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気象予報士 【第1部】  作者: 235
事の起こり
2/43

2

 雨が激しく落ちてくる。

 全身はずぶ濡れで。あまりいい気分ではない。

 暗い空と落ちてくる水滴に、いつものように脳の奥に焼きついた記憶が思い出された。それでも甦る記憶は年を重ねるごとに映像が薄れていく。哀惜が追いやられる代わりに、雨の日は苛立ちが募る。


 ただの苛立ちであったとしても、そんな気持ちは閉じ込めておきたい。外に出すべきものではないと。

 そう強く思い続けたせいか、この仕事を始めた頃から世界の色は前にも増して薄れて見える気がする。つまらない感情に振り回されたくなくて。周りの幸せな人間と同じ感情を分け合う気にもなれず、否、分け合う事がどうしてもできず。

 仕事をこなす事が生活の基準。

 ほんの少しの、自分を大事にしてくれた人たちが快適に生きていければそれでいい。他の人間はどうなってもいい。

 自分が生きる意味は、仕事を続けていく事しかないのだ。

 

 いなくなった人物の影を追い求めながら、その力量を推し量る。想像でしかないが、そうでもしないと夜眠りにつく度に死んでしまいたくなるから。いつまで経っても追い越せないままならそれでいいのではないだろうか。



 雨に濡れた前髪が、水を含んだせいで重く下がる。

 視界にそのワイン色が映った。

 今は邪魔でしかない。邪魔な記憶を呼び起こす色でしかない。

 だから後ろにかき上げる。

 何もいらない。何も欲しくない。


 どうしてそう思うのか、もう自分にも分からなくなっていた。    


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