幕間:そして乙女達の夜が明ける
最後は予告編として複数のキャラが出てきます。
ただし、全キャラ出すわけではありません。
オーブンからいい匂いがしている。
そろそろいい時間。
わたしは、ゆっくりオーブンのふたを開けた。
「上手に、焼けてる」
焼きあがったパンケーキを見て、思わずにやけてしまう。
ほんの少し、つまみ食いをする。
ん、あまい。おいしい。
これまでなんども失敗したけど、ようやく思い出と同じ味が出せたことがうれしくて、お父さんにも食べてほしくなって、わたしはかけだした。
思えば、あれは転機だったんじゃないかな。
ずっとまえ、お父さんが「仲良くしなさい」って言っていた男の子。
あの子がくれたパンケーキの幸せな味に私はハマってしまった。
なんでか知らないけど、さいきんはずっと見かけない。
また会いたいと思う。
もしかしたら、もっとほかのおいしいものの作り方を知っているかもしれない。
もしそうなら、ぜったいに教えてもらおう。
でも、いつ会えるかわからない人の事を考えるより。
今日のわたしが作ったものより、明日のわたしが作ったケーキが美味しくなるように。
もうすぐ通う学園では、料理について学んでみよう。
◇◆◇◆◇◆
最近、夜空を見上げる事が多くなった。
学園都市に来てから半年。思ったよりも私は弱かったみたい。ホームシック、ってやつかな?
お父様が言っていた。「空は広く、どこまでも繋がっている。私たちが遠く離れても、空が繋いでくれる。だから大丈夫だ」と。
聞いたときは「何を恥ずかしい事を言っているの」かと思ったけど、今になってその言葉を思い出し、空を見上げる私にはもう笑えない。
今は遠くの家族を思い出すと泣きそうになってしまうぐらい、寂しかった。
そんな、寂しさを紛らわせようと空を眺めている時のことだ。
「空を、飛んでる?」
思わず言葉が漏れた。
たぶんだけど、あれは人間で、魔法で空を飛んでいる。しかも、移動速度でいえば下級精霊魔法の≪浮遊≫や中級精霊魔法の≪飛行≫でもない。おそらく、上級精霊魔法の≪高速飛行≫。
上級精霊魔法なんて、里のだれでも使える様な魔法ではない。長老とか、年長者たちにしか使えない魔法のはずである。普通は、中級魔法が使えれば一人前なのだ。
精霊と親和性のある私たちですらそうなのに、人間が、上級精霊魔法を使える。
私は急ぎ同族のところへ走った。
あれから半年過ぎた。
あの時見たのはこの街の領主さまのところに住んでいる、アルヴィースって名前の男の子だと分かった。
聞いた話では、街のスラムで囚われの女の子を助けたり、少し離れた村で魔獣に襲われたところに駆けつけるとか、まるで英雄の様な事をしている。
そのくせ、本人はまだ11歳になったばかりの少年であるという。
それがわかった時、私は上からいくつかお願いをされた。
来年、彼は学園に来るはずであり、私の後輩的な立場になるから、『仲良くなれ』と。
口説けとか監視しろとか、そんな事を言われたら反発しただろう。でも、仲良くなろうとするだけなら何の問題もない。むしろ、自分から友達になるつもりだった。
だって、上級精霊魔法の使い手よ!?
しかも、私の半分も生きていない人間が!
興味を持たないはずがないじゃない!!
私、レミット=グリュッスタッドは夜空の下で未来に想いを馳せた。
◇◆◇◆◇◆
銀月の下、一艘の船が港町に向かって進んでいた。
旅の間、風は強く船足は上々。本来明日に港へ着く予定だったが、今晩のうちに着く運びとなった。
夜にもかかわらず、船客達はもうすぐ付く街への期待に突き動かされ、甲板で街の灯りを見ている。
その中の一人、ワンピースに麦わら帽子をかぶった少女。
彼女は嬉しさを堪えながらも逸る気持ちに唇を歪めた。
ふ、ふふふ。
ようやく! ようやく来た!
妾の自由の地!
異国、ルースニア王国!!
まったく。父上も母上も心配しすぎなのです。
確かに人間族など信用できたものではございませんが、ちゃんと、ちゃんと人間族以外が貴族の街、セイレンを選んだではありませんか。
国を越えての留学は、妾にとって大きな糧となるはず。
その糧には一人暮らしというものも含まれるのです。
だというのに、やれ「護衛が足りぬ」だとか、「侍女が少なくては国としての格が疑われる」とか。どうでもいいではありませぬか!!
家事を習わせてきたのは、このような時のためではないのですか!
挙句の果てには「婚約者殿に申し訳がたたぬ」などとは!
あのような軟弱者、妾の婚約者に据えて如何様にする御積りですか!?
妾は認めませんぞ!
せめて、妾と正面から打ち合える剣の使い手以外を連れ合いとする心算はありません! 妾を打倒せる剣士でなければ厭なのです!
青瓢箪など、そこらの野良猫にくれてやれば宜しい!
ふぅ。これについてはじいやも同じ意見で嬉しく思う。
これより向かう学園では、剣に魔法に打ち込む学生たちが多くいるはず。
在学を許された3年のうちに、“妾の剣士”を見つけるぞ!
気合を入れる少女の帽子が風に舞う。
露わになった彼女の頭には、紛うことなき“ネコミミ”が付いていた――
幕間はこれで終わりです。
明日より2章、学園編を始めます。
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