幕間:オルコック家の人々
短いです。すみません。
エナ=オルコック、13歳。
金髪碧眼、それなり以上に育ちのいい体は肉体労働を知らずとても細い。
気の弱いところはあるが、魔法に対して非凡な才能を持っている。
オルコックを名乗っているが、母親は騎士爵である。母親が宮廷魔術師並みの魔法使いだったので公爵の目にとまり、長男の嫁という形でオルコックの末席に加えられた。
当時この事件は国中を駆け巡ったのだが、生まれる前の事件なのでそれについて娘はほとんど何も知らない。
ただ、身分差を理由にいろいろ言われて生きてきた。
エナ=オルコックにとって結婚とは「仕事」だった。
いずれ好きとか嫌いとかは別で家柄などだけで自動的に選ばれた相手のもとに嫁ぎ、子を産み、夫を支える。そんな仕事のはずだった。
彼女は昨晩、当主である公爵に呼び出され、別の仕事を言いつけられた。
一人の少年と仲良くなり、表沙汰にはできないが結ばれる事。それをするのは自分の判断に任せるということ。
つまり、相手を限定した自由恋愛。
相手を限定している時点で「自由」というのは市井の人間には首を傾げる言い方だが、公爵家ほどの貴族の中では十分「自由」で通る。これは本当に珍しい話なのだ。
そのお相手は物語に出てくる英雄のような能力を持つと聞かされ、エナは会う日をものすごく楽しみにしていた。
ただ。異母姉妹の中に同様の事を言われた者がいるらしく、競争になるという話も聞かされた。
政略結婚というのは基本だけに有効だ。同じ公爵家から1人の男に何人も嫁ぐというのは大きな損失である。血族の中から1人、多くても2人までが上限になる。
親戚といえど仲は良くない。足の引っ張り合いは当主の勘気に触れるのでやらないが、意地の張り合いによる勝負事はちょくちょく行われている。
その事を考えるとエナの小心者な部分が首をもたげるが、考えないようにすることで対処していた。
自分で考え、自分で決める。
それが許される事が、エナにとっては大事なことだった。
今回の話を聞いたもう一人、グレイス=リル=オルコック。12歳。
金髪ツインドリル標準装備という、貴族令嬢という妄想を体現したかのような彼女。
見た目の通り勝気な彼女は魔術よりも剣、それも大剣の使い手だった。いつか敬愛する兄とともに戦うのであれば役割分担をすべきと前線で戦うすべを手にした少女。
彼女にとって結婚とは自身の成り上がる「手段」だった。
そんな彼女にもたらされた「物語の英雄並みの力を持つ少年」との婚姻話は渡りに船、カモがネギと鍋を背負って来たような幸運だった。
性格は知らないが、能力の保証がされている。実績を作るのに困らない夫というのは、彼女にとって喉から手が出るほど欲しい存在だった。
しかも、表沙汰に出来ないというのは上手くやれば表向きの夫を使い、二重にいいところを持っていける可能性を示唆している。
なんて都合のいい。
彼女の中にあるのはそれだけだ。
利用価値の高い夫を手に入れ、当主である祖父の歓心を得て、幸せな未来を手に入れる。
もしも生まれる子どもに能力が引き継げるのであれば、将来も安泰。
公爵家の一員になることで相手も幸せになってもらえば問題ないだろう。
優秀な兄が死んで、一族の中で落ち目と言われるのを回避しなければならない。
アルヴィースに多少の因縁を持つ少女は家の為、自分の為に使命を果たして見せると誓った。
セイレンの学園で教官職を勤めるタントリス=ウォード。一応騎士爵。
中肉中背、どちらかと言えば細身に見えるこの男は、学園屈指の剣士である。といっても武器を選ばずなんでも使いこなせるので、剣が一番得意というだけだが。
一時期ちょっとした問題を起こし、危うくクビになりかけた過去を持つ。
彼は袂を分かった実家からの命令に辟易していた。
『孫娘を二人預ける。
お前の生徒と一緒に学ばせろ。
できるだけ仲良くなるように仕向けろ。
補佐を付ける。上手くやれ』
剣を究めたいからと12歳で家を出て実家を出て10数年。
すでに結婚もして娘もいる。……別居中だが。
そんな彼にとって公爵家からの命令など、破り捨ててしまいたいものでしかない。
だが、それができない事は彼自身が一番よく知っている。
最近ダンジョンで行方不明だか死亡したか知らない甥っ子の所為で、オルコック公爵家はちょっとした騒ぎになっている。
このタイミングで来た命令を無視するのは一人で公爵家と全面戦争をする覚悟が必要になる。
なにより、命令内容が曖昧かつ忌避感を覚えるほど面倒な指令で無かったこともタントリスの心を軽くする。
若人に出会いの場を提供する。それだけだ。
去年までは生徒も少なく貯蓄も厳しい。
今年になってようやく授業ができるようになり生活できるようになったが貯金できるほどではない。
冒険者時代に手に入れた武具は手放したくない。
金の為、彼は一つの決断をした。
貴族の家を出て長かったタントリスは知らない。
貴族というのがどれほど貪欲なのかを。
知ったつもりで分かっていない事を、数ヶ月後に理解する。
次期当主候補がいなくなった事で自身の価値が跳ね上がり、狙われる立場になった事を。
お願いを聞くというのは、つながりと前例を作る第一歩だという事を。
ついでに、因果応報という言葉がある事も忘れていた。
よく出来た貴族の娘というのは、薬を使ってまで子作りするんですよ?
実はターゲットがアルヴィースで無く、タントリスでも良いと言われている事を知るのは、既成事実が成立したその後の話である。
ハーレム以外は日本の恋愛事情と近い世界観を持つルースニア。
浮気は許されてもロリコンは許容出来ないと言う人は何気に多い。
ハーレム公認の世界で、タントリスが妻子からロリコンと罵倒されるまであとわずか。
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9月5日 日本語修正
× 見た目に通り勝気な →
○ 見た目通り勝気な




