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ニートに恋愛ゲームはイジメです  作者: 猫の人
1章 入学前、出会いの嵐
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エンカウント:ペナルティメーカー

戦えば瞬殺されます。

 勝てるはずのない、戦いだった。


「……」「……」

「二人とも、そろそろ機嫌を直してくれ」

「アイスクリーム」

「ザッハトルテ」

「分かりました、作ります……」


 ティアとマリィ(怒れる女性)の前に、俺は屈した。

 機嫌を損ねた女性というのは、御しきれるものではない。

 ちなみにこれは今回が初めてではない。すでに9品目、作る約束をさせられている。


 魔神との邂逅の後、俺たちはセイレンに強制送還が決まった。

 生きているだけで幸運だったとか思わなくもないが、あまり納得のできる話ではなかった。





「はじめましてだ、プレイヤーの一人。吾輩こそこの世界の管理神が一柱『ペナルティメーカー』である! 恐れ崇め、敬うがよい!」


 目の前にいるペナルティメーカーと名乗った魔神の存在感は圧倒的だった。

 ウォレスさんはあっさり気を失い、誰もこの場に来ないことを考えれば他の皆も同様だろう。俺も気を抜けば倒れてしまう確信がある。


 見た目はスーツを着た20代の青年といったところか。きっちり七三に分けられた白髪に異様に赤く光る両眼、ミスマッチとも言える捻くれた木でできた杖を持った身長180cm程度の細身の男。

 日本で見かける服装と髪型、日本ではありえない髪と瞳の色。チグハグでだからこそ魔神特有の威圧感が似合う自称管理神(バケモノ)

 正直、生き残る自信もこの場にいる人を守る希望すら見い出せなかったりする。


「ふむ。そう構えるでない。吾輩は紳士ゆえに無闇矢鱈に戦うことなどしない。野蛮人とは違うのだよ、野蛮人とは」


 両手を広げ、笑みを浮かべても不気味な印象は覆せない。脂汗がにじみ、喉がカラカラになる。

 先ほどの一撃はなんだと言うのか。

 一挙一動に注意を払い、即座に対応することを考えていると、ふいに声が響いた。


「無様である」


 俺の全身から力が抜け、倒れ落ちた。同時に負っていた傷が治り、大きく減った魔力が回復するのがわかる。

 回復は精神状態にも及ぶ。焦る心が静まる。

 こいつは嘘を言っていない。つまり他に何者かがいて。

 ああ、そう言えばいたな。マップに写らないモンスターが。


「戦う心算はない、と言ったのである。剣を持たぬ者を前に、戦に狂うとは(まこと)に、無様である。その癒やしは貴様への『慈悲(ペナルティ)』であると知れ」


 顔を見ることは叶わないが、あきれ果てた目付きをしているのをありありと思い浮かべることができた。


「まったく。慈母(エヴァ)運命神(フラグ)はこんな小僧のどこがいいのであるか。女性(にょしょう)の考えることは全くわからないのである」

「女の考えることがわからないのは、男なら誰でも同じだろ。男にはわかったフリをしてる奴とわかってないことを知っているだけの奴しか、いない」

「ふぅむ。少しは落ち着いてきたようであるな」


 相手のボヤキに軽口を叩けばこちらを認める気になったのか、全身の脱力状態が解除された。

 ゆっくりと立ち上がり、今度は普通に、気負うことなく正面から相手を見据える。


「さっきは丁寧な自己紹介、どーも。知ってるだろうけど、名乗らせてもらうよ。こっちの名前はアルヴィース。祖をお同じくするが異なる世界の魔法剣士だ」


 ペナルティメーカーは俺の挨拶を聞いて「ククク」と嬉しそうに笑う。愉快な喋り方とそれなりに節度と余裕を感じさせてる神様。しかし邪悪な感じしかしないのはなんでだ? やっぱり顔かね。

 ペナルティメーカーはおそらく、「ヒロイン降格」時のペナルティを与える神様なのだろう。その役割などから、魔神に似た雰囲気を与えられている可能性が高い。


「今回この村が襲われたのはなぜかわかるかね?」

「なぜ? 魔物の発生は自然現象だろ。近くで魔物が発生した。魔物は知性がなく、ただ近場の村を襲った。それだけだろ?」

「違うのである。これは汝への『ペナルティ』である」


 笑顔を崩さず、さらりととんでもないことを告げた。

 この村の、この惨状が俺へのペナルティ? 理解の外にある内容に、思考が停止する。


「吾輩はペナルティメーカー。故にペナルティを与えるのが吾輩の存在意義である。今回、汝は汝らの言う『ヒロイン降格』を引き起こした。そのため、汝の近くに魔獣が湧いたのである」


 ……セイレンを出て会わなくなったフィリス(ヒロイン)に何かがあった? 今のところフィリスとは提示連絡はしているし、特に問題はなかったと思うのだが……


「汝はおそらく考え違いをしているのである。会った・会ってないなど関係ないのである。ヒロインはヒロインである因果を持ち、会わずともヒロインとして不幸(イベント)が発生するのである。そこに汝がいなければ、悲劇は起こるのである」


 っ!

 つまり、セイレンに居続けることが正解だったっていうのか!? あの時あの場所ではこれ(山篭り)が正解って考えたのが間違いだったと?

 俺は過ちを指摘され、動揺を抑えきれない。


 相手の言い分は理解できないものではない。

 何かあって、助け、出会う。ティアなら捕まっていたところを助けたのが始まりで、あの場で助けなかった可能性(未来)でなら、ティアには考えたくない不幸が降りかかっていた可能性があるのだから。

 だが、村が襲われたの(この悲劇)が俺へのペナルティっていうのが理解できない。

 もっと、ちょっとした不幸が降りかかるんじゃないのか?


「不幸の規模など、その者が不幸に感じる内容以外選ばれないのである。汝は自身が傷つくことを厭わない。ならば周りに不幸がまき散らされる。当然の結果である」

「……ずいぶん暇な神様なんだな。わざわざそんなことを言いに来たっていうのか」


 間に合ったんだからたいした不幸じゃないだろ、とでも言いたげだ。その態度に思わず悪態がついて出る。

 ペナルティメーカーは笑みを深くする。


「うむ。それだけではない。アルヴィースよ、異世界の亜神へこの世界の神々が忠告を与えよう。

『汝は既にこの世界の包囲にとらわれておる。よって、至る道より遠ざかることは災厄を招くであろう。数多の邂逅と共に(せい)を証明せよ。運命を受け入れ、運命を超え、時を超え歩むがいい。サダメを忘れるな。忘れた時こそ滅びの王は再臨する』

 運命神(フラグ)からの伝言は以上である。奴の分かりにくい言葉を簡単にしてしまえば、『さっさとセイレンに戻らないと、ヒロイン達が酷い目にあう』ということである。助けなくても責任はないが、それは汝の選択した結果である事を忘れるなよ、である」


 ペナルティメーカーの発言は、運営がまともなプレイをしないユーザーに警告するような意味合いだろう。それならばこの世界の神とは運営の駒のようなものなのだろうか?

 いやらし言い方で、こちらがやって欲しくないことを平然と、喜んでするあたりが管理神ではなく、悪神に思えてしまう。こんなのが管理する世界なんて、とも。


 それと、気になる単語がでてきた。最後の「滅びの王」という部分である。伝言は回りくどい言い方をしているので、何らかの比喩かもしれないが、何か引っかかる。

 ペナルティメーカーは言葉の意味を考え始めた俺に満足すると、ついでのように付け加えた。


「汝が抱える(わざわい)、それは軽減しておこう。これで暴れ回ることはないのである」


 !?

  ペナルティメーカーが手にする杖をこちらに向ける。それだけで、俺の頭の中に何か(・・)が組み込まれた感じがした。


「ではサラバであ~~る!!」




 俺の反応を待たずして魔神( ペナルティメーカー)の気配は消えた。

 ペナルティメーカーはこうして去っていった、である。


 さて。残務処理をはじめとするか。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。

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