迎撃準備:最後の一人
まさかのクエスト3人終了。
残るはリアただ1人。
現在時刻23時。
屋敷に帰ってくるのを待っているが、その気配はない。
アイテム製作をしながら待っているが、なかなか姿を現さないリアに、少し疑念を抱いている。
以前探した時に見つからなかったのは俺をストーキングするためだった。わざわざマップの索敵範囲外で魔法を使いながら監視するという、厄介なことをしてくれた。
それについてはもうしないと約束したが、俺の索敵範囲外に意図的に行かないと約束したわけではない。
よって、今この場にリアがいないのは、何かしらの理由があってではないかと思うのだ。
もしそうだとすると、これは相当厄介なことになる。
リアの基本ステ、敏捷は俺より相当早い。≪神速≫を使えばいいのだが、MPその他の問題で追いつくことができるかどうかは怪しい。たぶん、本気で逃げられたらマップ表示までは行けるだろうけど、捕まえるなど妄想の類でしかない。
今できるのは、避けられてなどいないと信じ、待つことだろう。
アイテム製作をしながら待てば時間も無駄にならないし。
結果だけ言えば、深夜2時まで待っても、リアは帰ってこなかった。
俺は翌朝いつもの時間に起きたがリアは屋敷に帰っておらず、その後も帰ってくることはなかった。
そして会えないまま5日経過する。
クエストは、残り2日。
そろそろ後がないところまで、俺は追い込まれていた。
迦月たちとは毎日模擬戦を行い、お互い魔法無しなら10回に1回ぐらいは負けるようになった。
もともとゲーム時代も1対3なら、クラス2段階、レベル差が約10というハンデがあっても、数の多い方が有利なのだ。装備で補ってもよかったが、それをやると模擬戦の意味がない。「条件が互角でも慣れればここまで戦える」という、プレイヤースキル的なものを教えたかったからだ。
魔法ありやルール無用の戦い方は、基礎である魔法無しがある程度安定してからやることにしている。
というかね、普通なら圧倒できるはずなんだし。俺に対し苦手意識を植え付けていたらしい。
レミットさんとは≪高速飛行≫の練習を何度かした。
飛行速度の調整と旋回などのテクニック、魔法を併用するときの注意点などが主な課題だ。
速度を上げすぎれば指数関数的に消費MPは増えていく。移動距離と速度の関係を頭に叩き込み、航続距離の把握をさせた。
旋回やほかの魔法の併用に関しては、主に回避が目的になる。攻撃魔法については、飛ばずにやった方が効率がいいというのが俺の考えだ。
「並走されたらどうするんですか?」と聞かれたが、≪氷霧≫の魔法でも使えば簡単に撒ける。俺のようにマップが使えるわけじゃないんだから。そう教えたら、「氷ってことは、それ、攻撃じゃないですか」と言われた。失礼な、ただの攻性防御じゃないか。
ちなみに、そのうち他の魔法を教える代わりにダンジョンに連れ込もうとしたが断られた。他の上級魔法はどうでもいいらしい。
ミューゼルとは新商品の話でちょくちょく相談に乗っている。主に味見だが、俺の胃袋の都合でそう一度に何種類も食べることができない。だから本人が厳選しているのだが、それでも2枚が限界だ。味見なのだから少し食べればいい、というものでもない。1枚食べきった時の感想が大事なのだから。一口だけだと、評価が変わる危険性があるのだ。特に甘いものはその傾向が強い。最近はチョコ味に挑戦していたが、パンケーキにチョコは合わんよ。サイズ的にくどくなり易いから、調整はシビアになる。
ちなみに今のままだと、順調に行っても出店までに5年ぐらいかかる。13歳が屋台だけで年間金貨100枚稼ぐとか。異世界はなかなか侮れない。
そうやって、俺は他のヒロインと過ごしながら、リアを待つ。
使い魔を作ったり、ダンジョン17階層用の消耗品をそろえたり、フィリスの手伝いをしたり。
リアと会えないことに一つの疑問と、ちょっとした予想をしながら、探しに行く事も無くただ待ち続ける。
賭けではあるが、なんとなく、最終日までには終わるという確信があった。
クエスト発注から29日目、夜。
残す時間が1日と少しになったころ。
待ち人が、姿を現す。
「予想通りだな」
「予想されてた? ……それは、何か悔しい」
「半分以上は相互理解と信頼があってのことだよ。むしろ喜んでほしいな」
「嫁としては、納得する。でも悔しい」
22時。窓から姿を現したリア。
その姿を確認して軽口をたたく。
しばらく見なかったけど、元気そうな姿に安心する。服を見れば汚れもなく、どうやってかは知らないが、ちゃんと着替えていたようだし風呂にも入っているみたいだ。なにか俺の知らない便利パワーだったらちょっと嫌だけど。
「アル? 何か不穏なこと、考えてない?」
「滅相もない」
とにかく、ようやく姿を現したのはクエストの話をするためだろう。
お互いに覚悟が決まったようだ。
いや、時間に迫られ、決断させられたのだろう。
「リア」
俺が名前を呼ぶと、リアは肩を少し震わせた。
やっぱり。
リアは、クエストの答えを聞くことを、怖がっているようだ。
無理もない。俺は2度求められ、2度とも拒絶しているのだから。
「正直、結婚とか子作りとか言われても、実感がない。ちゃんとしたお付き合いとか、たぶんすぐにはできないと思う。だけど、リアと一緒にいる事は俺が望んだことなんだ。責任とか、クエストとか関係ない俺のワガママだ」
少し息を吐いて、心を落ち付け、覚悟を決めなおす。
言う直前になるとやはり心がぐらついてしまうが、それでもリアの目を見て言い切る。
「この先も、俺のそばにいてほしい」
俺がクエストを勘違いした理由でもあるが、リアのそれだけは意味合いが違う。
他の3人とはただ互いを知りあう、仲良くなるきっかけを得るためのものだった。
しかしリアのクエストは「結婚を前提としたお付き合いをする」覚悟を求められる。
さすがに、情も交わさず体を交えるというのは嫌だ。童貞男の純情と笑わば笑え。嫌なものは嫌なんだよ。理由なんて俺も知らないが、俺の中の何かが否定してるんだ。
恋愛感情とかよくわからないが、情欲ありの好意なら婚約は間違った選択じゃないと思う。
静寂が下りる。
俺の台詞にリアが固まった。だが、ここからは返事待ちだ。
次第に場は重くなり、「冗談でした~」とか、適当に場を壊したくなる誘惑がちらつく。だが一世一代の大勝負の如きこの場においてそれをやったら人として終わりだと、必死に自分を制御する。
目をそらさず、リアを見ていた。
そして、リアの目から涙が零れ落ち、悲しみにゆがむ。
「ごめんなさい」
――クエスト『未来のヴィジョンを共有しよう』
――リヴリアが終了しました。
――「アラスティア」が開始しました。
何の約束も成されぬまま、リアのクエストは終わり最後の試練が幕を開ける――
読んでいただきありがとうございます。
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8月18日 誤記修正
× 返帰って →
○ 帰って




