平日夜:黒猫娘の審問会
夜。食後しばらくしてから迦月がリアを伴って俺の部屋にきた。メイドさんたちは言わずもがなである。
「とりあえず、手持ちで贈答品になりそうな物を出してみた」
ソファに座り向かい合う。
間のテーブルに俺は手持ちの品々で贈り物になりそうな宝飾品と工芸品、魔法道具を出してみた。
宝飾品はゲームからの持ち込み品の中でも最後に手に入れた奴の中から適当にランクの低い物を10数点。ランクが低いと評価したが、軽く魔力を帯びているので実用品に近い。逆にそれが贈りやすそうだと考えた。
工芸品は前にリアと露店を見て回った時に手に入れた品で、これについては迦月の目利きを試すつもりで出しただけだ。値段をバラした後の反応を期待しているともいう。だいたい金貨500枚ぐらいの物が4点。一番高い漆器は俺判断で金貨2000枚。持っているのが俺ならネタにはなるだろう。買った時は合計しても金貨100枚しなかったけどね。
魔法道具は護身用の防御魔法を展開する使い捨て。見た目も適当な自作アイテムだ。見た目に拘らなかったのは前にフィリスに贈った腕輪を考慮した結果だ。あれは俺が作ったと言ってあるし、同レベルを送れば俺が作った事はバレるわけで。さすがにそれは迦月の面目を潰しかねない。
「お主、いったい何者じゃ? コレだけの物を揃えるのは並大抵の事ではないぞ。それこそどこかの大貴族や王族ぐらいであろう?」
迦月の目は漆器に向けられている。なかなかの目利きだと言える。お付きのメイドさんは二人とも宝飾品に目が行っている。この二人、宝石関係が好きなのかね?
3人とも直接触れないのは物の価値が分かるからか職業上のプライドか。気が抜けているとゆらゆら揺れる尻尾がピンと立っているあたり、目の前のお宝に興味津々のようだ。
「触っていいですよ。ちなみに、これらはこの街の露店で買いました」
「ほうほう、このようなものが露店に流れるとは……この街の露店は面白そうじゃな…………」
返事も適当に、漆器を手に取り眺めている迦月。後ろに控えるお二方も指輪を付けたり首飾りを胸に当ててみたりと楽しそうだ。
しばらくたっても迦月は帰って来ない。メイドさんらは宝飾品を何度も手に取っていたからか魔力を帯びている事に気が付き、目つきが変わっている。たぶん≪鑑定≫してるな、あれ。
ちなみに静かにしているリアは何をしているかというと、俺にもたれかかってウトウトしている。完全に寝てはいないので今は大丈夫だが、寝るなら部屋に帰りなさいと言いたい。客の前では言わないけどさ。
「ふぅ、堪能させてもらった」
30分ほどして迦月がようやく帰ってきた。
メイドさんらの復帰はもう少し早かったが、その間俺に疑惑の目を向けていた。言いたいのはたぶん「本当に露店で買ったのか?」だろうね。
「しかしこの漆器、セレスティア殿への贈り物としては少々値が過ぎるな。儂らには分不相応じゃ。他の物ならギリギリじゃが、今一つピンと来ぬ。済まぬな」
漆器から目を離さずに言う姿は未練タラタラで、購入を勧めてみたくなる。だが本当に買われた場合は、この主従の明日が心配になるかもしれない。彼女らが使える毎月の予算など知らないが、適正価格で売るなら安い買い物じゃないからね。安く売れば怪しまれるだろうし。自分からは何も言わないでおこう。
では片付けてこの後の話を、と思ったらメイドさんが迦月に何かコソコソ耳打ちした。
すると迦月は宝飾品を手に取り≪鑑定≫し始めた。
いくつか手に取り≪鑑定≫したあとにメイドさんと目配せ。うなずき合う主従。おいおい、いったい何に気が付いたんだ?
「アル殿。一つ、訪ねてもよろしいか?」
「答えられる範囲なら」
「この場にある品々。露店で買ったと言うがそれは真か? その工芸品ならまだ分かるのじゃ。見る物によっては価値も分からず放出されかねん品だからの。だが、その宝飾品は違う。宝石であれば見ただけで高価であると分かるだろうし、なにより魔力を帯びている。本当に、露店で見つけたのか?」
「何か脛に傷を持つ人の出した店かもしれませんね。正規の場所では売れない事情があったとか」
「では、これらをいくらで買ったか聞いても良いか?」
「ええ、構いませんよ。これが――」
疑われるのは想定済み。全て相場の半値を言い、疑問を封じようとしたが、ちょっとやりすぎたようで。
「成程。相場の半値程度で売っていたか。なかなか手の込んだ嘘じゃな」
「……何を根拠に。誓って言いますが、ここにある物はすべて不正に入手した品ではありませんよ」
「少し違うのではないか? ドラゴンを倒して手に入れた品、であろう。それも高位に属するドラゴンのねぐらにあった品じゃろうな」
「いやいやいやいや。このあたりにそんなドラゴンがいたなんて話は聞いた事無いですよ?」
「ふむ、まあ普通はそう言うであろうな。妾も聞いた事がないの。それに自分で言って信じられんしのぅ。これらに宿った思念を読み取れねば、誰に言われたとて一笑に付したであろう」
「っ!?」
残存思念の法!?
ゲームではイベントで習得する魔法がこちらではスキルか何かとして使えるってことか!? 俺の使えるのとは微妙に違うが、あちらの方が応用範囲が広いかもしれない!
不味い、いろいろこの状況は不味い!!
「……見ての通り、ただの、とは言い難いかもしれませんが、まだまだ子供の俺にドラゴン退治なんて出来る筈がないでしょう。他より腕がたつとはいえ、人間出来ることと出来ない事があります」
「急に戻った口調とその態度だけでも儂の疑念は当たりだったと思うのじゃが?」
どうやら、年齢以上の交渉スキル保有者のようだ。俺のそっち系スキルは全然成長しなくて1とか2レベルばかりだし。分が悪すぎる。
このまま誤魔化そうとしても無駄だろうね。頑張れば出来るかもしれないが、今後も頑張る必要が出てくるだろうし。さっさと諦めた方がよさそうだ。
「降参。やり難いなぁ、今日はやられっぱなしだ。ダンジョン前でもやられたし」
「妾は偽りを見破る力が強いのじゃ。生半可なごまかしは通じぬと思って良いぞ」
脱力してソファにもたれかかる。俺に体重をかけていたリアがずり落ちて膝枕を超えて倒れたが気にしないでおこう。
それよりも迦月のこの言い方、スキル以外の何かがあるみたいだなー。
突くか?
「思念を読み取る謎の鑑定といい、ずいぶん多芸ですね」
「人の上に立つ者としての嗜みじゃよ。お主を信用して手札を明かしたのじゃ。他言無用で頼むぞ」
嗜み、ね。引っかかる言い方だけど、あんまり深く聞かない方がよさそうだな。最後の他言無用は「人に言うな」ではなく「これ以上聞くな」って意味だろうし。
「話、元に戻そうか。もう一度聞くけど、この中に使えそうなのはあった?」
「見事な品とは思うがやはり難しいの。これならいっそただの宝石を贈って「装飾はご自身で」と言った方がまだマシじゃ」
「あれ? 宝石そのままなら良かったのか?」
「うむ。例えばこれとこれと、あとそこにある物に付いている宝石なら祝いの品としては十分じゃ。季節の石で大きくカットが美しいから無難なようで珍しさもある。まあ」
「なんだ、外せばいいのか」
「ってお主何をするーー!!!!」
宝石単体が御所望なら付いている物を適当に外せば良かっただけである。教えてもらった宝飾品からそれなりに大粒のエメラルドを綺麗に取り外す。
なぜか迦月が絶叫したが、この程度の品なら解体しても惜しくないんですけど? あ、後ろのメイドさんが卒倒した。
「じゃ、これ格安で売るから。いや、決まって良かった良かった」
「良かった良かったじゃ、ない! お主、これにどれほどの価値があると思っておるのじゃ!!」
「魔力込みで金貨150~200枚? とりあえず50枚でいいよ」
「そうじゃが! そうなのじゃが! それを「50枚でいいよ」とか、お主の金銭感覚はどうなっておる!?」
「……安物にこだわる気は無いしなぁ」
「……安物…………。正気か?」
元気に暴れたと思えばいきなり魂が抜け落ちたいたいだな。呆然としている。
このへんはゲーム時代の金銭感覚が抜けきって無いのかねぇ。あまり惜しくないのは確かだし。ダンジョンで手に入った原石の方が今の俺には価値があるので、ティアの手に渡る事が確定しているならタダでも気にはしないんだけどね。
完全に燃え尽きた迦月。今日はもうまともに話をすることもできないようだし、お引き取り願う事にした。
エメラルドは渡して代金がまた後日。
やらかした感が強いので、今度、一般的な感覚を養う訓練でもした方がよさそうだ。相手が貴族とか特権階級の金持ちならそこまで驚かれないと思ったんだけど。
金銭ネタはトラブルを起こしやすいし、来年は本気でマードックさんの下で世話になった方がよさそうだ。商人ならいろんな人と関われるだろうし。金銭関係の常識を身につけなければ。
今後の予定について考えながら、最後まで寝ていたリアを部屋に送り届けた。
明日はタントリス教官の授業だし、作る物を作ったら早めに寝よう。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。
大きめの宝石は、だいたいが常連の取り置きになるので一見さんには売ってもらえません。
なので、迦月らが店に行っても買えるのは小粒の宝石をいくつか使ったものしか無かったのです。
迦月は嘘を見破れても交渉事には向かず、きっちり誤魔化されています。
アルが何者かという部分は聞き忘れ。
もう一回気にするまで忘れている事でしょう。




