平日:ミイラ取りがミイラになる
「元ボス? え? お主は何を言っておるのじゃ?」
「信じたくない気持ちは分かるけど、本当。細かい説明は省くけど、運よく勝てた。ただ、勝ち方に問題があって、ついてきた。正直ついてきた理由は俺もそこまで気にしてないから、詳しく知りたいときは本人に聞いて。教えてもらえるかどうかは知らないけど」
リアとの関係、この件について俺が説明できることは少ない。状況を説明することはできるけど、できることはそれだけ。
こちらに来た時から理由のわからないことが多すぎて、考えるのを放棄している自覚はあるが、結論の出ないことに悩むのは難しいのだ。リアの考えは分からないが、今は「身内で頼れる」と、これだけ把握していればいいし。
迦月に話す理由の半分は、迦月自身を信用したから。
肩を並べ、刃を交えればある程度人格は分かる。不必要にこの話を広めることはないだろう。他というか“上”に話すだろうが、それについては危惧していない。16階層に連れて行く段階でバレるのは分かっていたし。
残り半分の理由は考えるのに疲れたと言うだけ。
戦闘能力を見せた段階で細々とした隠し事をする意味が無いのだ。あとはなるようになる。楽観的と言われるだろうが、色々と諦めただけだから悲観的になっているってのが正解。失敗で気力がなくなったというのも大きい。
俺の暴露に迦月は悩んでいるが、メイドさんらは俺と同じく考えることを放棄したようで平静にしている。難しい問題は上司の考えに従うって姿勢ができているんだろうね。もしくは上司の考えを聞いてから自分の考えを決めるとか。今は選択肢を洗い出すだけでいいなら慌てるタイミングじゃないよね。
俺が迦月の考えがまとまるのを見ていると、莉理さんが前に出た。
「アルヴィース様に、伺いたい事があります」
お? なんだろ。
「お嬢様の質問に、正しく答えていただけますか? 先ほどの答えは、その後の予定を語るだけで理由を言わずに済ませています。なぜ16階層に連れて行こうとしたのか、その理由を教えていただきたいと思います。なお、戦力の確保などというつまらない嘘は吐かないでいただきます。独力で16階層を攻略したという言葉が本当であれば、我々を戦力として組み込む意味がありませんから」
ダメだなー。交渉はやっぱり苦手だ。隠し事も出来ないとか。
迦月だけなら何とかなるんだけど、迦月が嘘を見抜いて後ろがその情報を基に考える事で、俺の交渉スキルでは勝てない交渉を仕掛けてくる。
「降参。目的は迦月の自立。20階層攻略でもすれば箔が付くし、偉いさんには縛られずに済むと思ったんだよ。自分と民衆には今より縛られるけど、元々それなり以上の立場だし、そこは誤差の範囲かなーってね」
両手をあげて降参のポーズ。
この辺は言わずに済ませたかったんだけど。
俺の魂胆を知った莉理さんは呆れ顔で、後ろの楓さんは楽しそうにしている。いや、楽しそうというには少し黒い笑みを浮かべているように見えるな。
莉理さんは呆れた顔のまま俺を糾弾する。
「考えが足りませんね。お嬢様は自分の意志と願いで動いています。どのような立場にも相応の苦労はあるし、貴方の考える未来がより良いと言うには根拠が足りません。
何より、我々の意志を無視して事を進める以上、貴方と貴方の言う偉いさんのどこに違いがありますか?
違わないでしょう? 貴方は貴方の感情が認めるように、お嬢様の進む道を作ろうとしているだけです」
耳が、痛い。
確かに、それが迦月の為というのは俺の判断であり、迦月の望んだ未来とは違う可能性を多分に含む。
言われる事が正論だけに、反論など出来ずにただ黙って相手の言葉を聞くしかない。
「それに、貴方はお嬢様をどう思っていますか? 今あなたが手を出し助けたとします。自立を促し上手くいったとしましょう。
しかしその後はどうします? 貴方はお嬢様をその後も助け続ける意志を持っていますか? お嬢様はいずれ国に帰ります。その後も助ける覚悟と意志がありますか? そのような事を考えてないでしょう?
軽い一時の気持ちで、お嬢様の深いところに触れようとしないで頂けますか」
莉理さんの声は静かに、だが強く俺を攻め立てる。
どうやら、戦う力が優れているからと調子に乗っていたらしい。出来る事と出来ない事、やっていい事いけない事、それらの区別を付け損ねたようだ。
自分のやり方は間違いだった。まずはそれを認めないといけないようだ。
「すまない、考えが独りよがりになっていたようだ。どうか、許してほしい」
悪いと思ったなら、まず謝るしかない。
それで許されるかどうかは横に置き、迦月に向かって素直に頭を下げる。
誠意を示すには、言葉と態度で表わすのが筋だろうと思ったから。
莉理さんの説教を、途中から眺めていた迦月はどうでも好さそうに手をパタパタ振った。
「よい。アル殿との戦いは妾達にとっても有益じゃった。そちらの思惑がどうあれ、妾が自ら選択したことゆえ、責める心算は無い。むしろ、その事より刀を軽く扱った事に反省してほしいのじゃがな」
ずいぶんとあっさり言われて少し気が抜けた。
大物というか、たぶん周りの思惑に晒される事に慣れているんだろうな。だから俺がいろいろ画策したのもいつものことで気にならない。戦闘はともかく、人格面では敵いそうにないね、これは。
っと。そういえば、一つ言い忘れていた事があったな。
「スマン。言い忘れていたけど、あの刀、完全に修復されるのにあと1日ほどかかるから。今回の決闘の報酬としてちゃんと渡すから、それまで待ってくれないか?」
「ほえ?」
「あの刀の鞘、収めた刀の修復能力があって、刃が折れただけだから2日もあれば元に戻る――って、どうかした?」
なぜか迦月が驚いた顔でこちらを見た。最初に「決闘をしたらあの刀を渡す」って約束してたし、それはきちんと守る心算なんだが。
1日使っていたけど、鞘の修復能力には気が付かなかったみたいだね。もしくは「折れた=直らないほどの破損」って認識か?
武器の完全破壊って、刀なら刃と柄の両方が壊れなければなんとかなるんだけど。むしろ柄が壊れた時の方が直るのに時間がかかるんですけど。
「おお、そうかそうか」
喜色満面の迦月を見て、今回の件は尾を引かずに済みそうだと安堵した。
後ろのメイドさんらは俺に対し少し厳し目の評価を付けただろうけど、自分の未熟さについては自覚できたし、正当な評価と思うしかない。
それにしても、いろいろと自粛した方がよさそうだな。
しばらくソロで動くか。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。
7月15日 2:54 誤字修正
×軽い一時の気持ちで、異常様の深いところに
○軽い一時の気持ちで、お嬢様の深いところに
×1日使っていけど、
○1日使っていたけど、




