再戦:月下の闘い
駆け出してから接敵するまでの0.5秒。それを準備時間にあてる。
初手。切り札その一を使う。
≪超絶化≫、発動
≪超絶化≫は俺の使える最高の強化魔法。全ステータスの50%アップとかなり凶悪な効果を持つ。
ただし、最初の10秒はいいのだが、10秒を過ぎると代価として1秒ごとに最大HPの10%を持っていかれる。ついでに、効果終了後にリアル時間で3日ほど全ステータスが90%ダウンする。デスペナよりもきつい。「Brave new world」では再使用時間などはあまりないのだが、あの手この手で制限をかけてくれる。
使うのに詠唱も必要なく、一瞬で効果が表れる。
俺のステータスは精神力が最も高く、これは魔法防御能力と、召喚魔法の維持限界に直結する。あとは最大MPにも関わるのだが、今は関係ない。
強化された中で切り札その二も切る。
「全魔装填。≪精霊軍団≫・≪解放≫」
こちらに来てから召喚魔法に使う触媒をチマチマ作成し、召喚し、契約し、アイテムに封じる。6カ月かけて揃えた炎の精霊たち50体と光の精霊たち10体。
ゲーム中の金銭感覚で言うなら20億G以上はするであろう大盤振る舞い。まあ、他に使い道もないし。ダンジョン攻略をしばらく諦めればいいだけだ。
精霊たちを喚んだ反動で精神に負荷がかかり、MPを大量に消費する。実に半分以上持っていかれた。≪超絶化≫とあわせて7割は削られた。事前にある程度魔力を渡す契約だったからまだこの程度で済んだが、やはり召喚はMPに優しくない。その分MPが成長しやすくなっているが、限度というものがある。かなりきつい。
準備が終わるころにはアラスティアとの1合目。
振るわれた一閃は唐竹割り。両手を剣に添えた剣道の教科書通りみたいな一撃。
攻撃範囲は片手半剣の相手に分がある。しかし、その方が都合がいい。≪一閃≫で右の剣を逆袈裟に切り上げ、合わせる。
アラスティアの一撃目は様子見なのか、戦技を使った形跡はない。だがアラスティアも何らかの強化魔法は使っているのだろう、前回の2倍以上の重さを持つ一撃に俺の剣が弾かれる。
しかしこちらは双剣。片方が弾かれようともう片方を決めればいいだけだ。もとより弾かれるのは計算のうち、それを利用する形で動いているのだから。
弾かれながらも手首をひねり、剣を逸らす。剣を振った勢いとかかる荷重で右手首にそれなりのダメージが入るが俺の身体が左下に流れ、回避には成功。おい、アラスティアの剣じゃなくて俺の身体が流れるって、どこまで凄まじいんだ?
驚きながらも身体は反射的に次の行動に移る。左の2撃目こそが俺の攻撃であり、本命である。
喚び出した炎の精霊1体を剣に封入。魔法を封じる魔法剣ならぬ、精霊を封じる精霊剣。使い勝手は魔法とあまり変わらないように見えて応用範囲が広い。初撃はただ威力を上乗せして切りかかる。
しかしアラスティアはこれにあっさり反応して見せる。
≪連撃≫ではなく≪切り返し≫で唐竹から逆胴に移行。俺の右は先ほどのダメージと左の一撃を繰りだす最中ってことで反応できず。咄嗟に≪小盾≫だけ間に合わせたがほぼクリーンヒット。魔法と鎧のおかげで切られてはいないが、凄まじい衝撃に吹き飛ばされる。
当然攻撃は失敗し、相手は無傷。しかも≪氷の槍≫を5発同時起動させて追撃までしてきた。
吹き飛ばされた俺に出来る事は無く、炎の精霊を壁にしてダメージを防ぐが精霊は見事に消滅、かなりやばかった。
この時点で≪超絶化≫から2秒、俺の猶予はあと10秒に満たない。
正直やばいを通り越して絶望的である。第三形態。戦うのは久しぶりだが、切り札5枚全部使ってHPを2割削るのがやっとの化け物。かなり酷い。
≪極光の一撃≫と≪女神の盾≫≪不死≫が使用不可。これほど心細いのは久しぶりである。
知ってたけどね。
第三形態相手だと、勝てないのは承知の上。だからといって手を抜く理由は無いけど。
では、せめてもの反撃と往きますか。
周囲にいる炎の精霊たちの約半数に俺ごと範囲魔法で攻撃を加えるように指示。もし精霊を先に排除しようとするならば、大技で周囲の精霊ごと攻撃をするだろう。それについては光の精霊に防御態勢でいるよう伝え、時間稼ぎをする。それよりも俺が攻撃を加え、精霊に意識を向けさせないのが肝要だが。
あんまり魔力を消費させると俺が使う時に希薄になるから、安易に全軍投入できないのが難点。
体勢を整え炎の精霊5体を纏い左の剣にも炎の精霊を封入。≪神速・迅閃≫から≪紅蓮走破≫で突貫する。剣に封入した精霊も合わせて7体分。全開放すればかなり削れる。
この時の距離は約5m。一瞬で詰める事ができる。回避はさせない。
身に受ける攻撃魔法の≪炎嵐≫を追加で纏い、威力を収束させ繰りだす『紅蓮走破』は、ダンジョンの時に使った『氷結の庭』や『千桜走破』の倍以上の威力がある。
短距離からの攻撃だが、ゲームの時と同じくアラスティアは防御魔法でこれに対抗。火の上級精霊魔法≪封炎の盾≫。火属性の攻撃――ようするに『紅蓮走破』のダメージを無効化しようとしている。あの魔法は他の攻撃魔法で消すことができないので、盾の防御範囲以外を狙わないといけないけど、突進しているこっちにそんな余裕はない。
回復魔法や防御魔法はたとえ上級でも出が速く詠唱がほとんどない魔法が多くある。これもその一つ。
第二形態以降はこうやって魔法で攻撃を潰されることが多い。
だから対策の一つや二つはしておくのが常識なんだけど。
結果を言えば俺の精霊剣、『紅蓮走破』はクリーンヒット。
仕掛けは使っている双剣。左手に持つ剣は≪封炎の盾≫のような火耐性を高める魔法のみキャンセルする特注品。右は光属性対応。
似たような効果を持つ武器はプレイヤーメイドなのでかなり出回っている。これはもともと得意属性を無効化されないように考案された経緯がある。人によっては複数所持し、状況によって使い分ける事があるほどに。
魔法剣士以外が使うなら魔法使いが使う魔法を無効化されないように前衛が頑張り、魔法剣士であればそのまま付与する魔法を無効化されないようにすればいい。
アラスティアを左の一撃で跳ね飛ばし、浮いたところに右の剣を打ち落とす。
一気にHPを2割弱削る。
その結果に心の中で「良し!」と快哉を叫ぶが、次の瞬間俺の右腕が肘から吹き飛んだ。
腕を覆う鎧ごと綺麗に切断され、宙に舞う。
アラスティアの左手が光を帯び、剣を思わせる一撃を繰りだしたのだ。
『気』を扱う戦技、たしか≪闘気の剣≫。それを≪一閃≫で振るえばこんな結果もありうる、と。
このダメージをすぐに≪蘇生≫出来ればよかったのだが、俺にはそれができなかった。
その後は悲惨だ。
至近距離から闇属性の攻撃魔法≪蝕≫を連打され、一気にHPは半減した。≪蝕≫は貫通効果を持つ小さい弾をぶつける魔法だが、これで鎧ごと肉を削り取られた。ダメージは小さいが防ぎにくく、追加効果で筋力が低下する。
急所にこそ当たらなかったが左腕が使い物にならなくなった。
無事な両足に力を入れバックステップ。≪蘇生≫で巻き返そうとするがバックステップに合わせて追撃を仕掛けられ、≪高速5連撃≫で切られ腕の回復を待たずにHPは2割以下。
喉に剣を突き付けられ降参することになった。
せっかく使った≪精霊軍団≫だが、真価を見せる間もなく戦闘終了。
一瞬だけ輝けたように見え、その実、徹頭徹尾無様な終わりを演じる羽目になってしまった。
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