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ニートに恋愛ゲームはイジメです  作者: 猫の人
1章 入学前、出会いの嵐
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オープニング:ニートに恋愛ゲームはイジメです①

誕生日。祝ってくれるのは嬉しいんだけど、気を遣うこともあります。

それが行き過ぎると……

 フィリスの誕生日になった。

 当たり前だが、来客が多い。なにせ伯爵様だからね。取り入りたい奴なんて数えるのも馬鹿らしいだろ。

 そいつらの相手をするために身内の慎ましいパーティは翌日ってことになっている。今日のフィリスは仕事モードだ。

 なんていうか。下らない連中のために大切な1日を潰される貴族の生活って、本当に面倒くさい。俺はああはなりたくないね。

 人間、それなりに平和でそれなりに楽して生きるほうが幸せなんだよ。ほどほどが一番、ってな。



 夜のパーティが始まる。

 俺は警備の一員として隅っこに隠れている。つまみ食いの許可を貰っているし、マップを確認していればいいので、実に楽な仕事である。

 今日の料理に俺は参加していない。フィリスは俺の料理をこいつらに振舞わない方がいいって言っていた。


 屋敷のホールにいるのは厳選された貴族様ばかり12人。公爵家の人間まで来ているあたり、セイレンの特殊性が垣間見える。

 いや、公爵爺の、フィリスへの下卑た視線を考えればただの色狂いか、あれは。

 フィリスはにこやかに、笑顔を崩さずに応対しているが、かなりストレスのたまる作業であることは容易に想像できる。もしかして、普段俺をからかうのはそのストレスを吐き出す為なのかもしれない。


 時間が経ち、歓談し、食事に手を着けていた連中の一人が贈り物を取り出した。

 贈り物タイムってところか。他の連中も煌びやかな装飾品などを取り出す。


 んー。あのペンダント、ちょっとバランス崩れてないか? 腕の悪い職人に作らせてない? おいエロ爺、ダイヤの指輪って意味深だな。(めかけ)になれってか? でもそれ、カット甘すぎ。ファンタジー世界の技術レベルだからって逃げれねぇよ、その適当さ。そっちのおばさんの贈るケープは趣味がいいね。フィリスに似合いそうだ。そっちのばあちゃんはただの宝石か。まあ、大粒だし、それなりに高いのかも。そこのおっさん、剣なんてプレゼントしてどうするよ。本人用の短剣までにしとけばいいものを。


 心の中で品評をしてみるが、それなりレベルのプレゼントしかない。

 贈るって行為に意味があるのか、それとも軽んじられているのか。どっちだろうね。あとで本人(フィリス)に聞けばいいか。プレゼントの評価で聞けばそこまで露骨じゃないだろうし?



 全員がプレゼントを渡し終え、フィリスからの挨拶でパーティは終わる。

 正直、苦行の一種にしか見えないものだったが、襲撃もなければ大きな問題もなく終わっている。何かイベントが発生しそうで怖かったが、平和だったと思う。


 来客は全員じゃないけど半分以上が今夜はこの屋敷に泊って、明日帰る事になっている。

 それぞれが自身の警護を持っているような方々なのでこちらが護衛を出す必要はない。こちらとしては夜食を出すだけだが、女中さんが夜食にされないように気を配るだけで事足りる。まあ、女中さんに合わせて見回りの兵隊さんも一緒に行くからそんな事はまず無いんだけど。


 深夜にマップを確認すると、フィリスは一人変な場所にいる。

 時間が時間なので普通は自室で休むのだろうけど、それ以外の場所に一人でいる。

 一人になりたいのかもしれないけど、なんか気になるし行ってみますかね。護衛の一人もいないと不用心だし。



 そろそろ日付が変わりそうな時間帯。この時間のフィリスは仕事をすることもあるけど、普段は寝ている。

 いた場所は鍛錬場。何をしているのかと思えば、打棍を構え、金属鎧を打ち据えている。

 ……完全に、ストレス発散だね。構えも何もなっていない。ただ、殴りたいから殴っているように見える。

 まあ、今日のパーティは相当気を使ったみたいだし。普段いない自分より位が上の人間を相手にした訳だからね。苛々することも言われたんだろうよ。飲み物とタオルぐらいは用意して、やりたいようにやらせますか。


 のんびり待つ間にマップを確認すれば、周囲に護衛さんらが配置されている。俺が気を回す必要は特になかったみたいだけど、まあいいか。彼女らは“いつもの事”だから気を使ってあの場所に待機しているんだろうけど、俺は少し話しをしたくなった。

 フィリスは素人だけに、すぐに息が上がった。疲れたからって大の字に寝転がるのは淑女らしくない振る舞いではあるが、一人の時などそんなものかね? 汗だくだし、タオルを持っていく。


「そんなところで寝ると風邪ひくよ」

「……っ!」


 おお、驚いてる驚いてる。

 “いつもなら”気を利かせて誰も来ないところに俺が来たから、相当驚いたようだ。

 問答無用で汗を拭きとり、飲み物を渡す。汗を拭くとき、ちょっと役得もあったけど、あえて無視する。

 身体を起こしてドリンクを飲むフィリスの横で、俺も同じものをちびちび飲む。


「んぐっ、んぐっ、ぷはぁっ。美味しいねぇ」

「一気かよ。もうちょっと落ち着いて飲めよ」

「無理。今日は無理よ~」


 渡したドリンクはショウガに塩と果実の汁を少し混ぜたもので、簡易スポーツドリンクである。火照った体にはちょうどいいだろう。

 飲み終えたフィリスは起こしたはずの身体をまた横にした。


「エロジジイの相手はもうイヤ~。ツマンナイ話なんてしたくない~。誕生日に、何が悲しくて馬鹿どもの相手をしなくちゃいけないのよ~~」


 普段、フィリスはニコニコとして余裕を見せている。それが今日は子供の様に不貞腐れている。相当レアな表情で、今、とても不機嫌ということだろう。

 愚痴を抑えることもなく、疲れた表情を見せるフィリスは普段のニコニコとした笑顔よりも幼く見える。不思議だね。普段のニコニコ顔も幼さを感じるのに、こっちの方がもっと幼いというのは。それだけ“素”の表情ってことか?


 フィリスの愚痴は続く。

 何か気の利いた事を言えればいいのかもしれないが、俺にそんなことはできない。

 まともに就職した事はないし、こちらでやっている事なんてゲームの延長とバイト感覚の簡単な仕事だけだからだ。なんとなく想像できても、根本的なところで共感できない。

 だから。

 だけど。

 自分にできるせめてもの事をしようと、アイテムボックスからあれを取り出す。


「ハッピーバースデー、フィリス」

「?」


 俺が取り出した腕輪に目を向けたフィリスは愚痴をやめ、不思議そうに俺を見た。


「ホントならさ、明日のパーティでみんなと一緒に渡すのが正しいんだろうけど、誕生日は今日だろ? だから、プレゼント、今日渡すのも間違ってないし」

「……」


 フィリスは、無言。

 驚いたように、何を言えば分からない時の俺のように、ただぽかんとこちらを見ている。


「とにかく、21歳の誕生日おめでとう。フィリス」


 返事がないと、何を言えばいいか分からなくなる。だんだん照れくさくなってそっぽを向くが、しょうがないじゃないか。恥ずかしいんだし。


 フィリスは、ようやく状況が呑み込めたのか、俺の手から腕輪を受け取り、呆けたような表情のままそれを眺める。


 日付が変わった。誕生日が終わる。


 いつまでたっても何も言わないフィリスを横目で見ると、フィリスは何故か泣いていた。

 ちょ、どうして?

 さすがにプレゼント一つで泣かれるってどんなん? いや、喜んでもらえたと思うよ、行動から言えば。

 でも、泣かれるって、俺はどうすれば?

 混乱してしまった俺に、ようやくフィリスがしゃべり始める。


「あ、りがと。うれ、しいんだ、けど。なんか、今、上手く、言葉が出なくて」


 途切れ途切れに、感謝を伝えるフィリス。でも泣き止まない。

 何がそんなに琴線に触れたんですかね!? 


 しゃくりあげるフィリスに俺の混乱は加速する。

 さっきのセリフも無理をして言ったのだろう。また意味のある言葉を出せなくなったフィリスを俺は持て余している。

 よし、逃げよう。


「じゃ、また明日」


 しゅたっと手を挙げ、別れのあいさつ。

 敵前逃亡は銃殺刑だが、これはいったいどんなペナルティが来るのかね?

 そんな益体もない事を考えながらフィリスに背を向けた瞬間、腕を掴まれた。

 何事かと思い、振り向くといつの間にか腕輪を身に付けたフィリスに両手で顔を抑えられ、



――キスを、された。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。

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