部隊演習:クラスアップ
これが本来の難易度です。
「……では、上級精霊魔法の授業を始めます」
「はい! 先生!!」
依頼のあった翌日から、さっそく授業を開始する。
……学校にも通わず、何で教師の真似事をしているか分らないが、気にしたら負けだと思う。
レミットさんはとても気合が入っているので、ちょっと怖い。
場所は学園の一画。空き教室を一つ押さえ、そこで座学からやってみる事にした。
実演は攻撃以外の魔法を使えば済む話なので、実技演習場を借りる必要はない。
授業の内容は精霊魔法、上級への道である。
精霊魔法は一つの属性に特化したクラスと平均的に使えるようにするクラスに分かれる。
レミットさんは後者、平均的に使える『精霊魔術師』だ。ちなみに特化すると、特化した属性の威力が常時2割増し、それ以外は5割減になる。人によっては複数特化する事もあるが、その場合2属性が2割増しになり、特化と平均を組み合わせれば1属性が2割増しになるだけで済む。
レミットさんはこのまま平均的にすべての精霊魔法を扱う道を選ぶので、『精霊の導師』へクラスアップする事になる。
この場合、「50レベル以上」「4属性の精霊魔法をそれぞれ一定以上の回数使っている」「中級の精霊魔法がカンストしている」「精霊語を習得している」のが条件になる。特化の場合は2個目の条件を「選択する属性の精霊魔法をそれぞれ一定以上の回数他の属性より使っている」に置き換えればいい。「他の属性より」がネックなので意外とメンドクサイ。
レベル的には、10階層以降を安定して狩り場に出来る事を考えれば60~80レベルだと考えていい。
それだけ頑張っているなら、回数の方もクリアしていると考えていい。カンストだってしているだろう。
精霊語はエルフは基本的に自動習得だったし、覚えている条件はすべてクリアしている。
全部条件を満たしているのに何でクラスアップしないのか。
「可能である」事と、「する」事が違うからだ。
ゲームならステータスウィンドウをちょっと操作するだけでクラスアップできるのだが、ステータスウィンドウを開けない普通の人には意識して行うクラスアップ方法も分からないのだろう。それでもクラスアップする人がいるのは、無意識にクラスアップ選択をしているからではないかと俺は推測している。
誰かから上級精霊魔法を教わり、練習したとする。最初はクラスアップしていないので失敗するだろう。しかし、練習を重ね、感覚をつかみ、初めて成功した瞬間にクラスアップする。
こちらに来てからいままでクラスアップに立ち会った事がないし、したかどうか確認もできない。なのでこれは俺の推測推論でしかない。とりあえず、やらせるだけやってみよう。
レッスン1、詠唱
「流転の法を従えし、清き水を持って盾を成せ。万物流転の法により、万象即ち無に還る、無敵の力を今ここに。我と我が友その身を守り、全ての一撃を叩き伏せよ。≪水流の盾≫」
使ったのは水属性の範囲防御魔法≪水流の盾≫。火や水、雷とは相性がいいが、近距離からの物理攻撃と光、闇、土の魔法とは相性が悪い。風と氷相手だとまあまあ。複数人数を守る魔法なので、最近出番がなかったけど、それなりに使い勝手はいい。ドラゴンのブレスを防ぐのによく使う。
ここで使ったところで、水でできたラウンドシールドができるだけなのだから教室でも安心して使える。失敗しても何も起きないのは余所で実験済み。
今回は授業という事で普通に詠唱して使ってみた。普段だと詠唱破棄――≪水流の盾≫と言うだけに――しているので、カンニングペーパーを見ながら詠唱したのはしょうがない事だがそれはレミットさんにはわからない。
「とまあ、このように上級精霊魔法のなかでも安定して使える防御魔法の一つね、これ。矢とかブレストかを防げる。相手が毒をまき散らす奴相手なら必須じゃないかな? まずは詠唱を覚えてね」
「流転の法を従えし、清き水を持って盾を成す。万物流転の法により、万象即ち無に還る、無敵の力を今ここに。我と我が友その身を守り、全ての一撃を叩き伏せよ。≪水流の盾≫」
「最初が違うよ。盾を成せ、だね。」
「申し訳ありません! もう一度行きます。流転の法を従えし、清き水を持って盾を成せ――――」
「成す」だと自分ベースで盾を作らなきゃいけないので、「成せ」と比べると魔法の制御が格段に難しくなる。最初は精霊任せにアレンジなしの詠唱を覚えさせた方がいい。通常より制御しやすい構文で呪文を組んだので、すぐに使えるようになるだろう。これぐらいなら中級から片足抜け出した程度の難易度でしかない。
そう思い、レミットさんの様子を見る。
上級の精霊魔法はイメージを上手く精霊に伝えないと発動しない。先ほど実演したのでそれなりに以上にイメージを構築できるだろうが、それなり程度では伝わりきらない事が多い。
まあ、1週間もあれば慣れるだろう――
「――全ての一撃を叩き伏せよ。≪水流の盾≫! っ! できました!!」
「いきなりかよ!?」
2回3回と失敗して、4回目でいきなりの成功。思わず素でリアクションしてしまった。
「あー、うん。確かに出来てるね」
「はい!!」
指で軽くつつくと、下に向かって力が加わる。上から下に向けて振り下ろすように触れれば、右の方にずらされる。
防ぎ弾く盾ではなく、流しいなす盾。正しく効果が発揮されていた。
「じゃあ次の魔法なんだけど……ここで使えそうな魔法って、何があったっけ?」
予定では、何回かやって感覚が掴めそうかどうか反応を見て、イメージを口頭で伝える訓練に移る予定だった。そのため、次の魔法については全然考えていなかったのだ。
「≪高速飛行≫、≪高速飛行≫を覚えたいです!」
「いや、教室で使う魔法じゃないし」
「では外で!」
「……拘りますね?」
「夢でした!!」
攻撃系の魔法じゃないから周囲に被害は出ないし、そこらでやっても基本的に問題はないんだが。でも、空を飛ぶと目立つんだよな。目立たないようにするには……こっちのエルフって夜目が利かないから夜に訓練するのはやめた方がいいな。赤外線視覚を持ってる某ゲームのエルフがうらやましい。低空を飛ぶとソニックブームじゃないけどいろいろ面倒な事になるんだよな。じゃあ上に向かって真っすぐ飛ぶか? 何の根本的解決にもなって無い。我慢するとも思えないし却下。
教えた後の事を考えると、怖い未来が予想されてしまう。
ただ、教えないのは可哀想だ。夢とか言っているんだし。でも、教えたが最後って気もするし。
しょうがないので、ある程度の妥協をする事に決める。
「教えてもいいですけど、いくつか条件があります。あまり街の上で飛ばない事、飛ぶ時にはこのマントを着る事、俺が教えたことをバラさない事。守れますか?」
「守ります!」
すごくいい笑顔で断言した。尻尾があればブンブン振っているんじゃないだろうか?
返事だけじゃない事を信じよう。
とりあえずアイテムBOXから『隠者のマント』を取り出して渡す。『祖魔神の仮面』ほどではないが、それなりに認識阻害効果を持つマントだ。
いくつかアレンジヴァージョンも含めた≪高速飛行≫の呪文を教え、速度と消費MPについて簡単に説明する。
まあ、最初の飛行で全部MPを使いきったのでアレンジはまた今度俺がいる時までお預けになったが。
子供のようなレミットさんに苦笑しながらも「また今度」の約束をする。
すると、システム音がした。
――クエスト『未来のヴィジョンを共有しよう』
――レミットが終了しました。
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