当日④
一瞬混乱したが、すぐに自分の中で納得のいく答えが出た。
迦月が国の要人、その血族と仮定した場合、異国であるルースニアに来る時、どこかの貴族が保証人というか、仲介役をするのは至極当然であるといえた。それは迦月の立場が上であれば上であるほどルースニアで世話をする貴族の爵位も上になるわけで、迦月の立場が姫様とか王族クラスであれば公爵家が関わるのは至極当然だろう。
ウルスラがどんな国でルースニアにとってどんな役割があるのか知らないけど。
迦月は最初に会った時と同じ公家っぽい恰好をしている。
表情に色は無く、人形のようなそれは不本意だからか、それとも別の理由があるのか。
しかし、これで情報の漏洩元が分かった。
迦月と知り合ってすぐの頃、使い魔の設計をしていたからその時のものか。
迦月にしてみれば仕事の一環であり俺に対し不義理などとは思わないだろう。こちらも不用意に手を見せすぎた訳だし、これまでの事は失敗したと思うが、裏切られたという気はしない。
ただ、仲良くなるのは難しくなったと思うが。
さすがにこれで仲良くなろうとは思えない。どんな理由があったにせよ、だ。
迦月の参加により多少乱れていた思考も随分落ち着いた。
情報を得て状況が理解できたのは大きい。
俺のバレてしまった手札、そのうち明言されているのは≪彫金≫≪鍛冶≫のみ、各種魔法をはじめとした戦闘能力も迦月経由で明らかになっている。
≪練金≫をはじめとした使い魔制作については図面が正しいかどうかの立証ができると思えない。こちらの世界で見てきた素材と技術のレベルであれを再現できると思っていない。だから妄想の類と切り捨てればいい。証拠などどこにもないのだ。
「お互い見知った顔じゃ。紹介はいらんな。話を戻すぞ」
「構わない。で、この紙きれの話だっけ?」
余裕を取り戻し、不敵に笑ってみせる。今更ではあるが、何もしないよりはマシだ。
爺さんは「おう」と応え少し身を乗り出す。
「小僧。お前はこれを作る事が出来るのか?」
ストレートな問いかけに思わず笑ってしまう。どこまでが演技でどこまでがわざとなのか、それを読む事はできないがこちらも決まりきった答えを返すだけだ。
「まさか。気の向くまま、適当に描いた落書きだよ。こんなのが欲しいな、ってね」
「お前が描いたのは認める訳だ」
「まーね。けどびっくりしたよ。昔書いた落書きが出てくるとは思ってなかったし。どうやって手に入れたの?」
このまま質問攻めに会うのはよろしくないのでこちらも質問をする。
爺さんは分かりやすくニヤニヤして迦月を親指で指す。
「分かってる事を聞くな、小僧。迦月が持ってきたに決まっておるだろ」
「おやまあ。全然気が付かなかった」
「わざとらし過ぎるぞ、小僧」
「顔だけで笑ってる人よりはマシじゃないか? 目が笑ってない笑顔って怖いんだよね」
「そうだな、商人相手ならケツの毛まで抜かれそうになるからの」
「品のない爺さんだな。レディの前で言う事か?」
「無礼も下品も生まれつきじゃな。年寄りを大事にできん子供よりマシと思わんか?」
「違いない」
お互い、喉を鳴らすように嗤う。
公爵と平民の会話とは思えない内容だが、お互い名乗って無いんだから真実は闇の中である。
その後しばらくただの雑談が続く。
途中で料理を出されて夕飯となるが、お互い料理にはあまり手をつけず雑談を優先する。
雑談ではこちらの人格面を知られていく訳で、俺が相手の事を知っても大した意味はないのでどんどんマイナスが溜まっていく訳だ。大手と個人では個人情報の重さが違い、俺が爺さんについて深く知ってもあまり益は無い。爺さんが俺を知るのは使い勝手のいい手駒について知るという事で、十分大きな利益となる。
ちなみに迦月は全く喋っていない。黙々と出された料理を食べてた。
この雑談はまったく収穫が無かった訳ではない。
切り札と思っていた≪隕石群召喚≫が使い物にならない事を理解させられたからだ。
もしこの爺さんにそれを知られた場合、いかなる損害を出してでも俺を殺しに来るだろうという事が分かった。王都を人質にしようが爺さんの身内を人質にしようが関係ない。やると決めたらやるだろう。そんな印象を受けた。
大事な手札を晒す前に分かっただけで十分だろう。まったくメンドクサイ。
料理は俺の胃袋の5倍は出されたので大半は手をつけずにそのまま残す事になった。勿体ないお化けが出ないように、誰かが残飯整理をする事を切に願う。
そういえば、後ろのノエルは食事もせずにこの場に臨んでいる。目の前に手付かずのごちそうを並べられ、手をつけられる事無く片付けられるというのは一種の拷問のようだと思った。
そんな俺の思考を読んだ迦月が呆れた目で俺を見るが、「しかたないだろう」と睨む事で返す。
何で喋らないかは知らないが、今は面倒事に首を突っ込む気にはならないのでそこはスルーしておく。俺から話しかける理由も無いし。今は爺さんの相手に集中すべきだろう。
飯を食べ終えると、そろそろ帰るタイミングという奴だ。
食事の時間に誘ったのだし、それを逃せばズルズルとこの爺さんの相手をさせられる。顔見せ程度の話はできた訳だし、今後の約束とかをしないで逃げたい。
だが、爺さんは最後にとんでもない爆弾発言をする。
「小僧、お前は貴族になってみたいと思わんか?」
「ないない。平民は平民でいる方が幸せだよ」
公爵家には男爵や騎士爵を取り立てる権利がある。
それより上は領土が絡むので王族以外に取り立てる事はできないが、土地の絡まない範囲ならわりと自由に取り立てる事が出来る。
騎士爵についてはただの職業軍人って意味合いが強いので、平民でもなりたがる奴は多い。一般兵として徴兵される事もある平民は、それなら騎士の方がと考えやすいようだ。
これが逆に男爵だと市役所職員みたいなもので、貴族っていうイメージが弱く平民からもなめられる事が多いので、あまりなりたがる奴はあまりいない。多少金周りは良くなるから商人ぐらいかな、なりたがるのは。
俺にはどちらもパスしたい話なので軽く断る。
「儂は人を見る目のある、経験豊富な男だから問題ないがの。目立てば何も考えず群がる馬鹿どもも増えるじゃろ。大きな後ろ盾も無く、ただの個人のままなら何が起きるか分らんとは思わんか?」
「クソジジイ……」
「土壇場になるまで放っておいて、いざという時にだけ助けを求める阿呆を助ける義理はないとは思わんか?」
そのまま聞けば「早めになびくなら手を貸すけど何かあった後なら見捨てるぞ」となる。だがこの爺さんが言いたいのはおそらく「何か自力で解決するのもいいが、やり方次第では潰すぞ」ということか。なんてメンドクサイ爺さんだ。
ここまでは大したことじゃないので俺も気にしなかった。
が、最後のだけは、この場にいる全員にとって予想外だった。
「もし気が変わったらまた来るといい。その時は孫娘の婚約者にしてやるわい」
4章は幕間を挟んで終了です。
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