クエスト:囚われのヒロイン?を救出せよ
戦闘開始です。と言っても戦力差が圧倒的すぎて、まともな戦闘になりませんが。
日が沈み街が闇に包まれる時間帯。俺はセイレンのスラム街を駆けずり回っていた……。
腕の中には5歳ぐらいの獣耳幼女が一人。幼女は巫女服を身にまとい、どこか高貴そうな印象を与える。今は必死に俺にしがみついている。
マップを確認しながら次の目的地を確認する。
「敵影39、保護対象3と5≪範囲拡大・眠りの霧≫≪範囲拘束≫を発動待機。 ≪複合強化・速度・10秒≫」
いくつもの敵キャラの中に3つの保護NPCが囲まれているのを見て時間がないことを推測。使う魔法を用意して最大速度までギアを上げる。
「畜生!! 間に合ってねーだろ!!!!」
「~~~~~~っ!!!!!!」
幼女の声にならない悲鳴が聞こえた気もするが、現実逃避気味の頭には届かない。
結局この日は15回目の拠点強襲をすることになった。
あの夜。クエストを一通り確認した俺は思案していた。
「無視、できないよな」
クエストの中には一つだけ、無視できないものがあった。
『女の子を暴漢から守れ』
幼馴染やアイドルなんてどうでもいい。貧乏シスターも後で寄付でもすれば解決する問題である可能性が高い。
だが、暴漢に襲われた女の子がどうなるかはあまり考えたくない。
知らなければ後でそんなことがあったと聞いてもニュースに流れる事件と同じでしかない。気にする事も無いだろう。
ゲーマーとしては甚だ不本意ではあるが、俺は他3つを無視して明日の予定を立てることにした。
セイレンは治安のよい都市ではあるが、スラムはあるしこちらに判らないだけで盗賊ギルドとかもあるに違いない。人間が大勢集まってその手の「闇」が存在しないとは考えにくい。
なので、暴漢のいる場所=スラム近辺と当たりをつけた。
マードックさんから「街の東側には近寄らないように」と言われていたので、あえてそっちに行ってみる。
予想は当たり。東側はいかにもなスラムがあった。
住人の服はボロボロ、頬は痩せこけ瞳に力がない。時折、妙に目をぎらつかせたそれなりにいい服を着た連中が混じりこむ。
どう考えても犯罪者連中がたくさんいるだろうと予想できる。
「≪敵性感知≫を常駐・1日」
暴漢と敵対するのが前提のクエストだけに、マップ機能を拡張する。効果は半径1㎞の守る対象とそれを襲う者をマップに表示する。
通常だとマップは視界に映らない範囲はフォローしてくれない。それでは間に合わない可能性が出てくるのでMPを消費してもやっておく価値はある、価値はあるはずだったのだが……
「ぷじゃけるなよ!?」
表示されたマップには無数とは言わないけど100を余裕で超える赤マーカーと12の緑マーカー。ご丁寧に緑マーカーは複数個所に分散している。
おそらく、本来ならどこか一つにあたるだけで終了なんだけど……
「見捨てられるかよ、畜生!!」
装備画面を呼び出し顔を隠すためにフルフェイスマスクの装備、≪祖魔神の仮面≫を装着。これは銀の額あてに銀髪のウィッグの付いた頭部装備で、とあるソロ専用ユニークボスを討伐することで作成可能になる特殊装備。装備ボーナスは≪認識阻害Ⅴ≫。主にダンジョン奥にいるボスまで行くとき、雑魚戦闘回避に使う。
その他準備を整え手近な建物に囚われている緑マーカーのもとに急行する。
緑1に赤12。赤は固まっているのが10、見張りらしきものが2。今回は敵が多いので時間短縮を最優先。問答無用の強襲策で突貫をすると決める。
視界に写った二人の敵。こちらに気がつく前に背後を取る。手にした剣で首を刈り、結果を確認せずに内部へ突入。
今度は男10人が一部屋にまとまっている。同時に、救出対象の幼女を確認できた。男たちのみならず幼女も驚いている。
(子供に血を見せるのはまずいよな)
自身も外見年齢10歳だが、そこは無視する。それにグロはゲームで慣れている。
「≪範囲拡大・眠りの霧≫」
人間を問答無用で無力化するのに一番簡単な方法を取る。これなら救出対象を巻き込んでも問題ないし、なによりこれからやることを見られずに済む。
使った魔法はその場にいた全員を眠らせた。なので安心して幼女のもとに向かい、状況を確認する。
幼女の頭には動物の耳がついている。いわゆる獣人というやつだろう。着ている服は巫女服で、割りと上質な生地を使っている上に魔法が付与されている。
そんな幼女の逃亡防止の為だろう、両手両足に拘束具、首にもご丁寧に首輪をつけ、鎖をつないでいる。こっちにも魔法、なんか邪悪な感じがするのかかっているので≪魔法消去≫と≪装備破壊≫で解放する。
ここまでやって、少し冷静になった。
……あんまり考えたくはないけど。考えたくはないんだけどね。
ここまでガッチリ(たぶん誘拐を)やるってことは、実は相当マズイ連中と敵対した?
助けたことに後悔はないが、冷や汗が流れ落ちるのはしょうがないと思うんだ。
読んでいただきありがとうございます。
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