決闘:黒猫娘の最後の意地
昼飯を食べ終え、軽く昼寝をしてから迎えた決戦の時。
ギャラリーは、今回はなしとフィリスにお願いしたので、審判のリア以外は誰もいない。マップ上も無人であることを確認している。
俺の装備は引き続き魔術師スタイル。
迦月は布鎧に魔法防御を頼るのをやめ、速度重視で風の魔法を付与された衣服に身を包んでいる。武器は脇差二本に変えている。手数で攻めるつもりなのか?
莉理さんは金属鎧と、回避を捨ててはいるが安定の防御特化を選んだ。鎧を見る限り、午前中に見せた初級魔法ではダメージが期待できなくなるほど魔法防御を高めている。初級魔法では、厳しいか。
楓さんはバランスタイプ? やはり魔法防御を高くしているが、布鎧だから機動力を捨てたわけではなさそうだ。物理防御だけ切り捨てたのかな? 気になるのは武器で、手にした弓はともかく矢の方は何か力を感じるから、使い捨ての魔法の矢っぽい。
距離10m程度のところで俺たちは向かい合う。
俺は緊張感のかけらもなく自然体だが、迦月はやや青い顔で虚勢を張り、後ろの二人は怒っているのが良く分かる。迦月はともかく、メイド二人は感情を隠す気がなさそうだ。
「アルヴィース様、お覚悟を」
「お嬢様に手をあげた罪、軽いとは思わないで」
迦月は口を開こうとしないが、後ろの二人は饒舌だ。だったら俺も少しは煽ろう。
「一つ提案があるんだけど……?」
俺の言葉に莉理さんが眉をひそめた。
「もし俺が負けたら、一人一つ、俺ができる事ならどんな事にでも従おう。もちろん、この「どんな事にでも」には俺の命を含む」
死ねと言われたら死ぬよ?
そういう意味であり、同時に「絶対に負ける事は無いけどね」という傲慢を含む。
この発言には誰も大きな反応をしなかった。
迦月は勝つヴィジョンが無いのだろう、最初から胸を借りるつもりで全力を出すだけに見える。表情に変化はまったくない。
莉理さんは少々目が細くなり、やや怒ったようにも見えるが、激昂してはいない。
楓さんは逆に面白そうな表情を浮かべている。
あれ?
失敗だったか?
まあいいや。
リアに目配せすると試合の開始を頼んだ。
迦月たちも準備はできているし、朝に続きコインが舞う。
地面にコインが落ちると同時に俺たちは動き出す。
迦月と莉理さんは一気に距離を詰めようとする。迦月が無防備に前へ出てはいるが、すぐ後ろにいる莉理さんは回復魔法の使い手。ダメージは回復魔法でどうにかする作戦だろう。迦月が俺を捕まえれば莉理さんが追いつき、攻撃を引き受ける。彼女らの連携はダンジョンの中で何度も見ている。
対する俺は二人から距離をとりつつ≪金剛石の投槍≫を三人の顔面へ、≪氷の投槍≫を接近しようとする二人の足元手前へ撃ち放つ。
≪金剛石の投槍≫は直撃即死コース、≪氷の投槍≫は足止めと同時に足場を悪くするものだ。≪金剛石の投槍≫は三人とも回避し、楓さんが少しかすったようだが全員無事と言っていい。≪氷の投槍≫は二人の進路を塞ぎ減速させることに成功した。顔と足元の同時攻撃は慣れないとうまく処理できないよね。
距離を離すことに成功した俺は≪炎の鞭≫で横薙ぎ一閃、上と下以外は逃げ場のない攻撃を放つ。
これには迦月はバックステップで莉理さんの後ろに回り、矢面に立つことになった莉理さんが鎧の魔法防御能力に≪小盾≫で炎を受け止める。
それなりに威力はあったんだけど、≪炎の鞭≫は莉理さんのHPを僅かに削っただけで終わった。
さて、ここから初級精霊魔法の連打をすれば午前中の焼き直しができる。いや、莉理さんがいるから中級精霊魔法の連射じゃないと厳しいか? どちらにしてもMP切れの可能性が高いからやらないけど。
午後は午後の戦い方を、しようじゃないか。
「約定に従いその姿を現せ≪召喚・天使≫×3」
ここ最近まともに使わなかった≪召喚・天使≫。
レベル70とあまり強くない下位に属する天使を呼ぶ上級の召喚魔法。天使の姿はオーソドックスで、頭に輪っかのある羽根の生えた人の姿をしている。鎧に身を包み剣と盾を構えるその姿はそれなりに神々しい。
本来なら召喚に時間がかかるんだけど、先に召喚して出番待ちをしてもらっていただけなので近場から呼ぶだけという簡易召喚で呼びつけてみた。魔力の消費はきつかったけどね。
レベル的には3人より弱いけど、一時的に数の有利を得ると同時に、まったく対策を立てていないところから攻め立てている訳なので今回は有効だと思う。
迦月らはこの突然の乱入者に一瞬気を取られ、致命的な隙を作る。
もともと≪炎の鞭≫で止まった足はすでに再起動し、俺のところへ駆け寄っていた。間に現れた天使たちは目の前だ。そんなところで隙を作れば。
「きゃあっ!」
莉理さんは天使の持っていた剣に斬られてゲームオーバー。鎧の隙間を斬られればひとたまりもない。
迦月は天使の一撃を何とか回避したようだが、体勢を崩してしまった。
そしてその好機を俺が見逃す理由もなく。
「≪天使封剣≫!」
天使1体をワンドに付与し、ワンドを柄に非実体の剣を作り、迦月を斬る。これで迦月は倒れ、戦闘不能になった。
これは≪魔力武具作成≫の応用で、魔力を武器化するのではなく武器に封印した天使・悪魔・精霊・死霊などの力を武器化する俺の戦技。前回のアラスティア戦でやりたかった事の一つでもある。
残った者の意地とばかりに楓さんが矢を放つ。
天使の1体が盾で防ぐが爆発を起こし視界を遮る。そこへ矢継ぎ早に5本の矢が飛び天使の1体が消滅し、強制送還された。
なかなか頑張ってくれたがそこまででもある。
俺が楓さんにダッシュで近づき、剣を一振りすれば弓を断ち切り戦闘不能に追い込む。
迦月は全身全霊を見せることもなく、これで俺の勝ち。圧勝である。
そう思った。
目の前の楓さんの状態を確かめ、決闘が終わったと思った俺だが、危険を察知し弾かれたように後ろを見る。
すると完全に接敵した迦月がそこにいて、俺に脇差を突き立てようとするところだった。
かなり予想外の展開に俺は反応しきれなかったが、召喚した天使がなんとか迦月を≪盾攻撃≫してくれたので無事に終わった。
迦月はその一撃で完全に気を失ったので、リアが俺の勝利を宣言する。
『暗殺者』だけに、死んだふりで油断を誘ったってことかな?
最後はちょっとヤバかった。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。
7月13日 0:43 文章修正
×ギャラリーは、今回はなしとフィリスお願いしたので →
○ギャラリーは、今回はなしとフィリスにお願いしたので




