臨時クエスト:同居人と話そう
会話のみで話が進まない……
しばらくしてマードックさんが帰ってきた。セレスティアのことは仕事先で承認したらしい。
話を始めたら長くなるだろうと、先に夕飯を済ませる。
そして食後、第一回マードック家の家族会議である。……こういうときに名字が無いは微妙だなぁ。
「マードックさん。いったい何があったんですか」
「ふむ。それを聞くのは私じゃないかな?」
俺とマードックさんの間に見えない火花が飛び散る。マードックさんの禿げ頭がキラリと光る。
二人とも何でセレスティアがここに来たのかを知らない。
俺は一昨日の経緯を話していないし、話すつもりもない。いやある程度ぼかせば話せるのか?
マードックさんにしてみればなんでセレスティアが俺に興味を持ったのかは気になるところだろう。もしセレスティアから事情を聞いていても、「自分がどこまで知っている事にするかを決めるために」俺の口から説明を受けたいと思うはずだ。
一方、俺は何でマードックさんがセレスティアを受け入れたかが分からない。いいところのお嬢さんであることは予想できるけど、白楼族ってそこまで影響力を持っているのかね? 情報が足りないので判断できない。
あと気になることと言えば、どうやってここまでたどり着いたか、である。まあ、そっちはセレスティアに後で聞くつもりだけど。
しばらく沈黙とにらみ合いが続く。セレスティアは自分から発言するつもりはないようだ。
沈黙により重くなった空気を払ったのはマードックさんである。
「セレスティア様からは「一昨日暴漢から助けていただき」感謝している事と、助けてもらったことで君に好意を抱き、結婚を前提とした付き合いをしたいから互いをよく知るために「この家に居候したい」と聞いたよ。助けただけであのアラド伯爵が娘を嫁ぎに出すのか、ぜひ聞かせて欲しいな」
チョイ待て。
アラド伯爵?
それ、この街の領主じゃなかったか?
俺の反応に、こっちが情報を持ってないことにマードックさんは気がついたようだ。
「成程」と小さくもらして説明タイムになった。
マードックさんの説明によれば、この街のだれもが白楼族と聞いた時点でアラド伯爵縁の人間だと気がつくレベルだそうだ。セレスティアもその一人娘として、名前だけなら誰でも知ってる、らしい。
ついでにアラド伯爵自身は現在ハタチの未亡人で、かなりの女傑なんだとか。結婚前は期待できる若手ランキングNo.1の冒険者。見染められて結婚して、本当なら伯爵夫人だったのを、旦那が死んで爵位を引き継ぎそのまま白楼族の族長も襲名した。こうなると伯爵(旦那のほうね)が死んだのも嫁さんの陰謀ではないかと思うのだが、死因が死因だけに嫁さんが理由であることは間違いないが謀殺ではないとはマードックさんの弁。死因について聞いたら目をそらして言葉を濁されたけど、何なんだろうね?
死因は置いといて。
確かに領主さまが一人娘なんて重要カードを切ってしまえば気になるのは当たり前だしむしろ俺が事情を聴きに行きたいぐらいだ。戦闘能力を見込んでの囲い込みでも、もうちょっと違う手段をとるのが普通じゃないか? 入り婿とかさ。再婚してないんだから嫁に出すなよ。
マードックさんの事情は、領主さまに言われれば住人としては従う他無いだろうよ。理解した。
話の流れは理解したが、あまりの超展開についていけなくなりつつある。
ついでに、男二人の長話についていけなくなったセレスティアは座ったまま寝てたとさ。
そういえば、メイド服について聞きそびれたな。
翌朝。俺の仕事は午前だけ休みにして昨日の続きである。マードックさんは休めないからと普通に出て行った。
朝ご飯を済ませ、片付けをしているとよれよれになったメイド服を着たちびっ子メイドが起きてきた。本当ならメイド服を脱がせてからベッドに寝かせるべきだったんだろうが、そんなとこをする勇気はない。
着替えたり身なりを整えていないのは、自分じゃできないからだろうね。さすがお嬢様。
セレスティア(5歳)の身長は目測95cmぐらい。頭の上にある三角の耳を含めて105cmといったところか。育ちの良いお子さんだけにふっくらしている。
腰までまっすぐ伸びた髪は桜を思わせる薄紅色。さすがファンタジー。リアルではありえない色である。今は寝起きで手入れしていないからはねたりぐしゃっとなっているのが残念である。櫛で梳かしてあげなくては。
獣人の特徴、ケモノミミは犬耳なのかな。尻尾の形が秋田犬のような巻き尾だから、たぶん犬の獣人だ。
顔立ちは整っているのだが、喜怒哀楽といった表情は見受けられない。完全に無表情である。助けた直後も普通に喋っていたし、やはり表情に大きな動きが無かった気がする。育ちの所為か? 感情が動かないのかね。
「おはようございます。旦那様」
開口一番のあいさつとしては前半は正しいが後半は却下である。
「おはようございます、セレスティア様」
様付けがお気に召さなかったのか、セレスティアは表情を変えずに雰囲気だけで不機嫌を訴えるという神業を見せる。
だが気を取り直してこちらに「宣言」してきた。
「改めて自己紹介させていただきます。セイレン領主、白楼族・族長フィリア=システィナ=アラドの娘、セレスティア=アラドと申します。どうかティナとお呼びくださいませ。
先日は危ないところを助けていただき、ありがとうございます。あのままでは命の無かったこの身。それを貴方様に捧げ、感謝の意を表します」
言い終わり、深々と頭を下げるセレスティア。
「いや、さすがに母親が助けに来ただろ」
「いえ。母は領主として自他ともに厳しくあるべきだ、と、常日頃からおっしゃっています。確実に見捨てていたでしょう」
「なにそれ? テロリストの言う事は聞かないってだけなら理解できるけど、娘を見捨てる・助けるのは別問題じゃないか?」
「敵の多い身であれば最高の護衛は母、自らにつけるのが正しいのです。事実、妾が戻る前に襲撃があったそうです。母が今倒れれば街を治める者がいなくなります。それを避けるためには妥当な判断だったと愚考するものであります」
まるで野生動物の世界だ。野生動物の親も、家族全員の餌が集まらない時は自分を優先して子供を餓死させるらしいからね。
「納得できないけど理解はしたよ。でも、そこからいきなり嫁ってどうなのさ」
「先ほど申し上げた通り、感謝を表すにはこれが妾にできる最高のものであったからです。ですからこの身体、ご自由にお使いくださいませ」
「おいそこの5歳児。意味を分かって無いのにその手の言葉を使うんじゃありません」
「? 意味なら理解していますよ。そのためにメイド服を着ています。母が言うには「メイド服……それは男が抗えないロマンの象徴。属性持ちなら一瞬で堕ちるわ」だとか。「巫女服で効果が薄いらならとにかく試してみなさい」ともおっしゃっていました。それに昨日一日を使い閨の手管も手解きを受けています。身体で受け入れることができずとも問題ありません」
「ちょっと待て母親ぁーーーーー!!!!
自分の娘になんて事を教えるんだ! 犯罪だろ!!」
「夫が妻にするのであれば合法ですよ」
「違う! 年を考えろと声を大にして言いたい!!」
「ちなみに一人称の妾とこの喋り方も、母の指導です」
「そこからかよ! そのキャラ作ってたのかよ! 突っ込む所が多すぎてどう修正すればこの会話はまともになるんだ!! それとあとで絶対母親は泣かす!」
胸を張って言い切ったセレスティアに全力で突っ込む羽目になった。無表情でドヤ顔を表現しないでほしい。非常にシュールだ。
あとは家を特定した方法を聞いたら、「食事の時に使ったお店。そこの店主に聞きました」と返された。もうちょっと思慮深く生きないと、これから先は辛そうである。
まずはこの目立つ娘さんをどうするか考えないと。
思慮深く生きるのは難易度か高い。
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