表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気象予報士 【第1部】  作者: 235
蒼羽の雪解け
19/43

19

「ただいまー」

 家に帰って手を洗ってうがいをして、ふと顔を上げて鏡を見たら。左の耳たぶに青い小さな丸い石が見えた。

「うわ、何これ? って蒼羽さんのなんだろうけど・・・きれーい」

 絶妙な青。鏡に顔を近づけると、透かし彫りのような薄い模様が見えた。

「・・・蒼羽さんてセンスいいな・・・うらやましい」

「洗面所で何騒いでるの? 変な子ねえ」

 鏡の前でピアスに見入っていると、母親が横から出てきた。

「お母さん・・・変な子って。あ、そうだ、あのね」

「あら。あらあら。素敵。どうしたの、それ?」 

 就職した、と言おうとしたら、目ざとく左耳のピアスを指差す。

「えっと、これはピアスを開ける為に、貸してくれて。あたしのじゃないよ」

「まあぁ。いいわねえ。私もそういうのが欲しいわー」

「だからね、これは借り物で・・・って、この話は置いといて。あたし明日からしご、」

 仕事に行く、と言おうとして、また言葉を遮られる。

「やあねー。秘密なの?」

「えっと、だから、秘密とかじゃなくて。あれ? 一部秘密で・・・もう、だから!人の話を聞いてよう!」

「あら、やあね。大声出して。最近の子はすぐキレるんだから」

「違うってば・・・」

 話の噛み合わない母親にがくりとうなだれてしまう。

 とりあえず説明するのは後にしよう、と思った。

 

 

 

 

「おはようございま、す」

 今日もきれいな日本晴れ。日差しが強くて暑くなりそうだった。

 幻ではないことをまたも確認して扉を開けると、ソファに蒼羽が座ってテレビを見ていて。

 見覚えのある、ワイドショー混じりのニュース番組。画面の左上に表示された時刻は八時四十五分。彼は振向いて自分を見る。

「少し待ってろ」

 そう言ってテレビに向き直る。ベリルは見当たらず、邪魔をしてはいけない、と思い、黙って蒼羽の右側のソファに座った。テレビの画面に犬が戯れる映像が流れていて、蒼羽がそれを見ている。ものすごい違和感に襲われて、我慢できずに口を開こうとしたら、天気予報のコーナーに画面が切替わった。これを見ようとしていたのだ、と理解して。何故かほっとした。

 

 

「おや、緋天ちゃん。早いね」

 沈黙の中、蒼羽と二人でテレビの画面に目をやっていると。ベリルがカウンター横の扉から出てきて言う。

「ええ? だって九時に来ます、って昨日言いましたよね?」

「え? だってまだ九時じゃないよ?」

 画面の時刻表示を見てベリルが驚いた顔を見せる。

「あの、・・・普通、早めに着くようにしますよね?」

「そうなの? 日本人は真面目だからなあ。あー、ひとつ勉強になった」

「いえ、なんか日本人とか関係ないですよー、それ。時間の概念が違うのかなあ???」

「じゃあ、緋天ちゃんが真面目なの?」

 その切返しに首をひねってしまう。何と答えればいいか、考えあぐねていると、天気予報のコーナーを見終わった蒼羽が声をかける。

「気にするな。ベリルが変なんだ」

「そうなんですか? なんだー、あたし変な事言ってるのかと思った」

「んー? 私が変、って。ひどい事言うなあ、蒼羽は」

 蒼羽の言葉に少しすっきりして、逆にベリルは顔をしかめて。

 なんだか蒼羽とまともな会話として成立している、と気付いて嬉しくなった。

「本当の事だ」

「んっと・・・ベリルさん、女の子と待ち合わせした時とかどうですか? 早めの時間に行きません?」

「えー? 待ち合わせ時間にぴったり着くよ?」

「じゃあ、何かハプニングがあった時は?」

「・・・遅れるねー。そういえば待ち合わせ場所に、女の子が先にいる事ばっかりだなぁ」

 何気ない顔をして言うベリルを見て、苦笑がもれる。

 きっと彼は、その外見も手伝って、もてるのだろうな、と容易に想像できた。必死にならなくても、女の子の方から寄ってくるのだろう。

「ベリルさん・・・女心を判ってないですよー。いつも相手を待ってると、そのうちに、自分は相手にとってそんなに大事じゃないのかな、とか。都合のいい女なんだ、とか。そういう風に思っちゃいますよ。例え時間に遅れてなくても。相手がベリルさんみたいにカッコ良かったら、なおさら」

 勝手な想像だけれど、あながち間違っていないような気がして。

 女性代表として口にしてみた。

 彼からは子供扱いをされているので、少し気分がいい。

「あぁ、そういえばいつだったか、会ったそうそう、私はあなたのなんなの、って言われて、殴られた事が・・・。そうだったんだ・・・。目から鱗が落ちたよ、緋天ちゃん」

 

 肩を落として言ったベリルの言葉に、かなり呆然としてしまっていると。黙り込んだ自分に蒼羽が横から声をかける。

「行くぞ。あいつは放っておけ」

 

「・・・ベリルさんって。・・・女泣かせ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ