手配済み。何のためにウォレスさん動かしたと思ってるのさ?」
「噂を広めるため、か。こ奴らを生かしておかぬ事を前提に作戦を組むこともあるまいに」
会話は淡々としていて、戦場を共にした仲間との会話には思えないほどに冷えている。
皆殺しを提案し、実行したアルヴィース。
それに異を唱え、不本意ながらも参戦した迦月。
温度差が、そこにあった。
「前にお願いした話は覚えてる?」
「何じゃ唐突に。あの『クエスト』の事か?」
「そうそう。あれってさ、結局迦月はどんな夢があるとか一切説明してくれ無かったよね?」
「……当然じゃな。誰にでも軽々しく話せる事でも無い」
あのとき迦月にとって「大事なこと」である未来の話を、アルヴィースに話すという選択肢はなかった。
身内と言える者にだけ、話せる内容だからだ。
唐突に変わった話題とあまり思い出したくないその内容に、顔を顰めた迦月へアルヴィースは笑いかける。
「同じさ」
「何がじゃ」
「誰にでも話せる事じゃない。これは俺の根幹だからね」
迦月は恐怖した。
アルヴィースは確かに笑っている。
しかしその瞳の奥に宿る狂気と激しい憎悪に、迦月自身が晒されているように思えたのだ。
そんな迦月の様子を気にかけるでもなくアルヴィースは笑顔のまま続ける。
「この手の咎人は殺した方がいい。反省なんてできないからね」
妙に重く、実感のこもった言葉に迦月は何も言い返せなかった。
セイレンの貴族街、領主の館でフィリスは頼まれていた書面をガロウィン公爵に送り、兵士の報告を聞いていた。
兵士が言うには、なんでもガロウィン公爵家縁の者に手を出した不届き者がいたと言うので討伐しようとした、という報告だ。
凶悪な呪いと毒を使うその手口は貴族といえど看過する事はできず、兵を向けた。しかしそこには生きた人間が誰もおらず、全員切られて死んでいたという。公爵家に手を出した愚か者の末路までを兵士は事務的に報告した。
その報告を聞いたフィリスは追加の書面を作成し、公爵に報告する事にした。
彼女の表情はどこか暗く、いったい誰を想ってそうなっているのか。兇状に憂いている訳ではない。そこまでは分かるのだが、その表情の意味は誰にも分らなかった。
夜、月と星の明かりがセイレンの街を照らす。
そんな薄闇の中、黒髪の少年が外壁の上に座り街中を眺めていた。少年の表情に色は無く、ただ眠そうに、半目でぼーっと眺めているだけだ。
そんな少年の横に影が落ちる。
銀髪の少女が、少年の傍らに立っていた。
少女に気が付いた少年は少女の顔を見て、一瞬苦笑してから再び街へ顔を戻す。やはり、表情は無い。
少女はそんな少年に何も言わずに隣へ座り、同じように街を眺める。
少女は思う。
少年は自分を信じてくれた。この街でたった二人、信用できる人と認めてくれた。
自分一人ではない事が悔しかったが、それでも自分が“特別”だと分かって嬉しかった。
今、自分が受け入れられない理由は聞いた。だから、この少年の心が落ち着くまで傍にいようと。
朝日が昇るその時まで、二人はそのまま寄り添っていた。
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