午前中:古き怒りと裁きの鉄槌②
MMOを長くやっていれば出会う可能性は高いです。
レミットさんはここ数日、ストーカー被害にあっていた。
相手は分かっている。ルースニア王国の公爵家、その長子ポオタケ=リル=オルコックだ。
彼は自分の妻になれと何度も誘いをかけてきたがレミットさんは興味を持てずに断り続けていた。
彼女自身はいずれ森に帰る身。公爵家に嫁ぐなど考えられない事だった。
誘いを何度も断られると彼は恥をかかされたと逆恨みをするようになり、様々な嫌がらせをするようになった。授業中だと仲間外れにされ、陰口をたたかれる。家には誰かが侵入した形跡があり、それをわざと分かるように隠していく。物を盗られたり壊されたりはしていないが、その被害の小ささが逆に官憲の目をくぐる事になり、まともな対策がとれなくなっていた。一応同じエルフの仲間に相談してみたが、森に帰る事を勧められ、それでは負けたようだと意地を張って学園に残っていた。
そこまでされれば嫌悪感も増し、レミットさんは余計に頑なな態度をとる。そして自分を受け入れないのが悪いのだと公爵家のアホ坊はさらに嫌がらせをする。完全に負のスパイラルに陥っていた。
それでも学園生として自分を高めるべくダンジョンに潜っていた時に、あの悪夢のような出来事が起こったという。
最初は順調だった。
レミットさんのパーティは15階層まで何度も足を運んだこともあるベテラン揃い。この日も苦もなく13階層まで降りた。
今日も15階層までの探索を行い、ボスを倒して帰還するつもりだったので、アイテムと装備のどちらにも余裕はあった。
仲間たちと談笑していたが、それでも周囲の警戒は怠ったりしなかった。それは彼女と死んだ仲間の名誉のために信じよう。
だけど、終わりは突然やってきた。
最初、レミットさんが気が付いた。足音が、それも大勢が走る足音が聞こえる、と。
次いで見えたのは何らかの魔法による姿消しらしきものを使った誰か。そしてモンスターの群れ。
初めはどこかのパーティがモンスターにやられ、逃げているのかと思った。彼らは探索者の流儀に従いその誰かを助けようとした。しかし、その姿を消した奴はあろうことか彼女のパーティに範囲攻撃魔法を叩きこんだ。
その時一瞬見えたのは公爵家のアホ坊。攻撃魔法を使って解除された推定≪透明化≫を再度掛け直すまでの僅かな時間、確かに彼の顔を見たのだ。
保護対象と思っていた相手からの攻撃魔法により最悪の開戦を余儀なくされた一行。モンスターと戦うための戦闘態勢をとっていたが、この先制攻撃により戦術は崩壊していた。
怯んだすきに襲いかかるモンスターの群れは50を超える。
次々に倒される仲間。
必死に生き延びようと弓を引き矢を撃つがそれでも力及ばずやられてしまった自分。
意識を失い、気が付いたらダンジョンの外でベッドの上。
しかも、運ばれてから3日が経過していたらしい。仲間の遺体は見つからず、だけど死んでいた事は運んでくれた人の証言で確定している。
全てを理解し動けるようになったのが一昨日の夜だった。
だとすれば、最初に俺たちに怯えていたのは連中の仲間かもしれないっていう可能性を考慮してたからか。
助けたのか、それともさらに追い込むために生かしたのか。その判断が付かなかったのか。そんな連中と仲間扱いされるのは気分が悪いが、俺は知らない人なんだし、しょうがないだろう。
同じ授業を受ける生徒とは敵対してしまったようなものだが、パーティの仲間はレミットさんを受け入れてくれていた。仲間といる安心感からレミットさんにはこのダンジョン探索だけが心の支えに近かったのだろう。
その仲間を失い、いや、自分のせいで殺されてしまった事に目の前の彼女は深く傷ついている。
MPK
彼女がされた事は、そういう事だ。
モンスターの群れをトレインして、他のプレイヤーになすりつける。
そして、死んだ彼らからアイテムを剥ぎ取る。モンスターに殺されたのだから自分たちは悪くない。奴らの言い分はそんなところだろう。
俺はあの時周囲のプレイヤー状況を確認していたが、マップに表示される範囲には誰もいなかった。モンスターだけだ。
俺のようにマップが使えないのだし、戦闘音が聞こえるか聞こえないかのギリギリまで逃げたのだろう。何か監視アイテムを使っていたかもしれない。奴らは死体から装備を剥ぎ取った。
一昨日の夜、仲間の遺品が見つかったと言われて見たのは、弓に射抜かれた仲間の革の胸甲。心臓の部分に穴があき、使い物にならない物が捨ててあったのをエルフの仲間が見つけたのだ。
他の使えそうなものは売却されていたらしい。昨日調べたら、あの日持ち込まれたらしい事が分かった。
おそらくわざとだ。見つかるように、警告とか見せしめとか、そんなくだらない事の為にそこまでやったのだ。
俺も装備を剥ぎ取ろうとしていたとか言ってはいけない。ニュアンスが違う。
殺す。
こいつは、必ず殺す。
怒りが限界を突破したのがわかる。
彼女自身、悲しみを超える怒りでようやく動き出せるようになったのだと言う。
彼女はダンジョン内でアホ坊の顔を見たが腐っても相手は公爵家の長子。それだけでは裁けない。そしてそれ以上の証拠を見つける手段は無い。ダンジョンの入れ替えが発生し、すべてがリセットされてしまったからだ。
そもそも、あの日の後に俺が確認しに行ったが何もなかった。今更証拠集めはできない。
レミットさんが俺のところに来たのは、俺が何らかの証拠を持っていないか、証言をできないかというのが一番大きい理由だった。
残念ながら、俺はこの件については何も知らない。
証拠とか証言はできない。
だけど、あの下種野郎をどうにかする事だけは決めた。証拠とか必要ないって話は、こちらにも通用するのだから。俺が情報を集めるまで、せいぜい余生を楽しんでもらおう。
俺の思考が冥いトコロに降り立とうとしていた時、リアが服を引っ張った。
「それはダメ。決めるのはレミットの権利」
思考を読んだのか、俺のやろうとする事にリアがストップをかけた。レミットさんは何かよくない雰囲気になった俺に恐怖し固まっていたが、そっちは一回無視する。
「大勢の為にも、一回消した方がいいだろ、絶対」
「話を聞いただけの私たちが決めちゃ駄目。彼女が始末するべき」
放置すれば同じことが繰り返される。俺はそいつを消去した方がいいと主張する。
だが、リアはレミットの為にも彼女自身が決着を付けるべきだという。
ならば彼女が決着を付けた後にこっそりやればいいのかというと、そういう問題ではない。一回彼女が決着を付けたのであれば、その後の事も彼女の決断の結果となる。
俺とリアは睨みあうが、そもそもレミットさんがどのような決着を付けたいのかを聞いていなかった事に思い至る。
「「レミット(さん)」」
「は、はいぃ!」
名前を呼んで固まっていたレミットさんを再起動させる。
「レミットさんはそのアホをどうしたい? 捕まえて、やったことを認めさせて、謝らせて。そこまでは俺がやる。その後、どう裁くつもりだ?」
それ次第で自分でやるか、任せるかを決める事にする。
……
…………
レミットさんはエルフ式の刑罰で済ませるつもりらしい。
俺はレミットさんのアイディアを採用することにした。
ある意味殺すより酷いな、エルフの刑罰は。いや、俺も参加して酷い事にするんだが。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。
エルフの刑罰は古代において実際にあった刑罰です。
アホ坊の名前はプログラムを使いランダム作成してみました。今回の件が終われば二度と出てこないので適当です。




