平日夜:黒猫娘の悩み事
突然の乱入者に見られたくない場面を見られた。
冷静になれ、俺。
迦月嬢にこの湯飲み茶碗を使っているとばれたところで大きな問題にはならない。ティアにばれなければいいのだから。
俺は湯呑み茶碗を机に置き、話を聞く態勢になった。
よく見れば後ろにお付のメイドさん(×2)もいるが、彼女らは控えめに動くことを善しとする立場だし、黙っていてくれると信じよう。
まずは要件を聞き出し注意をそらそう。
「誕生日プレゼント選びの手伝いね」
「うむ。儂にはこの国の娘に贈る物がよくわからん。それでおぬしに聞きたいのじゃよ」
迦月来訪の理由はシンプルだった。
知り合って間もない娘さん(もうすぐ6歳)に贈る物について悩んでいたのだ。
さすがに親のフィリスに頼るのは論外なので、近しい人物の中から俺に白羽の矢が立ったと。
国が違えば贈り物に関する常識も変わるからね。俺もそのあたりはよくわかってないからとりあえず無難なものを選んだわけだが。
迦月は身分とか立場の都合上、変なものを贈れば評価が下がる。逆に短期間でこちらの常識を学び、歓心をかう贈り物ができれば評価が上がる。高い身分ってやっぱり厄介だね。
手伝うのはあまり問題ではない。俺からの贈り物ではないとはいえ、ティアが喜んでくれる方がいい。いざとなれば俺が薦めたとして迦月のフォローもしやすいし。
ただ、贈り物ってどんな意味を込めるかも重要だし、方向性ぐらいは決めてもらうけど。
「何か候補はありますか? ただ俺が選らんだものを渡すわけにもいかないので」
「うむ。それなのだが、儂が最初に考え付いたのは『練習用の木刀』なのじゃ。儂らの国では男女の区別なくほとんどのものが幼いころより剣の修練を積んでおったからのぅ。しかしセレスティア殿はどう見ても剣に興味を持たず、どちらかと言えば魔法使いよりの女子じゃ。ならば杖かと思えば、魔法の修練をする心算も無いように見える。そうなると何を贈ればよいのか……。アルヴィース殿はセレスティア殿の将来について何か聞き及んでおらんか?」
どうやら迦月の贈りたい物は『将来の夢を助ける物』らしい。
迦月の国では強さを求めるのが当たり前、だから剣や魔法の修練をする。
剣の修練をするのであれば良い木刀を、魔法の修練をするのであれば良い杖やその他魔法の品を贈ればいい。だけど、強くなる為の修練をティアがしていないのである意味「基本」から外れたものを贈らなければいけなくなったと。
まあ、この街の学校を見れば強くなるための修練を積んでいそうだと勘違いしても不思議はないが、それ以外の発想が無いっていうのはかなり問題じゃないか? 装飾品や日用品を贈るっていう発想はないのか。
と思っていたらメイドさんが補足として、装飾品や日用品は送り手の意図と違う解釈をされる可能性が高いようだからパスしたと教えてくれた。使う宝石とその並びだけでも相当複雑な解釈があるらしく、同じ種類の宝石でも並び順をかえただけで祝福とも侮辱にもなるらしい。いままでそんなことを考えていなかったし、俺、フィリスの誕生日に贈った腕輪に宝石をいくつか使っていたんだけど……。俺は貴族じゃないし、何か失礼な意図がある組み合わせでもそちら側の考えに疎いということで見逃してもらおう。
ちなみに、店の人に聞けばいいのにと思ったが、それもダメらしい。予算の都合でできなかった場合も自分の評価を下げるからね。事前に予算が把握できない店員任せは、予算提示で買う事も含めてやりたくないみたいだ。
とにかく、方向性は自己研鑽に使うものをメインに考えよう。
俺の中でティアのイメージは巫女さんだ。
かと言って迦月の国の巫女装束を贈っても……いや、初めて会ったときに見たあの恰好って同系統の巫女装束だよな。
ちょっと聞いてみるか。
「迦月様たちにお聞きしたい事があります。そちらの国の巫女装束についてですが…………」
初めて会った時の格好について説明する。
俺に会う前であれば何らかの意図があってあの服を着ていたことになる。今はフィリスの「俺を誘惑するための衣装」が混じるために参考にならない。
俺が説明を続けると、迦月たちの反応は少し微妙だった。
国が違えば神も違い、着るものについても変わることが多いようで、異なる神を信仰する者になにか宗教的な贈り物をするのはNGになるっぽい。
つまり、もしフィリスがティアの意志を汲んであの恰好をさせていたと仮定すれば、宗教系はダメということになる。
自爆覚悟で、嫁入り修業的なものを提案してみるが、それは相手を未熟とし、馬鹿にする意図も含んでしまうのでやっぱりダメだと言われた。木刀とかは消耗品だからOKらしい。そもそも、ティアは伯爵令嬢なんだから家事関係は論外だった。
俺が考え付くものはダメだというものか推論頼りの不安が残るものが多かった。
俺の引き出し、そこまで多くないなぁ。
ティアと仲良くなるために一緒にいることは多かったが、なんだかんだいって受け身になっていたようだ。そのせいでティアに対する情報が少なく「相手が自分の事を知ろうとしているのに対して、何もしていないのでは」などと不安になってしまう。これは反省が必要だ。
俺の出した情報は迦月にとって今後有益ではあるが今回はあまり使えないということで、この場はお開きになった。
ちなみにこの時は湯飲み茶碗とティアの話で俺の頭は占められていたために、大きなミスをしたことに気が付かなかった。
このミスはすぐには影響を及ぼさなかったものの、後に大騒ぎのタネになるのだが、今の俺に知る由はなかった。
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