当日①
今日は朝から雨が降っていた。
昨日の夜は星空だったのに、起きたら雨が降っている。6月後半、いつ雨が降ってもおかしくない時期だからしょうがない。
午前の予定は座学だったので雨が降っても問題ない。
タントリス教官は雨でも屋敷まで来てくれるので外に出なくていいのは助かる。まあ、あとで果樹園を見に行くから外出はするんだけど。
座学は屋敷の中でもできるが実技はほとんどが外で、体育館相応の施設は天候に因らず予約で満杯だから雨が降ったからといっても使わせてもらえない。
結果、迦月達は雨の中訓練をしているはずだ。
まあ、戦うべき時に戦えないようでは戦士失格なので、雨天の戦闘訓練と思って頑張ってもらおう。
今日の授業はこのあたりに住んでいる冒険者についてだ。
平和そのもののセイレン周辺でも外から流れてくる魔物が存在し、南のガロウィン公爵領から流れてくるリザードマン、俺の隠れ家がある北の山脈からは狼系の魔物が出るらしい。
なお、北の山の反対側はオルコック公爵領になっている。
あとは森の中にゴブリンの巣があるので、それがこのセイレンの初心者冒険者たちの訓練所替わりになっている。
セイレンのダンジョンに潜るのはは学園に登録しないといけないので、一定期間ごとに探索料がかかる。外より安全に訓練できるのだが、一部の裕福な人間以外は森でゴブリン相手に腕を磨くのが通例になっている。
森で強くなり、それなりに収入が見込めるようになったらダンジョンに潜り効率よく稼ぐ。それが基本だ。
たまに失敗したら商人の護衛をして飯代を稼ぐ。
冒険者というと収入が不安定に見えてしまうが、この国ではなかなか安定した職業だったりする。
これが他の領地、たとえばオルコック領とかだと勝手が違う。
オルコック領には強い魔物が出現する場所が2か所あり、そこで魔物駆除を行い続ける騎士団や冒険者は実戦経験豊富な人が多い。
安全に稼げるダンジョンは無いので冒険者の致死率は高いが、実力ならセイレンとは比べ物にならないという評判だ。
セイレンは上級戦技や上級魔法を使える人間が少ないが、あちらでは何倍もいるらしい。むしろ、セイレンで力をつけた冒険者が腕試しに行く事が多い。
逆にガロウィン公爵領はここよりも冒険者の質は低い。
ガロウィン領は盗賊やリザードマンの被害はあるが、逆にいえばそれぐらいなのだ。
むしろ厄介なのは海に出没するモンスターや海賊が相手で、それを退治するには船が必要。結果、冒険者よりも軍の出番が増えてガロウィン領の海軍はこの国最強と言えるレベルまで鍛えられているらしい。
これはフィリスからの追加情報だが、ガロウィン公爵領より東に行くと他の伯爵領があり、そこには海に面した南国系の学園があるとか。
行ってみたいがたぶんその機会はない。
その海の先に迦月らの故郷、ウルスラがあるとしても、だ。
長々と4時間に及ぶ睡眠誘導を休憩1回というハイペースで受け、半分眠ってしまった俺の頭ではあるがこの後は昼飯だ。
厨房を借りて海鮮鍋と牡丹鍋を振舞う。
俺や教官は海鮮鍋を平和に食べるが、白楼族の兵士ご一行は牡丹鍋で猪肉の奪い合いをしている。肉もいいが野菜も食べろと言いたい。この肉食系女子どもが。
食事を終え、果樹園の世話をしに行く。
傘をさして外へ出る。
こっそり、水の精霊魔法で雨に濡れないようにしている。傘を持っているのは目立ちたくないだけのカモフラージュだ。
足音の水たまりを避けながらいつものように冒険者ギルドへ向かった。
俺が買い取った果樹園の規模は小さい。
リンゴの若木が20本あるだけだ。10本2列で20本。たったそれだけである。
街中とはいえ壁の外側にあり、柵の内側になる。
やっている事がやっている事だけに壁の内側でやる勇気はない。
今回の実験で半分の若木に対して魔力付与実験を行い、残り半分は1回目の結果が出てからと思っていた。
だが、目の前の光景を見るに、そのような未来がないと実感してしまった。
リンゴの木は半分に減っていた。
10本はそのままなのだが、残る10本が消えていた。
盗まれた訳ではない。
ただ単に――擬人化していたのだ。
9人の幼女と、彼女らより少し大きい1人の幼女。
そして、歩き回る草ども。
それが俺の果樹園にいた。
何が起こったか、ある程度予想はつくが理解したくないという気持ちでいっぱいだった。
思わず立ち尽くすが、彼女らは俺に気が付いた。
「パパ、はっけんーー!」
「「「パパだーー!」」」
「きょうも、ごはんだー!!」
「「「ごはんだー!」」」
「ぜんぐん、とつげきー!!」
「「「とつげきー!」」」
幼女と草が、柵を超えて俺を取り囲む。
幼女どもは全裸だ。布の1枚も羽織っていない。
傍目には犯罪チックな光景に映るだろうか? 一応外見的にはまだ小学生レベルの俺なので、ギリギリセーフだといいのだが。
って良くねぇよコンチクショウ!!
身長90~110cmと小さい事を除けば、緑の髪に白い肌、典型的なドライアドのような容姿をしている。だが通常ドライアドは木を住みかとする精霊だ。元になる木があるはずで、木がそのまま擬人化することなど無い。どちらかというと歩き回る草どものように、木がそのまま動き出すトレントなどの方がまだ分かりやすい。一体どうしてこうなった?
いつまでも現実逃避していてもしょうがない。
こいつらの種族とか、自分で選べないのはしょうがないと諦めよう。
よくよく考えればドライアドが宿るのはオークの木なのだ。リンゴの木で代用した時点で破綻していたんだ。そう思おう。
「ご飯って、魔力でも渡せばいいのか?」
とりあえずそう言ってみる。
どうやら正解だったらしく、一様に笑顔になる。
「ごはんー」
そう言って小さい方の1人(?)抱きついてきた。水で服が濡れるだろうが。振り払いたいが、なにかやっているので黙ってそのままにする。
されるがままになっていると、ゆっくりとMPが減っていく。5%ほど減ったら「まんぞくー」と言って離れていった。
代わる代わる裸の幼女に抱きつかれ、MPを吸い取られる俺。客観的に見たら有罪実刑判決という気がしてしょうがない。
最後の1人が離れる頃にはMPは3割まで減っていて、自分が汚れてしまった気がした。なんでそんな気がしたかはわからないが、とにかく汚れた気がした。
落ち込む俺に一番デカイ、と言っても110cm程度の幼女が代表して声をかけに来た。
「パパにおねがいー。けいやくー。しょうかんー。わたしたちとけいやくー」
「「「おねがいー」」」
ようするに。ここで召喚モンスターをゲットという流れか。
今まで召喚魔法はほぼ役に立っていない。
一部の武器召喚はできたが、能力行使や呼び出しはできない状態だった。
その制限が、どれほどかは分からないが解除される。
草も幼女もきっちり整列してこちらを見ている。って、草もかよ。まあいい。
見た目はアレだが、それなりに統率のとれた部隊になるかもしれない。森とかでドライアド(?)の助力があるというのはかなり大きいし。
契約を意識すると、自然と文言が口をつく。
「我アルヴィースが汝らに願う。我は汝らに助力を願う。我は魔力を糧に差し出す。我ら共にあるものとして魂結び、盟友として名を交わそう」
「われ、いまだなもなきせいれいとしてなんじにねがう。われはなんじにかてをねがう。われはなんじにこのみをささげる。われらともにあるものとしてたまむすび、めいゆうとしてなをもとめる」
名前がいるのか。このプチドライアドもどきの名前? リアと同じパターンか?
しまった。2年ぶりの新規契約ですっかり忘れてたな。なんにするか。
「ならば我は汝に名を捧げ、それを持って契約とする」
「ならばわれはさずけられしなにちかい、おんみにわがみをささげよう」
「汝、今より『プチーナ』を名乗れ」
「われ、いまより『ぷちーな』となる」
我ながら酷いネーミングセンス。
まあ、この場は流そう。気にしたら負けだ。
「我らはこれより盟友となる」
「われらはこれよりめいゆうとなる」
「「この誓いを、我が名に刻もう――」」
契約を終えると、先ほどまでいた幼女たちと動く草どもが元の植物状態に戻っていた。
リンゴの木を数えるが、20本ちゃんとある。
精霊の息吹は感じるが、昨日までと違いずいぶん弱くなっている。
一体どういう種族で召喚したらどうなるのかとか、今度試してみよう。具体的には森ステージのダンジョン13階層で。
想定外のイベントが発生したため、とにかく疲れた。
今日はもう何かする気にならないので帰って夕飯まで休んでいよう。
そう思い、屋敷まで戻ってきたのだが。
屋敷の門の前にはマリィが立っていた。俺に気が付き走り寄ってくる。
「アルヴィース様。緊急事態です」
「?」
「オルコック公爵家よりアルヴィース様に出頭要請が来ました。場所はセイレンにオルコック家が保有する別邸。明日の昼に合わせ来るように、との事です」
読んでいただきありがとうございます。
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8月31日 誤字修正
× 傍目には犯罪チックな光景に移るだろうか →
○ 傍目には犯罪チックな光景に映るだろうか




