昼:古き怒りと裁きの鉄槌④
リアがレミットさんを連れてきた。打ち合わせでどこにいるのか、いつ来るのかは決めてあったので時間通りに来れたようだ。
正直、レミットさんはトラウマから回復しきっていないので来れない可能性もちょっとは考えていたんだけどね。
鎖で拘束してあるアホ坊とレミットさんを引き合わせる。
と言っても、アホ坊は眠らせてあるけど。
「じゃ、起こします」
レミットさんがうなずいたのを確認してから俺は≪無限の悪夢≫を解除する。
アホ坊は目を覚まし、頭を振って意識を覚醒させる。しばらく周囲を確認し、レミットさんを見て怒りの表情を浮かべた。
「貴様、こんな事をしてただで済むと思っているのか! 俺は公爵家の人間だぞ! 貴様らエルフごときが逆らっていい存在じグハッ!」
「スマン、ちょっと躾が足りなかった」
大声でわめく、反省の色が見えないアホ坊に一撃入れて黙らせる。
予定通りの展開なので、レミットさんの表情を観察してみるが……芳しくない。緊張しているともとれる、硬い表情。
「今回の件はレミットさんの判断に任せるよ。どんな結末でも後始末については俺が引き受けるし、感情のままに裁けばいい」
「……」
「アホ坊、真摯に謝れば多少は減刑してもらえるかもよ?」
「ふざけるな! なぜ俺があやグホォ!」
ここまで態度が一貫しているというのは想像力と理解力が足りないのか。それとも他の振舞い方を知らないというのか。
俺はレミットさんに視線を向ける。彼女はうつむいていたが、反省の色が見えない事、謝罪はあり得ない事を理解すると当初の予定通りの言葉を口にした。
「アルヴィースさん。後はお任せしていいでしょうか。方法は、上で話した通りに」
「了解」
苦渋の決断だろう、絞り出すように小さく断罪を求める言葉を口にした。そしてリアを伴い地上に帰還しに行く。
まあ、もし謝罪をしたら予定が狂う可能性もあったし。これで予定通りに事を進めれる。
アホ坊の頭をつかみ無理やり立たせる。
「≪大地よ我が意に≫≪石化≫」
「な、何の真似だ! おい、やめろ!!」
まずはアホ坊の体を固定する。
大地を操作してアホ坊の体の背中側を埋め、土を石に変える。石版に彫刻で彫られた魔物のような状態にする。
次に身につけているものが邪魔だから裸にひん剥く。
そしてちょっと特殊なインクと針を取り出し、
「はーい、激痛だけど死なないでねー」
「お、おい、ま…ギャァァァーーー!!」
額にインクを塗った針を刺した。
古代中国には入れ墨を彫る刑罰があったという。それが軽い罪なのか重い罪なのかは知らないが、「顔に入れ墨があれば犯罪者」という判別ができるようになっている。
エルフ式になると、一人殺すたびに顔か四肢のいずれかに入れ墨を彫る。こいつの場合は5人なので全身刺青が確定している。俺の趣味により胸、腹、背中も入れ墨を彫る事になったが。全身に手で彫るとなると数日間は拘束&拷問もどきが決定した事になる。せいぜい痛みにのたうち回ってもらおうか。
ついでに、インクには呪いを付与する効果がある。能力ダウンや体機能の不全など、エルフ的にはこっちがメインらしい。全部彫った場合、他人に自分を認識してもらえなくなる。結果としてポオタケの名は、二度と使えなくなる。名乗ってもポオタケであると信じてもらえなくなるのだ。
戦う力を奪われ、犯罪者の証を刻まれ、過去は全否定される。緩慢な死を強要される。直接殺さないから死刑じゃないけど、似たようなもんだね。
「一応考えの足りないアホ坊に補足。レミットさん、エルフの中でも若い娘さんだから森でも結構大事にされてるわけでね。エルフはこの国の住人じゃなくて独立した集団で国家みたいなものだし、今回の件が明るみになればエルフと国とが戦争になる。もちろんエルフだけが戦争をするならこの国が勝つけどね? 周辺各国が大義名分を掲げて侵略に来る可能性があるんだよ。その場合勝っても得る物が無く勝敗に関わらずかなりの被害が出る。それが予測できるなら公爵家もお前さん一人切り捨てるだろうね」
「そ、そんなはずは……」
割と悲観的な想像ではあるが、可能性はゼロじゃない。周辺各国の足並みがそろうのかどうかって話とか、問題は多々あるけど消耗して痛みに苦しむ中ではまともに否定材料を見つけられない様子。順調順調。
最初にやるのは額に「肉」の文字を彫る事。顔は俺の趣味によって変顔にしてしまう。針を刺すたびに悲鳴が上がるが、これ、鍛えても簡単には慣れないからね。
とりあえず今日は1時間頑張った。顔が半分ぐらい終わり、アホ坊は力無くぐったりしている。
帰る前にアホ坊に今後の話をしておく。
「入れ墨彫るのって時間かかるし。毎日通うのも面倒だから、1年2年、頑張って耐えるよーに。途中で壊れないでねー」
「ほ、本気で言っているのか? なあ、嘘だろ?」
「おお、ようやく現状が理解できた?」
「おい? ふざけるなよ? 早く解放しろ!」
「あ、ご飯ぐらいは出すよ。途中で死なせる気は無いから」
「俺の話を聞け!!」
顔半分の入れ墨が効果を発揮したのか。ようやく現状を理解して感情任せではなく必死に叫ぶアホ坊。だが、すでにそれは遅すぎた。
他の誰かにこの場が見つからないように偽装をして、帰る準備をする。
「まー、謝る相手はもういないし。今生はもう絶望しとけ」
アホ坊の心は折れかけている。やる事はやったし、俺はアホ坊に対する興味をほとんど失った。残りはただの作業であり、レミットさんへのフォローに使うだけだ。
俺はレミットさんへ最後に見せたいものを用意すべく、遺品探しをするために街中に向かった。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。
入れ墨は古代中国の五刑でも一番軽い刑罰だったんですが、ファンタジー仕様の為、極刑扱い。




