運命の女神③
ちなみに運命とは役職名で個神名ではない。
リアが昔慈母と呼ばれていたらしいが、それと同じみたいだ。
どちらもペナルティメーカーが使っていたのは覚えている。神様ってあんまり名乗らないものなんだろうね。
だとするとリアってなぜ俺に名前を強請ったんだ? 今考える事じゃないか。
「アタシについての質問は受け付けないわ。言えない事の方が多いし。とりあえず、アンタには『クエスト担当』って理解でじゅーぶんよ」
運命と名乗った女神は薄い胸を張って自慢した。
いろいろと言いたい事、不満その他はあるが、怒らせてはいけない相手のようなので黙って聞く姿勢をとる。
まあ、向こうも言いたい事はあったようで、びしっと指を突き付け俺を糾弾し始めた。
「これからアンタの罪を数えてやろうじゃないの! まず最初に――」
俺にはプライバシーなど全く無かったようで、これまでの行動を一つ一つ駄目出しされる。
いや、フィリスとティアを普通の親子にしたいのは確かだけど、名案なんて思い浮かばないし。それこそクエストで方向性だけでも教えてほしかったよ。女性兵士といい仲にならないのはしょうがないと思う。お互い仕事で忙しいんだし。ミューゼル? 用もないのに会いに行く訳無いでしょ。どんな無茶ぶりをする気だアンタは。街中の移動で屋根の上を使うのはやめろ? 人混みは苦手なんだって。そこは許してもらわないと。他の学生と絡めない授業ばかりって――
小1時間ほど説教という名のプライバシー侵害行為が続く。
「――最後に! 年齢詐称!! これのせいで予定が1年前倒しなのよ!? せっかく用意したヒロインとイベントが全部パア!! 他の男の子に回したり、新しい娘を用意したり! アタシがどれだけ苦労したと思ってるのよ!! エヴァみたいに行き当たりばったりじゃないのよアタシは!!!!」
あー。
翻訳すると、注目してた主人公役だけに年単位で予定を立てたら、俺の年齢詐称で1年前倒しされて無駄になった訳か。むしろ後始末で大損害?
リアは先の事なんて考えずに行動したから、楽して運良く事が進んだ。それで余計にムカついたんだろう。リアの何がどううまくいっているのかは知らないが、あっちはあっちで予想できないハプニングの連続みたいだぞ? ≪ゼロの魔剣≫による神核破壊とか。
俺は冷静に考えているけど、フラグは興奮して俺にアイアンクロー。どこのプロレスファンだこの女神。最初の飛び膝蹴りは体勢しだいでシャイニングウィザードに変わる虞があったな。
「しかし、こーゆーのって、ペナルティメーカーの仕事じゃないのか? なんとなくそんな気がするんだけど」
「あの馬鹿は『人間の法を犯したのなら人間が裁くべきである。吾輩の出番ではないのであ~る』とか言ってサボってるわよ! その裁く人間が協力してるから! アタシたちで裁くんでしょうが!!」
どんなことにも筋を通す男、ペナルティメーカー。さすがだ。
普通に考えたら王立学園の管理者はフィリスで、そのフィリスが許可した以上は法に触れる事はしてないというのが現実だ。
フラグは納得できないかもしれないが、ペナルティメーカーの発言の方が筋が通っている。
つまり、フラグは自分が損害を被ったので感情任せに突っ走ったと。
仕事を終わらせてから動いたのはさすがだけど。その後のダメさ加減が酷くて評価できないな。
この女神に長々と付き合うのはよろしくないので、さっさと裁きとやらを受けた方がいい。
どうせ逃げれそうにないし、さっきは死ぬかと思ったわけだし、生き残れるならそれでいいや。
「で、俺は裁かれるようだけど、どんな罰を受けるんだ?」
「簡単よ。会話だけで終わるクエストを1個出すから、それをクリアしなさい。期間は1カ月よ」
システムの『お知らせ』コールが新規クエストを告げる。
会話だけで終わる?
怪訝に思いクエスト名を見ると。
『未来のヴィジョンを共有しよう』
「ヒロイン達から将来の夢を聞きだして、その手助けを約束するのよ。空っぽのアンタにはちょうどいいでしょう?」
「空っぽ?」
「そうよ。アンタ、将来やりたい事や就きたい職業の一つも無いじゃない。だったら嫁を支えるぐらいした方がいいわ。誰かの夢を支えるっていうのもいいものよ」
「俺は将来料理人の予定なんだが……」
「それはできる事から選んだだけじゃないの。そうじゃなくて、今は無理でもやってみたい事なの。今できない事を全部切り捨てて、出来る範囲で小さくまとまらない。なにも頑張らず、惰性で戦い続ける今のあり様じゃ何も説得力なんて無いわ」
将来の夢という一点において俺はバッサリ切り捨てられた。
確かに料理人は実現可能な未来の中から選んだものだ。だが、そのために提供する料理の選択や値段設定、必要な仕入れルートの開拓、ターゲットとなる客の選別など、今の俺ではできない事も多く、そのための努力はしている。そこまで強く否定されるようなものではないと言いたい。
それに戦闘は命がけでやってるんだぞ? そんな中途半端な気持ちで動いていない。
「不満のようだけど、拒否権は、無い! 自分を見つめ直すのと女の子と仲良くなるいい機会なの。さっさと終わらせなさい」
顔に不満が出ていたようで、きっちり釘を刺された。
そしてようやくアイアンクローを解除された。ダメージは無かったけど、痛かったし心理的に圧迫されるものがあったから、解放されて少し気が緩んだ。
「そうそう。女の子のために頑張ったことは評価してあげるわ。失敗も多いみたいだけど、それでもアタシが褒めてあげる。こうやって褒めてあげる人なんて滅多にいないんだから。だから、胸を張って生きなさい」
急にフラグの雰囲気が変わった。
それまで吊り上っていた目が柔らかな光を湛え、微笑みの形になる。
そのまま慈しむような表情で俺の頭を撫でると、2歩後ろに下がった。
膝をつき、目を閉じ、頭を垂れて祈るように手を組む。
「貴方の未来に祝福を。進む道に幸いを。重ねる手の温もりを心に。友と交わす言葉が、空にも届く事を願います」
それだけ言うと、運命の女神は光の粒子になって消えた。
変貌に驚き、頭を撫でられ赤面し、最後の言葉と突然の帰還に混乱する。
少し時間をかけて言われた言葉を順に呑みこむ。
失敗したけど。
やり方を間違えたけど。
それでも、「助けたい」と思った事だけは褒めてくれて。
俺はちゃんと自分で進んでいけると信じてもらえた気がした。
フラグの帰還に伴い復活したワープゲートの前で、俺は声も無く泣いた。
読んでいただきありがとうございます。
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7月18日 20:04 誤字修正
×普通に考えたら王立学園お管理者はフィリスで →
○普通に考えたら王立学園の管理者はフィリスで




