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気象予報士 【第1部】  作者: 235
仕事、そして問題解決
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 朝起きて、一番にカーテンを開けて外を見た。大粒の雨。

 昨夜作った、てるてる坊主から、いくつも雫が落ちていた。

 

 


 

「おはようございます」

 濡れた傘を扉の外に置いてから中に入ると、ベリルが羨ましそうに自分を見て言った。

「緋天ちゃんは傘が使えていいなぁ」

「え?・・・あ、そうか。雨が流れてきた時は、傘も使えないんですね」

「うん。普通の雨の時は使えるんだけどね。流れてきた雨はね、アウトサイドの傘を使っても溶けてしまうし。こちらの人間が使うとやっぱり駄目みたい」

「じゃあ、あたしが持った傘の中に、こっちの人が入ったら?」

「平気だと思うけど。それでも雨に触れた部分の服は溶けると思うなぁ」

 ため息をつくベリル。部屋の中を見回して、蒼羽がいない事に気付く。

「・・・今日も蒼羽さんいないんですね」

「今のこの雨、流れてきてるんだ。しかもアレが出そうでさ。蒼羽は朝早くから、目をつけてたアウトサイドの所に行ってる」

「・・・やっぱり」

 暗い顔になってしまって、ベリルは申し訳なさそうに口を開く。

「ごめんね、私もこれからセンターに行って、いろいろ報告しなきゃいけないんだ。最近仕事してなかったから、そのツケがまわって・・・・。悪いんだけど、緋天ちゃん留守番しててくれる?」

「はい、分かりました。あれ? じゃあベリルさんも結晶持ってるんですか?」

「うん。じゃあ、行ってくるね。昼には帰ってくるから」

 そう言って、ベリルはいつもの黒いエプロンを外して、部屋を出た。誰もいないベースの中を歩き回って、いつまでも落ち着かない気分だった。

 

   

 バサ、と音がして、反射的にガラス扉の外を見る。

 蒼羽が扉の向こうで傘をたたんでいた。

「・・・蒼羽さん」

 カウンターの椅子から立ち上がって、扉を開けて声をかけた。

「・・・もう平気なのか?」

 一瞬、何の事だか分からなくて。自分の体調を伺っているのだと理解した。蒼羽の顔を見ると、その顔色はあまり良くないようにも見える。それなのに自分を気遣ってくれた事が、体の奥の、どこか深い部分を締め付ける。

「全然、元気、です。・・・蒼羽さんの方が忙しいのに。大丈夫、ですか?」

「ああ。・・・ベリルはいないのか。この雨が具現化しそうだから、今から待ち伏せしに行く。絶対外に出るな。いいか?」

 険しい顔でそう言われて、うなずく事しかできない。そのままカウンターの横をすり抜けて、玄関へ向かう蒼羽の背中に声をかける。

「・・・傘、いらないんですか?」

「邪魔になるだけだから。・・・外に出るなよ」

「・・・はい。行ってらっしゃい」

「ん」

 

 おとなしく、蒼羽の帰りを待とう。彼が帰ってきたら、謝りたかった。

 土曜日もらったピアスは大事にするからと、言いたかった。


 

 

 

 ガン、と。

 玄関の方から、大きな物音が聞こえた。何か重いものを、床に下ろしたようなそれに。

 蒼羽が帰ってきたのかと思って、急いで迎えに出る。ところが、扉を開けたら誰もいない。玄関のポーチに置いてあった、大きな鉢が倒れていた。

「あ、なんだ・・・さっきのはこれが倒れた音?・・・んしょ」

 力を入れて、鉢を元に戻す。鉢の中に収まっている木は、もみの木に似ている。クリスマスなんて風習はないだろうけど、これに飾りをつけたら、とても可愛くなりそうだ、と。そんなことを思いながらふと庭に目をやると、プランターがいくつか倒れている。

「・・・風かなぁ」

 ベリルが丹精込めて庭を造っているのは知っていた。緑と、色とりどりの花。季節的にも今が一番きれいな時期で、美しく配されていた花たちが横になっているのは可哀想だった。


 

 全て元に戻して、他にも倒れている物はないかと、庭を見回す。

 ズズ、と地面をこする音が、背後から聞こえた。

 

 振り返ると、蜃気楼のようなものが目に入った。

 二階の屋根に届きそうなほどの、人間の形をした、ゆらゆらした、透明の、それ。

 

 一瞬、顔に当たる部分に、醜悪な、嫌悪感を誘う笑みを浮かべた、人間の顔が見えた気がした。ゆっくりと、それは自分に近づいてきて。

 腕を、伸ばす。

 紛れもなく、自分に向かって。

 

 

 絶対外に出るな、と蒼羽は言っていたではないか。

 外に出るなよ、と念を押したではないか。

 

 目が、逸らせない。

 足が、凍りついて動かない。


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