休日:デー、ト?①
アラスティアはボスキャラだったので、誰も来ない部屋で放置プレイを100年以上してました。
結果は……
朝。
目を開ければ目の前には眠るマリィの顔。
お腹のあたりの温もりは、ティアがしがみついているからだろう。山小屋でもよくそうしていた。
ティアの頭を軽くなでてから身体を離す。一瞬、頬が緩んだように見えたのは気のせいか。
俺の朝は朝食を作るところから始まる。5人分のスープとパンに目玉焼きを用意する。ティア達の事を考えれば、ウィンナーも焼いた方がいいか。
冷蔵庫があるものの、これはそこまで大きくない。メニューについてはその容量の小ささが原因で材料の大量保管ができない。毎日買い足さないといけないし、作るものを決めて買わないと、たまに手抜きになってしまう。
これ以上大きいものや新しいのを作ろうとすれば、補充できない材料が足りなくなる恐れがあるのでどうにもならない。いつどこで必要になるか分からない材料については、慎重に使わないといけない。
こちらにあるもので作るなら最低でも氷室なので、場所をとりすぎる。フィリス邸のような屋敷ならともかく、マードックさんの家はアパートやマンションに近いんだから無茶はできない。あっちには穴を掘って地下に作った。
便利な生活はなかなか難しい。家事担当を雇うって手もあるけど、人を雇うのはお金がかかるからね。俺が学校に行っているからマードックさんの支払い能力は激減してるし、俺が払うのはマードックさんに怒られる。男のメンツの問題だ。
俺が考え事をしながら料理をしていると、後ろに人の立つ気配があった。
「朝ご飯はもうちょっと待ってください」
「いえ、その前に少しお話があります。アルヴィース様」
後ろにいるのはマリィ。
理由は良く分からないけど、彼女がティアにわざわざついて来るんだ。何らかの話はあるだろうと思っていたが。
でなければ他の誰かがお供に就けば済む話だし。
「戻ってくるのは何時になるのか、という確認です」
「あー」
「セレスティア様が寂しがっています。無理に連れ戻す事はしませんが、早く戻っていただけますか?」
忘れていた。
あの話は学園に通うようになって濃いイベントが続きすぎたから、あんまり気にしていなかった。フィリスが来た時に思い出したけど、その後が酷かったのでそこまで意識していない。フィリス邸に顔を出した時も、たいして気にならなかったからね。
「うーん。戻ろうと思えばいつでも戻れるね。ただ、何かきっかけの一つでも欲しいところだけど」
「今回私たちが来ただけでは足りないと?」
「アラスティアがいるからね。フィリスとは相性悪そうだし、連れていくのも無理そうでしょ。せめてそこだけ何とかできればねぇ」
「……その件についてはこちらも即答しかねます。フィリスからあの方は『敵』だと言われていますので、説得は容易ではないと存じます」
「うわ。面倒だねぇ」
「ええ、面倒ですね」
二人そろってため息をつく。
フィリスとティアにとって、アラスティアは敵と認識されているようだ。理由は定かでないが、面倒かつ厄介な事になりそうな予感がする。
共通の敵を与える事で二人の仲を正常にするきっかけに出来ればいいが、その場合はどう立ちまわればいいか、俺にはまったく分からない。
アラスティアの件を片付けるまで戻らないという事でいったん話を切り上げ、会話してる最中に完成した朝ご飯を冷めないうちに食べようと、寝ている人たちを起こすことにした。
俺やマードックさん、マリィにとってはAM5:30に起きて摂る朝ご飯は日常なのだが、ティアはまだ眠そうである。普段ならまだ寝ているし。
半分以上眼を閉じたまま、俺の膝の上に座る。
それを見咎めたアラスティアが「ロリコン」発言をするが、冤罪である。目を覚ますようにと、ティアに冷えた牛乳を飲ませてみるがあまり効果は無い。
しょうがないので、もう少し寝かせておくことにした。寝かせるのはマリィに任せ、4人で朝食をとる。
マリィはアラスティアへ話しかける事が無いので喧嘩にならない。しかし話しかけないというより壁を作っているようで、食事の雰囲気はあまりよろしくない。どこか冷たい空気である。
せっかく今日も上手くできた朝食だというのに。もったない。
食事が終われば今日は骨休めという事で散策にでも出るつもりだ。
明日も休みなんだけど、午後からレオナール武具店で≪彫金≫の講習会があるのであまり時間がとれない。なので、明日できないような時間の使い方をしようと思ったのだ。
散策といっても普段はまずできない。
フィリスのところにいた時は厨房のバイトで平日はほとんど潰れて休日はレオナールさんのところに行く毎日。まともな休日は無かった。
学校に通うようになってからは夕飯を食べ終わるまでやる事が詰まっている。明日も午前中は洗濯や掃除とかをしなくてはいけないので、午後の予定を考えればあまり時間はない。
よくよく考えてみれば、街にいる時にゆっくりした記憶がない。昼間に大した目的もなく時間を使えたのは、山にいた時ぐらいである。我ながら働きすぎだ。
なので、贅沢な時間の使い方、散策をするのだ。
散策はゲームも何もないこちらの世界で引き籠るのは事実上不可能だという結論を思い知った俺に出来る、数少ない暇つぶし。そのはずだ。
こっちに来る前ではできなかった事のひとつだし、きっと楽しいに違いない。
食べ歩くのもいい。何か掘り出し物を探してみるのもいい。一人気楽に過ごそうと、俺はそう思っていた。
……思っていたんだよっ!
朝の8時ぐらいにティアとマリィは帰って行った。
ついでだし、途中まで一緒に行こうと思ったが、二人の移動は馬車を使う。家の前に馬車が来ていたし、一緒に乗ったらなんかフィリスのところまで連行されそうな気がしたからやめておく事にした。
アラスティアに持ち金を確認したら金貨は未使用、銀貨も45枚残っていて、金銭感覚は信用できるという事が分かった。正直、ご飯以外に使って使いきっている可能性も考えていた。これは嬉しい誤算である。
安心して出かけようとしたら、アラスティアはひょこひょこ後ろをついて来る。
俺が止まると向こうも止まる。動き出すとついて来る。
……
…………
ああもう、しょうがない!
「アラスティア、後ろにいるくらいなら隣を歩け。ついて来るのはいいけど、後ろを歩かれるとなんか気になる」
「ん。アルがそう言うなら」
トテトテと近づいて隣を歩くようになったが、俺が店の中を覗いていても周りを見ていても何も言わずにただ隣にいて俺を見ているだけ。さっぱりアラスティアの行動が読めない。
「そういえば、昨日一昨日と俺がいない間は何をしてた?」
「特に何も。じっとしてた」
「……はい?」
「ダンジョンにいた時と同じ。私は何もなければ動かない」
…………なるほど。
ダンジョンで誰か来るまでじっと待機していたわけか。だから普段も動かないで置物になる事に抵抗がない。どんだけ特殊な生き物なんだ、この子は。常識を持っていたから油断した。
人間らしい行動って、どうやったら獲得できるんだろうね。外界の何かに興味の一つでも持たないと置物生活一直線か。個性っていったらそれまでなんだろうけど、なんか気に食わないね。
とりあえず。
「今日は買い食いするつもりだし。適当に露店を見て回るけど、それでいい?」
「構わない」
まずはいろいろやらせて、興味をもつ前に好意をもってとらえる何かを与えますか。
美味い物に対する反応と、不味い物に対する反応で美味い物を求める様に誘導してみますかね。
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