授業時間:ダンジョン実習・絶望編
今日もダンジョンに潜る。
昨日の座学は、正直キツかった。それだけに、「ダンジョンに戻ってきた」安堵は大きい。やはり俺は戦闘系ゲーマーであると強く認識させられる。
本日の目標は16階層の探索である。
先日は予期せぬ事態に中断したが、13階層までの敵を見る限り今日の目標にするつもりで動くことにした。
準備は万端とは言えないが、今できる限りの事はした。だから全力で駆け抜ける。
14階層にたどり着くまでのボスは前回とは打って変わって難易度を上げていた。
理由はわからないが、出てくるボスは固定ではないらしい。
13階層黒フの森を抜け14階層にたどり着き、見たのは足もとまで水につかってしまう神殿風ダンジョンだった。
出てくるのは半漁人で、ボスはウォーター・ドラゴン。レベル的には10階層のファイア・ドラゴンと同格。
さすがに二度目のドラゴン戦。今度は余力を残す戦い方でこれを下す。しかし、ドロップはなかったのでかなりイラっとした。
15階層。今度は鉱山洞窟を思わせるダンジョン。更に言うなら、道幅が狭く大人数で戦うには向いていない。元々単独行動の俺には関係なかったが。
出てきたのは巨大な蟲ども。苦手な人が見たらトラウマになりかねない連中だ。
この階層では今までやっていた壁破壊が出来なかったが、分岐も少なく、難なくボスにたどり着けた。
ボスはアース・ドラゴン。ここまでくると分かりやすくていい。以下同文、ドロップありで次へ進んだ。
俺のコンディションは万全、アイテム類の消費もない。
だから、俺は油断してしまった。
久しぶりに、絶望を知る。
確かに、これは無理だろう。挑んだ誰もが死んだのも無理はない。
この階層はただ一つの部屋だけでできている。
故に雑魚もおらず、いきなりボス戦。
ある意味、とても楽だろう。
ただし。
相手に勝てるのであれば。
俺の目の前にいるのは銀髪の女性。
汎用剣を手に、胸に部分鎧、籠手と足具は最低限。全体的に軽装で身を固め、頭部はある意味見慣れた兜。ただし、仮面は付いていないが。
パッと見だけなら16~18歳程度の超美少女。どこか変化に乏しい、誰かを思い出す気がする娘さんだが、これは見た目で測ってはいけない相手だ。
――祖魔神アラスティア
「Brave new world」時代は難攻不落、いまだクリアされてない「到達不可能コンテンツ」最強のボスである。
「Brave new world」はプレイヤーに飽きさせないためにいくつか無茶なコンテンツがある。
それらは「到達不能コンテンツ」と呼ばれ、プレイヤーたちの飽くなき挑戦の場として使われる。
祖魔神アラスティアは「普通に考えたらまず勝てないボスキャラ」としてVer 1.80で登場した。俺がこちらに来たのはVer 1.91で、実に2ヶ月以上倒されることなく存在する。
対象はソロプレイヤー。モーションが研究され、行動パターンが解析され、すべてのデータが調べられたころにはデータ調整が入り苦労が無に帰す。噂では、「中の人」がいるという話も出た。
第三形態まで確認されており、第一形態を突破していればデスペナはない。ここまでは1週間でかなりの数がクリアした。これはそれまでの最強ボスと同じレベルの強さだった。
第二形態は3週間かかったが、これも何とかクリアできる範囲だった。祖魔神の仮面はここまで勝てればランダムで入手できる。これ以外にもなかなかレアなアイテムが貰えるので通うやつも多い。
第三形態。これは運営から「挑んだ場合は自己責任。基本倒せないようにバランス調整してあるから」と無慈悲な公式コメントが入っている化け物である。HPを半分ぐらい。それが俺の知る最高成績。何%まで削ったというのは一種の自慢話だ。30%削れたらすごい、というレベル。
とりあえず。切り札3枚が使えたとしても、勝てる相手ではない。
現状ならいいところ第一形態を突破できるかどうかである。
そしてゲームと違い、第一形態を突破しても終わりになるかどうかわからない。なにせ、ここはボスを倒して次の階に行くか帰るかするダンジョンなのだから。
いやもう、どうしてこうなる。
俺は不測の事態にただ混乱していた。
「貴方……私と戦ったことがある?」
「?」
俺が混乱している中、アラスティアはこちらに問いかけた。
ゲーム中に無い行動に、俺は更に困惑する。
「その仮面、私と同じ。貴方、私と戦ったことがある?」
「!」
「答えて」
忘れていたが、俺の頭部装備は祖魔神の仮面。こいつと戦って手に入れたものである。
ただ、こっちのアラスティアでなく、あっちのアラスティアと戦って得た品だ。ここは「はい」とも「いいえ」とも言いにくい。
アラスティアはこっちをじっと見つめている。
「早く答えて」
淡々と、しかしどこか苛立ちを含む物言いに、思案を中断し、そのまま真実を告げることにする。
へたに答えを遅らせるより、嘘というか言い訳染みた言葉を返すよりもその方がいい気がしたのだ。
「話は長くなるけど、大丈夫か?」
「構わない。教えて」
どうなるか分からない。その緊張の中、俺は自分の身に起きたことの一部始終を説明した。
「……大体分かった。じゃあ戦おう」
「ちょっと待て。どうしてそうなる?」
一通り説明し終えると、アラスティアはそう切り出した。
「貴方は私と戦うためにここに来た。だから私は戦う。何が違う?」
何を当たり前のことを? アラスティアは心底不思議そうに小首をかしげた。
言われてしまえば、相手の言い分が正論である。
いままでの作業にも似た戦闘より、ギリギリとまではいかないが、適正狩場程度の戦闘を俺は望でいた。しかし、ここまでクリティカルな戦闘を望むほど、俺は戦闘中毒というわけではない。どうにかならないかと説得を試みるが……
「それはダメ。私は戦いたい」
「切り札3枚封じの相手とでも? 今度、せめて一つでも使えるときにしないか?」
「気にしなくていい。死力を尽くせば何とかなる」
「それ、何か違うよね!?」
「むぅ、アルはワガママ」
押し問答に飽きたのか、アラスティアは剣を構える。話ができた相手を切るのは正直勘弁願いたいのだが、戦闘回避は無理らしい。
何でこうなるのかと頭を抱えたい気分になった。
いや、やはり相手が正しい。
会話をすることで微妙な気分にはなったが、ただ単に、自分が平和ボケしていただけだと思い直す。
――戦闘系ゲーマーが、戦闘を回避しようとしてどうするよ?
命がかかっている。もうゲームじゃない。切り札はほとんど使えない。
言い訳はたくさん思いつくが、そんなことより。
戦いたいと、思ってしまった。
なんか、こいつがヒロインで、忘れかけてたヒロインスキルでも使われた気がしないでもないが、とにかく、俺は剣をとり盾を構え戦闘態勢をとった。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。
6月10日 修正
にちにち単独行動の俺には関係なかったが→元々単独行動の俺には関係なかったが




