星天:新たな旅はいつか始まる
大事なのは、これからも生きていく人です。
さて、MPKにまつわる後始末、というより最も重要な仕事をしようと思う。
それはもちろん被害者であり唯一の生き残りであるレミットさんの精神的回復である。
必要なものを取りそろえ、人に約束を取り付け、互いの予定を調整したら3日ほどかかった。
夜、天を見上げれば中天に満月がはっきりと見えるような時間帯。
セイレンの街中、学園にある広場のひとつに年齢様々な男女14人が集まっていた。もちろん、この集まりにレミットさんも参加している。
この場にいる人たちの表情は全体的に暗く、空気は重い。なぜなら、この人達は全滅したパーティの遺族だからだ。今回の被害者として、区切りを付けなければならない人をまとめて集めてみた。
あと一人を待ってたのだが、その人の姿が見えたので俺はリアに合図を送った。
「始める」
今のリアは神官のコスプレという事で、荘厳な錫杖(ただし見た目だけ)を左手に持ち、白のローブに金糸のケープ、厳かな冠に簡単な認識阻害効果を持つ仮面という恰好をしてもらった。俺はこの人たちを集めるのに奔走してのでこれからやる事を俺がやったと知られるのを避けるための処置だ。子供名探偵が自分で事件を解決しないような役回りだが、致し方ない。リアには頑張ってもらう。
代価にあとで本格的なタコスを作る約束をしたが、それぐらいならお安いご用である。
リアは左手に持った杖の石突きで地面を叩く。
俺はそれに合わせてこっそり魔法を使う。
≪残留思念の開放≫
≪疑似肉体の付与≫
使う先は借り受けた遺品。
それぞれ死んだ彼らが日常で愛用していた品々だ。
効果は簡単だ。物に宿る持ち主の思念に形を与え、触れ合い語り合えるようにする。とあるイベントで覚えた魔法でイベント終了後に使い道が無くなったが、今こうやって久しぶりに正しく使う事ができた。
ちなみに、対象になる遺品は何年も使い込んだ物か死に際の品に限る。死に際の品、装備品とかだと宿る思念が殺意に満ち溢れていたり絶望に彩られている可能性が高いので、遺族のもとを回って頭を下げ、なんとか全員分集めることに成功した。
俺の魔法が効果を発揮すると、死んだはずの人たちが生き返ったかのように姿を現す。出てきたのはごついおっさんたち4人にきつめの美人1人。男4女2のパーティだったか。彼らは一様に普段着で、姿だけはどこにでもいる町人に見える。魔法の成功を見て俺は安堵した。上手く思念体の作成はできたようだ。
呼び出された人たちは現状の把握ができず困惑し、あたりを見回すが遺族にとっちゃ知った事じゃない。遺族は二度と会えない人との再会に彼らを囲み、涙ながらに何か言っている。
しばらくすれば思念体の彼らも状況を把握し、何か語り合っている。
「あ゛あ゛アドバーグさ゛ん゛~~」
「おいおいレミット、オマエ女の子がそんな鼻水まみれになってどうするよ? 鼻かめ、ほら、チーンってな」
「うあ゛ぁ~~ん」
「あ~、冒険者の洗礼受けたの初めてだったか。今は泣いてていいけどな、さっさと泣きやめよ。いつまでも泣きやまない悪い子はこうだっ!」
「ひゃ、ひゃふぇてくだしゃい~~」
その輪の中にはレミットさんも混じり、泣きながら謝っているが慰められ、励まされ、叱咤され。そして最後に弄られ。遺族の人たちから苦笑が漏れる。
思念体の一人、ごついヒゲ親父がレミットさんの頬を摘まんで引っ張る。よく伸びるので楽しそうに。それから解放されれば次は死者のなかでは紅一点の美人さんがヘッドロックをかける。レミットさんがすぐにタップしてギブアップ。次は俺の番だと他の仲間が出てくればその人はセクハラだとか逆にレミットさんの逆襲を受け轟沈。全員で笑い出す。
仲の良さそうなパーティだったと心から思う。だからこそ、支え合っていたのか。少し離れて見ている俺は貰い泣きしそうになってしまった。楽しそうだから、騒いでいられる事が幸せそうだから。もうすぐ終わりを告げる事が悲しい。
1時間近く騒いでいたか。俺は時間だとリアに告げた。
「そろそろ時間」
リアの声が周囲に響く。その声は騒いでいた全員の喧騒を越えて透り、静寂をもたらした。
全員の視線がリアに集まる。俺は次の魔法を準備する。
「終わりのやり直しはここまで。だから」
リアはセリフを一回区切り、杖の石突きを再び地面にぶつける。
シャラン、という錫杖の奏でる音に、カツン、という地面を叩く小さな音。響けば周囲に現れる無数の光の珠。ホタルをイメージした≪明り≫の超多重起動による演出。
「旅立つ彼らに祝福を!」
セリフとともに地面を叩く錫杖。それに合わせて≪明り≫の明度を一段階上げる。
一拍置いて、
「祝福を!!」
今度は≪明り≫を閃光に変え視界を白く染める。
「じゃあな、嬢ちゃん」「レミット、いい男捕まえなよ」「1000年は来るなよ~」「かあちゃんすまねぇ、逝ってくる」「おやすみ~」
光で目を抑えた遺族の方々。彼らが目を開ける時には、思念体一同は最後に別れを残し、消えていた。
再び涙する遺族たち。しかし、最初にあった陰鬱な雰囲気は彼らに無く、どこか温かなものが残っていた。
きっと彼らの残した何かがあると、信じよう。俺に出来るのはここまでで、これが最善解かどうかは知らない。レミットさんは座りこんで泣いているが、ちゃんと自分で立てると思う。
これにてこの場は解散だが、最後に、どっかの漫画で見たセリフを口にする。
「死して旅立つ者たちよ、その道程に、魂に幸いあれ」
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