放課後:地獄と煉獄
お約束。
まだまだ足りないので追加。
気絶から目を覚ませば、何故かアラスティアは俺の隣で寝ていた。
俺の胸甲を奪って。基本的に、俺の装備は『自動サイズ調整』ができる。よって、アラスティアに装備された胸甲は、そのバストサイズに合わせた形状をしているわけだが。
これ以上その部分について考えると、目を覚ましたばかりでまた眠りに、今度こそ永遠に眠る羽目になりかねないので思考を、視線を逸らす。
この部屋は最後に俺が使った≪氷結の庭≫の影響下、つまり凍りついた状態で放置されている。装備品の恩恵で寒さを感じないが、見た目がよろしくないので、炎で氷を融かす。気合の入った氷だけに融かすのは骨だが、5分とかからず融かしきる。せっかく回復したMPが1割持っていかれた。
そして。
氷の下から出てきたのはワープゲート。
え?
思わず幸せそうに寝ているアラスティアを見る。ワープゲートへ視線を戻す。またアラスティアを見る。
え? なんで?
理由は分からないが、帰れるのはいいことである。
一瞬、アラスティアをこのまま放置して帰ろうと思ったが、それだと俺の胸甲はどうなる。あれはこちらに来る前も来てからも長く使っている逸品だ。残すという選択肢はない。しかし、今取り返すというのは、寝ているアラスティアから剥ぎ取るように見えるわけで、もし最中に起きたら、今度こそマジで殺されるだろう。
かといって起こせば何か問題になりそうな予感がする。
胸甲をすぐに奪い返すか、こっそり奪い返すか。究極の二択である。
こっそり奪い返すことにした。
なに、起きる前に逃げれば問題ない。
俺は普段胸甲を装着するときは、アイテムボックスからのセット装備選択ボタンを使っている。普通に装備をした事は無い。しかし、フィリスの所に厄介になる間、俺は兵士たちに交じって行動する機会が多々あった。それに、レオナール武具店にも出入りしているから知識はある。
装備する時の流れはこうだ。まず、胸甲は正面と背面の主装甲を肩甲でジョイントしてあり、頭からくぐってサンドイッチマンのように着る。次に脇の下にベルトを通して前と後ろの締め付けを調整する。さらにベルトの上に保護に使う簡易甲をはめ込めば完成。
この流れを逆からやればよい。たったそれだけのことである。
まず簡易甲を外し、その下のベルトを抜く。この時点で『自動サイズ調整』の効果が解除され、胸で正面の主装甲が跳ね上がった。横から見ると……。
視覚的に問題あり。この後の事を考え、彼女にマントをかける。
マントの下に手を差し込み、胸甲を、そーっと、そーっと抜き取ろうとする。
大丈夫だ、ゆっくりやればきっと起きない……っ。
が、運命は世界に忠実である。
背筋に悪寒が走る。俺はその予感に従い、勢いよく胸甲を抜き取りアイテムボックスに格納。マントも持って背を向ける。
「≪複合強化・速度・全力全開≫!!」
後先考えない最高速度へ俺は到達する。10秒もたずにMPは空になるがそれよりも逃げ切る事が重要だ。
ワープゲートまでは20m。0.08秒でその距離を駆け抜け、地上へ帰還する。
そのまま俺は駆け抜ける。当然、走りながらもMPポーションを追加で飲む。
周囲に人がいたかもしれないが、5秒間で2kmほど駆け抜け、ある場所へ移動する。
≪神速≫を解除し、≪隠密≫で気配を消し、≪魔力隠蔽≫も重ねてステルスモード。
装備は変わらず≪祖魔神の仮面≫だ。この≪認識阻害Ⅴ≫に頼るのが正解だと、俺の経験は言っていた。
心臓が早鐘を打つが、それを抑えようとは思えない。まだ悪寒が続いているからだ。
大丈夫。相手はダンジョンのフロアボス。常識で考えて出てこれるはずがない。
それにあの格好で走り回れるわけがない。
俺は逃げ切ったんだ。
だというのに、神はなぜこうも俺に試練を与えるというのか。
目の前で青い光が円と、幾何学模様を描く。
見覚えのある、転移系の魔法陣。つまり、
「ミツケタ」
「ーーーーーー!!!!!!」
魂を凍らせる声と、無言の叫びが、木霊する。
反射的に≪指定位置転移≫を使おうとしたが口をふさがれ≪魔法解除≫で打ち消された。
「えっちな人にはお仕置き」
西に陽が沈み黄昏になろうという時間帯。
人目のない路地裏で。
俺は「走馬灯ってホントに見れるんだな」などと考えていた。
今度は気を失うことすら許されず、第二形態の本気というものを学習した。
どうやってここまで来たのか?
≪祖魔神の仮面≫を辿って飛んだんですね、分かります。
死にかけては全快するという拷問を終え、俺はとっとと帰ることにした。アラスティアにはそこらで買った服を着せてある。
もうこれ以上何か考える気にもならないし、帰って、ご飯食べて、寝る。そのつもりだった。
家路に就こうとした俺だが、その服の裾が引っ張られた。
「……もう今日は勘弁してくれ」
(フルフル)
我ながら疲れきった声だったと思う。そんな俺をアラスティアは引きとめて離さない。
「一緒に行く」
「は?」
「戻れないから、一緒に行く」
「ふざけんなよコンチクショウ!!」
思わず怒鳴った。いや、あり得ないでしょ。フロアボスだよ? 1時間したらリポップするはずの奴だよ? なんで憑いて来るのさ!!
「あの剣。あれで、私の神核が壊れた」
「神核?」
「そう。だから付いてく」
「何故!?」
「戦いを始めたのは私だけど、壊したのはアル。責任取れ」
「命令!?」
アラスティアの拙い説明を聞けば、神核とは神様が神様である証であり、その力の源、らしい。
神の力ってやつは核より湧き出て、殻によって形をなし、その殻が繋ぎ止める力の総量で格が決まるとの事。アラスティアは肉体を殻として持つ人格神で証たる神核が壊れても命に別状はないのだが、ボスとしての特性――第三形態――を失い祖魔神ですらなくなったというのだ。
「つまり私は家なき子。養え」
「知るかよ馬鹿野郎!!」
「私女の子。野郎じゃない。だからご飯」
「会話になってねぇ!?」
神様だった頃はともかく、今は食事がいるらしい。
だからといって、なぜ俺が。ダンジョンに帰れと言いたい。
「アルは愚か。学園の生徒じゃない私はダンジョンに行けない。だからアルの嫁」
「嫁!?」
「妾でもいい。分かったらご飯と寝床」
無条件で養う相手=嫁だということか。とにかくダンジョンに帰るつもりはないらしい。
腕を抱きかかえられ、逃亡は不可能。
いかん。このままだと、どんどん話が明後日の方に行く。
とりあえず、ご飯と寝床を確保させて、距離を置いた方がいい。幸い資金に余裕がある。どっかに押し付けて金だけ渡して逃げよう。なんでこんな女にだらしないダメ男のような事をしなくちゃいけないんだ。まだ新品だというのに。
今日はもう何も考えたくないし、今日だけだからと自分に言い聞かせて家に帰る。
服の裾をつかんだままのアラスティアを連れて家のドアを開ける。
ああ。
ああ。
明日はどっかの神殿か何かを襲撃に行く。神殺しを再び殺って殺ろうじゃないか。封印指定も関係なく、召喚魔法の奥義を見せてやんよ。
「おかえりなさい~ア・ナ・タ♪ ご飯にする? それとも~、ワ・タ・シ?」
なんでドアを開けたらフィリスが新妻ルックで家にいるのですかねえ!!
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。
最後の逃走、ワープゲートまでの移動速度と、ワープゲート後の移動速度に差があるのは初速0の状態から最高速度に到達するまでの時間の分で差が付いただけです。




