主人公、異世界に立つ
タイトル詐欺を続行中。学園物までの道は遠いです。
異世界転移、チートトリップというジャンルがある。
ゲーム世界にステータスなどを引き継いで入ってしまうラノベの定番だ。
俺、工藤真樹はそんな状態らしい。
俺がやっていたのは「Brave new worrld」という王道ファンタジーを体現したかのようなVRMMO-RPGだ。パーティを組んで敵と戦う事をメインに生産その他、何でもできるのは現代のゲームではほぼ常識である。
レベルとスキルが混在するゲームでは自己強化にはキャラクターレベルを上げるだけでなく、様々なスキルのレベルを上げることで強くなる仕様。ちなみに生産活動でもキャラレベルは上がる。
リリースしてから5年。次のゲームへの移行が始まり引退した奴も多いけど、俺は未だにこのゲームに残っていた。
俺はいつものように家でゲームをしていたはずが、気が付けば見知らぬ平原。思わず座り込んでしまう。
五感がリアルになり、ゲームでは再現されない「痛み」がある。ログアウトできない。仲間とも連絡できない。どうすればいいか分からない。
1時間は動けずにいただろうか? とりあえず、今は自分の状態を把握することに努めよう、と、そこまで精神を持ち直す。
ステータスウィンドウはそのまま見れるし、身に着けている装備もゲームのまま。アイテムボックスに入れてあったアイテムは何もないところから取り出せる。攻撃魔法や戦闘スキル、近くに生えていた薬草を使っての生産スキルもゲームと同じ感覚で正常に機能した。貨幣――金貨も大量にある。手持ちはボスを倒した直後なので8億ゴールド。1枚1ゴールドで金貨8億枚が手持ちの資産だ。倉庫のアイテムがほとんど取り出せないのが残念だが、切り札的なものは召喚できるようにしてあり、助かったと思っておこう。
今の自分の状況を考えるに、デスゲームの可能性も考えたが、今の技術力でこんな世界を作り上げるなんてできないだろう。だからここは異世界(ゲーム世界)召喚でファイナルアンサー。間違っていようが最悪を想定するのは基本だ。読んだラノベもそう書いている。というか、「死んだら終わり」は全部共通。方針に変更する理由などない。
しかし、この手のテンプレでは最初に神様とかから説明があるのがお約束ではないだろうか? いや、その場合は自分が死んだパターン。説明がなかったのはリアル自分が死んだわけでもなければ勇者でもないってことだろう。ああ、変な方に思考が脱線するな。
ただのゲーム廃人がこんな状態になれば狂喜するかもしれない。定番ってことはそれだけ夢想するやつが多いってことだからな。
だが、だが、俺の場合は最悪の事態でしかない。
女キャラをやっていた?
――違う。
変な種族だった?
――見た目は人間だし、たぶんそこまで問題にならない。たぶん。
一般生活に不向きなスキル構成とか?
――スキル保有数はゲーム中でもトップクラス。生活・生産に役立つものだってほぼカンストしてるよ。
俺の考える問題。
それは「強すぎるステータス」のために「目立ってしまい」「一定以上の人数から好奇の目に晒される事」だ。
過去、いろいろあって俺は対人恐怖症になっている。20人以上から注目されると思考が停止し、「やらかしてしまう」キャラになった。
ゲームであれば気にならない。ゲームでは視線に感情が籠るなんてことはなかったからだ。
しかし、リアル世界化した(かもしれない)ここで、ゲーム世界のステを持った自分が「やらかす」のはどう考えてもマズイ。下手をすれば人が死ぬ。
リアルなら一般的ニートである俺が「やらかした」ところで大したことはできない。なのにどうしてこうなった。
対人関係を作りたい。けれどリアルでは絶対人に会いたくない。そうやってゲーム廃人になった俺がリハビリもなしに人前に出ることは想像したくない。リハビリなんてしたこともないけど。
色々と思考が迷走した気もするが現状の把握をひとまず終える。次は手持ちの食糧を食みながら、これからのことを考えよう。
今いる平原は草しかない。動物は見当たらないし、川がない。木だって遠くにしかない。
ここに生活拠点を作る気にはなれない。建築資材に水や獲物の確保が大変そうだからだ。
人恋しくなることはあるだろう。だが、今は人に会いたくない気持ちが強い。しばらく隠者のような生活をすることに決め、ねぐらを作るべく、一番近くに見える山に向かって移動を開始した。
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