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ニートに恋愛ゲームはイジメです  作者: 猫の人
4章 最後の平穏
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当日③

 オルコック公爵は剣と槍の実力者として知られる。


 軍を率いる才能にも恵まれ、30歳の若さで元帥まで上り詰める。在任中は近隣諸国との小競り合いで大活躍をしている。3年前に引退して、公爵家当主としての地位は譲っていないが、国の役職は持っていない。

 ルースニア王国はここ数十年小競り合いはあっても本格的な戦争などしていない。だが彼が元帥だったときには危険な状態が何度かあった。そのとき戦争を回避できたのは、ガロウィン公爵家の当主である前宰相の活躍か、オルコック公爵の存在感か。そのどちらがより功績が大きかったのかという議論がなされる程に有能な人物らしい。


 政治家としてはあまり評判は良くないが、それは貴族らしくない実直さによるもので、領地内部で腐敗を許さぬ厳然とした態度と周辺貴族との交易を重視する政策により味方は多い。

 セイレンもその交易網に組み込まれていて、農業に強いが工業系に弱い事もあり、地位を抜きにしても簡単に逆らえない相手である。公爵領から流れてくる質の高い金属製品がセイレンの工業発展を阻害している気がしないでもないが、それについてはフィリスも気がついている内容なので言うだけ野暮だろう。


 とりあえず、難敵と認識しておけば間違いない。

 俺は目の前の屋敷にいる首魁をそう判断した。





 3人を伴い屋敷に訪れたが、ルリエは護衛扱いで付いてきたので屋敷の外で待機。シエルもここから先は役に立たないからと、残るらしい。

 ノエルはこの先、俺の侍女として付いてくる。ここに来るまでにノエルは俺専用の危機感知センサーとして使えることを聞いた。ノエルだけは一緒にいないとまずい、そう言われている。巫女とかには神託や何かを受け取るスキルが存在したので、その関係ではないかと考えている。



 オルコック公爵家の別邸はフィリスの屋敷より少し大きめ程度の規模だ。

 セイレンでは一番大きい屋敷ということになる。別邸というのにフィリスの屋敷より広いとは、貴族の力関係と見栄には閉口してしまう。普段ほとんどいないだろうに。


 この屋敷のメイドさんに案内され、オルコック公爵の元に向かう。

 広い屋敷を延々と歩かされるので、リハビリを中断したノエルにはきついのではないかと危惧したのだが、特に問題はなさそうだ。横目で確認したが平然としている。

 途中の会話は一切なし。最初に個人名を口にしないように、と注意しされたが、それ以降は一言たりとも口にしない。

 軽い会話は期待していないが、公爵という偉い人に会うための心構えとか注意を聞かされると思っていたのだがそれも無く。どちらかと言えば会話を許さない堅さだけがあった。


 メイドさんが目的地である来客用の応接室に着くと、俺たちに向けて一礼。それに合わせて待機していた騎士らしき人がドアを開ける。全員、無言。この扱いはいかがなものかと思うのだが、丁重なのか見下されているのか判別が付かないので短く小さく「ありがとう」とだけ言っておく。

 それを聞いたメイドさんは少し表情を軟化させた気もしたけど、それよりもこれから相対する公爵に意識がいっていた俺はそれ以上何も言わず何もせず、部屋に入った。



 部屋は広く、学生時代の教室の倍ぐらいの広さがある。そこに馬鹿でかい机があり、いくつもの椅子が並べられている。

 部屋には帯剣した2人の騎士と3人の侍女が立って待機している。マップには見えないところに後5人待機していると表示しているが許容範囲なので気にしないことにする。


 公爵らしき人ともう1人、女性が椅子に座った状態で俺たちを待っていた。

 普通、上位にある者は先に俺たちを部屋に通し、後から来るものだと相場が決まっている。あえてそれをしなかったのはこちらに対する牽制か、部屋に仕込みをさせないための策なのか。理由はどうあれ、型に拘らない人物のようだ。


 公爵の対面に待機していたメイドさんが椅子を引く。どうやらそこに座れということらしい。

 あんまり気にしたくないのだが、ノエルが立ちっぱなしというのに俺だけ座るのはあまり気分が良くない。良くないのだが、ここでわがままを通すわけにもいかないので大人しく座るし何も言わない。



「よく来た、小僧」

「来てやったぞ、爺さん」


 少しテンション低めの俺に、目の前の爺がいる。

 年齢は50か60か。頭は真っ白な爺さんだが、筋肉の塊と言って差し支えない偉丈夫である。肌は日に焼け浅黒く、青い瞳にはこれまで会った誰よりも強い光が宿っている。とりあえず小僧呼ばわりされたので爺さんと呼んでみたが、特に反応は無かった。周りの連中もまた、スルーするようだ。

 いや、ただ一人、反応したのがいた。爺さんの隣に座る女だ。


「貴様! その口のきき方は何だ!!」


 分かりやすく激昂したバカは無視する。

 爺さんも喚く女を特に気にした風も無い。おいおい、あんたのお仲間だろうが。


「大体ガロウィンの血族などと名乗る淫売などを――」


 矛先がノエルに向かったので≪威圧≫弱めで黙らせる。

 そうか。暴走させてこちらの引き出しと“線”(怒るポイント)を把握する為の人員(イケニエ)ですか。

 でもまあ、大した実力(レベル)無い(低い)雑魚なので全力の≪威圧≫でなくとも封殺できる。

 これ以上は無駄と判断したのか、爺さんが部屋にいたメイドの一人に合図して怯えた女を連れ出す。連れ出され、退出する一瞬に≪威圧≫を全力に切り替え、メイドも影響範囲に含める。二人そろって転んだが、効果を確認せずにすぐに解除したので気が付けるのは相当な実力者だけだろう。

 部屋にいた騎士と爺さんを見る。騎士たちは直立不動でそのまま、僅かに不思議そうにしたので気が付いていないだろう。爺さんは面白そうな顔をしたので、たぶん気が付いている。


 こちらの実力を計ろうとしたのだし、こちらも計らせてもらった。


 化かし合いは苦手だが、まったくできない訳でもない。

 でかいクランの交渉担当者を相手にしたりすることもあったんだ。スキル表示ではいまだに≪交渉≫4レベルと低評価だが、無力じゃない。



「連れが失礼したのぉ。すまんな」

「いやいや、なんか調子悪そうだったし。そのせいだろ。爺さんも気を付けなよ」


 さっきのはお互い無かった事にして話を進める。


「健康には気を使っておる。問題ない。それよりも小僧、お主、なかなか面白い技術を持っておるな」

「? 11歳の子供ができる事なんて大したことじゃないし。何の事を言ってるか分らないけど、大袈裟じゃない?」

「子供、のぅ。そのナリ、小僧本来のものではないじゃろう?」

「っ。……はて? ずいぶん荒唐無稽な事を言うね。もし若返る手段の一つでもあれば、どこぞのお偉いさんが目に付けてるんじゃない?」

「それもそうじゃな。変な事を言って悪かったな」

「ま、いいさ」


 いきなり踏み込んできやがった。話が早いのはいいが、本当に貴族らしくない爺さんだな。名前を呼ばない、名乗らないのは影武者を使うって意味かもしれないし、公爵本人じゃないかもな。


 それにしても年齢ネタを振ったのは失敗か。変なところで情報を持っていかれた。

 こっちでいろいろやったし、その辺を突っ込まれるとは思っていたけど、年齢ネタに食い付かれたのはちょっと考えてなかったな。

 腹の探り合いは無しにして、話を誘導するべきか?


「俺が呼ばれた理由、そろそろ聞かせて欲しいんだけど?」

「言ったじゃろう? 儂は、お前の持っておる技術に興味があるのじゃよ」


 この爺。すっとぼけやがって。

 あえて具体的に言わない事で情報を引き出すつもりか?

 まあ、それに乗らせてもらうけど。


「武器にやってる≪彫金≫だろ? あんなもん、そう大した技術じゃないだろ」

「大した技術じゃない、か。儂の街にもあんな事が出来る奴はおらんわい。それを『大した技術じゃない』とは、よほどの大物か、ただのうつけか。お主は何も分かっておらんようじゃな」


 いや、状況は知ってるけど。

 でも、1年も経たずにレオナールのおっさんが一人前(7レベル)になった事を考えれば、大した技術じゃないというのは誇張でもない。新しい事ではあるが、難易度の高いものでもない。本当に、『大した技術』ではない。

 そこから先(8レベル以上)の≪彫金≫なら『大した技術』だけどね。



「まあ良い。儂が小僧を呼んだのは別の話よ」


 こちらが1枚手札を見せた事で爺さんも手札を1枚場に出した。

 メイドさんが1枚の紙を机に置く。

 そこに書かれていたのは、魔法生物型使い魔の設計図。

 俺の書いた(・・・・・)使い魔の初期案(・・・・・・・)

 どこで、これを?

 屋敷には置かず、常にアイテムボックスに仕舞っていたのに。


 顔から血の気が引いたが、それを誤魔化そうとできないところまで俺は動揺してしまった。

 そんな俺に、オルコック公爵は追撃を仕掛ける。


 ドアがノックされた。

 公爵の「入れ」という声とともに、見慣れた少女が、入室する。





 彼女の名は、十夜 迦月。

 ルースニア王国から東に位置する真月同盟の一国、ウルスラの要人である。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。


あと1話で4章本筋は終わり。


9月2日 誤字修正


× 3人と伴い屋敷に訪れたが →

○ 3人を伴い屋敷に訪れたが

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