望むものは……③
「それで、どう生きていけばいいのか分らなくなった、と言う訳だ」
話の途中でルナも戻り、そうなると開き直って二人を両隣に座らせ、訥々と最後まで語る。
途中でお酒で口を湿らせ、二人にも飲み物食べ物を勧めたりしていたので長く話していたと思う。
そんなつまらない長話に付き合えるのは二人が良く訓練されたキャバ嬢だからか、それとも天性の気質か。嫌な顔一つせずに静かに聞いていた。
「アルヴィース様、いっこ聞いていいですか? お金持っていうけど、どれくらいの資産があるんですか?」
話し終えて早々、ルナが明け透けにものを言う。ルナは親の借金でここに縛られているらしい。元貴族の長女だが、この店に売られた段階で絶縁したとか。
分かりやすく単純な話を振る事で場の空気を変えようと言う事だろう。特に反対する理由もないのでこちらも軽く笑って答える。
「正確な数字は秘密。二人を余裕で身請けできる程度にはあるよ」
「またまた~。私たちの借金って、アルヴィース様が思うよりもずっと多いですよ。聞いたらビックリしちゃうぐらいの額なんだから」
「……この店の相場とかを考えて、一人当たり金貨で2~30万枚? 二人なら約50万枚ってとこだと思ったけど?」
「ゴメンナサイ、わたし、そこまで高くないです」
マジレスしたら、相手が恐縮してしまった。
日本円に換算すると二人合わせて500億円。安く見積もったのだが、どうやら外したらしい。
部屋にある調度品からこの娼館のランクが高く、かなり高級な店だと言うのが分かる。そこでも恐らく最上級の美少女であれば江戸の吉原で言うところの花魁候補、禿のようなものだと思ったのだが。
あれ? 花魁は金を積めば相手してくれるものじゃないし……そう考えれば俺のような一見さんに回すはずもなかったか。
ルナとお金の話をしていたら、50万枚と言うところでシアの身体が少し震えたのが分かった。
借金でここにいる二人に対し「上手くやれば身請けしてもらえるかも」という期待をさせるのは酷かな? いや、してもいいんだけど。手持ち金貨8億枚はほとんど手付かずだから。
そこでふと気が付いた。クエストの対象ヒロイン『???』ってこの娘たちの事じゃないか? 状況として、一応ありうる。
この予想は特に外しても問題なんてないだろうし、もしかしたら、その程度の気持ちで話を振ってみる。
「もしこの店から自由になれたら、何かやってみたい事はあるか?」
「えぇ~。それはもしかして期待しちゃってもいいのかな?」
「……妹と、二人で暮らしたいです」
俺とルナの話にシアが割り込んできた。
別にシアを無視した訳ではないのだが、急に自己主張したのでびっくりした。
「へぇ、妹さんがいるんだ」
「身体が弱くて、ベッドから起き上がる事も出来ないんです。それに、治療費が……」
ルナは借金で縛られ、シアは定期的に多額のお金を必要とする身内がいる。少し二人に興味がわいたので二人の身請けをする事に決めた。俺に金銭的な負担なんて、どうでもいいからね。
ただし、問題は二人の処遇である。
ルナはまだいい。借金を肩代わりするだけだから。
問題はシアで、妹の面倒も視野に入れる必要がある。定期的に金銭を与えるのでは芸が無いというより、根本的な問題解決になっていない。そもそもの負担を取り除く方向で動きたい。
だとすると、妹の病気を治せばいいのだけど、そんな魔法は無い。残念ながら「Brave new world」に「病気」などというバッドステータスは無い。毒の治療であれば任せてもらっても大丈夫だが、病気の治療に関してはできる事と出来ない事がある。そして出来ない事の方がたぶんの多い。
これはシアの一生に関わる問題なので、安易に動く事ができない。
「妹さんの体を治すアテはある?」
「王とでごく稀に売りに出される、エリクサーなら、恐らくは……」
要するに、アテは無いようだ。
エリクサーの効能についてはゲーム時代に何度もお世話になった俺だから分かるが、病気には効かないと思う。あれで何とかなるなら、俺の作った回復用ポーション数個で代用できることになってしまう。
「病気」なんて状態異常が無いゲーム世界で病人に回復魔法を唱える機会がある訳でもなく、こちらに来てからもその手の状況に巻き込まれる事が無かった。試す価値はあるのか?
とにかく一度見てみれば妹さんの症状を診てみよう。
善は急げと店から二人を借り受け、娼館を後にした。
人生相談というか、愚痴を言いに行って逆に人助けとか。何か間違えた気もするが、ここで気にしても意味はない。
やりたいようにやる。それだけである。
余談ではあるが、代金並びに連れ出し料金で金貨2000枚ほど払ったが、これは確実にボッタクリ価格である。酒代だけで適正価格400枚のところを1000枚とか書いていたし。ルナがごまかしたとか嘘をついた訳ではなく、店の設定があの値段、と。あとで少し遊ぶネタができたのでちょっと笑ってしまった。
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