授業時間:ダンジョン実習
ソロプレイは無双で押し切る。
ダンジョンに入る前、事務室で最終確認の手続きを行う。
当たり前だが、とても嫌な顔をされた。というか、ストップがかかった。
近くにいた冒険者風の連中も待ったをかけた。
うん、身長140cm未満、ごくごく普通の街の住人風の子供がダンジョンに挑むと言えば、普通は止めるだろう。
この状況は予想済み。なので事前に決めておいた対処を行う。目を閉じステータスウィンドウ上のマップで周囲の人間全員を≪対象確定≫する。
――≪魔法待機解除≫中級精霊魔法≪炎刃影生成≫
近くにいた事務員・冒険者ご一行の喉元に炎でできた刃を突き付ける。
寸止めではあるが、こちらが何をしたか理解できず、全員動きが止まる。
ちなみに、直接攻撃能力のないただの幻影である。熱い事は熱いが、そこまで害は無い。
「とまあ、これぐらいはできます。あまり心配されるようなことにはならないと思いますよ?」
目を開きはしても周囲を確認する事もなく言ってみせる。
喉元に刃を突き付けられたことにようやく理解が至った人は、俺が見た目とは隔絶した実力の持ち主と認識した。
俺がやったと理解できない連中は、自分がどんな状況かすら理解できずにただ戸惑うばかり。これは事務員だけならまだしも、冒険者風の連中にまでいるのは少々情けない。……きみらこそ、ダンジョンはまだ早いんじゃないか?
「≪魔法解除≫。もう行っていいですか?」
喉に突き付けられた刃が無くなり、何人かは力なくへたり込む。事務員さんはこくこくと壊れたおもちゃの様に首を上下に振る。
俺は周囲の人たちに笑顔を振りまき一言。
「ここであった事は他言無用。いいですね」
今度は、ほぼ全員が首を上下に振った。
振らなかったのは、半分失神した連中である。
やりすぎた感はあるが、あそこはあれだけやらないと今日は許可が下りなかったというだけのこと。
目立つのは本意でないが、ダンジョンへの興味がそれを上回りこのような強硬策を採ることになったが、後悔は無い。
俺はダンジョンの入口――最初のワープゲートに足を踏み入れた。
ダンジョン10階を駆け抜ける。
ボスの部屋まで一直線に。
壁をぶち破りながら。
マップ機能は便利である。
まさか入ったばかりのダンジョンの構造が表示されるとは思っていなかった。
最初に使った魔法は≪敵性感知≫。ダンジョンにおける必須魔法の一つ。
近くに敵がいたら警戒しよう。その程度の心算だったのだが。マップはほぼ完全に解放された。宝箱や罠までは表示されないが、一気に楽になった。
そして、このダンジョン、壁がもろい。
何気なしに一撃かましたら、簡単に破壊できた。
次のフロアに行くためのボスがどこにいるか分かる。
壁は壊せる。
道中の敵は弱すぎる。
ならばやる事は一つである。
壁を壊して可能な限り一直線に進む。
その結果、全てのフロアで最短時間のボスクリアに成功した。
当たり前だが、装備はいつもの≪祖魔神の仮面≫。顔さえ見られなければ後でごまかせる。まあマップを確認しながら進んでいるので、近くにいる他の生徒や冒険者は避けているけど、用心は大事である。
フロアボスは1階層の大鬼から始まり9階層の巨大狼まで、手ごたえがない。15階層までこれかと思うと気が滅入る。
そんな事を考えながら、10階層のボス部屋にたどり着いた。
目の前に現れたのは、バカでかいファイア・ドラゴン。体長50mってところか?
レベルでいえば、ソロなら80レベル相応。
……え?
さっきのフロアボス巨大狼からいきなりこれ? もしかして、レアボスもいたの?
POPしたボスを前に、思考が停止しかけた。予想外もいいところである。
ファイア・ドラゴンは大きく息を吸い込むと
GYAOOOOOOOO!!!!
咆哮を放ち、戦いの合図とした。
他ゲームではどうか知らないが、ドラゴン種は、精霊が受肉したものだと言われている。
よって、ドラゴンは自分の得意な属性の精霊魔法を使える。俺に火属性は効かないけど。
ついでに精霊から加護を受けた俺の場合、通常だと効かないはずの火属性魔法が通るようになる。俺の方が、より強く火の精霊の加護を受けているから、である。といっても、魔力を消費し、火の防御魔法を使われればダメージなど受けないほど軽減されるのでやらないが。
まあ、そんな事を知らないファイア・ドラゴンが≪炎槍≫を5発放った。
無視して駆け寄る。≪複合強化・速度≫はいらない。≪強化・速度≫を使う。距離50m。
≪氷嵐≫を5発。全て待機状態まで準備する。
ファイア・ドラゴンが右の爪を横に振る。爪の先から炎の刃が放たれる。……おそらく風属性を含む魔法剣技もどき。そのまま受ければダメージを喰らうだろう。
走りながら剣を正面に構え、≪水の精霊剣≫で迎撃。剣を振ることはせず、炎の刃と剣が触れる瞬間、剣に付与した魔力を爆発させる。距離20m。
ファイア・ドラゴンは右の爪を振りぬいた姿勢から左の爪を叩きつける。
このままのスピードを維持すれば、ちょうど当たるだろう。≪強化・速度≫を解除し、サイドステップを交えて回避する。
爪が目の前の地面を砕く。割れた大地の破片が身体を打つが許容範囲。無茶な態勢で攻撃を重ねたファイア・ドラゴンは隙だらけの身体を曝している。≪複合強化・速度・一瞬≫で一気に踏み込む。距離0m。接敵を果たす。
≪高速5連撃≫に≪氷嵐≫を付与。
「魔法剣技≪氷爆5連≫」
≪高速5連撃≫による5回の斬撃にそれぞれ≪氷嵐≫を付与する。一撃加えるごとに、刃がドラゴンに埋まるたびに、相手の体内で≪氷嵐≫を開放する≪氷爆5連≫。ファイア・ドラゴンの弱点たる氷属性の攻撃。それを範囲攻撃魔法の体内発動という形で打ち込まれれば大ダメージは必至。そんな大技を5発も撃ちこまれたファイア・ドラゴンのHPは2割を切っている。
中級剣技≪高速5連撃≫の5連撃は下級戦技≪連撃≫と比べかなり早い。だいたい≪連撃≫《ラッシュ》で3回攻撃する間に5回攻撃をする。当然、攻撃の合間に魔法を剣に乗せ、当てた瞬間に魔法を開放する技はかなりの熟練を要する。これは自慢だが、同じ事ができたプレイヤーは少ないに違いない。何人か、5人ぐらいか?知り合いに出来る奴がいるけど。
とにかく、150レベル台のボスと戦ってきた身である。80レベルに苦戦するつもりはない。切りつけ押し切ってもいいが、久しぶりに大技を使いたい気分でもあった。
特にドラゴンを見た瞬間から怒りが溜まっていたのだから。
さあ、最後の一撃を打とう。
「なんで、なんで剥ぎ取れねぇンだよチクショウーーー!!!」
魂の叫びである。
今の俺にドラゴン系の素材は高級品なんだから!
≪氷嵐≫を全身に纏い、≪高速飛行≫に≪複合強化・速度・一瞬≫を重ね≪突貫≫する。
今日はここで終わりと決め、使えるリソースを使いきる気持ちで≪固有戦技≫を使用する。
≪固有戦技≫『蒼嵐走破』
身に纏う嵐を剣に収斂、超高速移動による運動エネルギーを合わせて繰りだす手持ち2番目の大技。
本来の用途はボス戦において取り巻ごと一撃入れるのに使う。纏う魔法は氷に限らず炎、雷、嵐と、色を切り替え使える汎用性の高い対軍戦技。
それはズタボロになったドラゴンの身体を貫き、大きな風穴を開ける。
振り向けばファイア・ドラゴンは残ったHPをすべて失い、光の塵となって消え去るところだった。
その巨躯があった場所に、何故か存在する宝箱。
「まあ、一応収穫はあったってことかな」
俺は中身を回収すると、帰還用のワープゲートをくぐった。
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6月10日 修正
その結果、全てのフロアで最短時間のボスクリアに成功しt
→その結果、全てのフロアで最短時間のボスクリアに成功した




