表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気象予報士 【第1部】  作者: 235
居場所確保とコミュニケーション
15/43

15

「今日決められるのはこれだけだね。何か質問はある?」

 オーキッドの青い目を見て、ふと思いつく。

「オーキッドさんとベリルさんて・・・なんだか似てます。目も似てるし、話し方も」

 何となく、こちらの緊張をといてしまう笑みや、その親しげな話し方が。二人は同じ種類であると感じて。そう問いかけてしまう。簡単にそんな事を口に出してしまう程、オーキッドの雰囲気は柔らかかった。

 そんな彼の自分を見ていた目が、笑みの形へと変わる。

「よく気付いたね。ベリルは私の甥っ子なんだよ。私の姉の子なんだ」

「わぁ、やっぱり。外見だけじゃなくて空気が似てるな、って」

「君は本当に面白い事を言うね。我々とは違う物を見ている。これからが楽しみだ」


 

 そう言ってから、オーキッドは部屋の中を見回す。彼の部下だろうか、たくさんの人が興味津々の目で自分を見ていた。全員、自分がアウトサイドだと判っているから、気になるのも仕方がないのだ、と言い聞かせた。何しろ、前代未聞の大事件だそうだから。

「誰か。ピアスを持ってきてくれ」

 オーキッドの声に反応して、異質な自分、アウトサイドに近づける機会を手に入れる為に、部屋の奥で彼らが団子状態になる。

「・・・やっぱり珍しいんだ」

 その様子を見て苦笑とともにため息が出た。そこへ服が乱れた、背の高い男がやってきて、オーキッドに小さな箱を渡す。にこにこしながら立ったままの男に、つられて笑いかけたので部屋にどよめきが起こった。

「マルベリー、君は自分の仕事に戻って。他の者も。落ち着け、緋天さんに失礼だ」

 苦笑しながら、オーキッドが言う。そこへ冷ややかな声がかかった。

「オーキッド。こっちの用事は済みました。俺はここにいても?」

「ああ、蒼羽。私達の話も終わったよ。ちょっと待って」

 蒼羽が自分の横にいつの間にか立っていて、それに驚くことなくオーキッドが答えた。無表情で立つ彼のおかげか、室内の喧騒が収まっていた。

「緋天さん。このピアスを使って。私達以外の者とも話せるから」

 渡された小さな箱を開ける。ベリルが昨日見せてくれたピアスと同じ物が収まっていた。銀色の金属に、小さな半透明の白い石。耳たぶを挟むデザイン。顔を上げてオーキッドの顔を見ると、右耳に同じ物。

 髪に隠れているけれど、きっと蒼羽の耳にも同じ物があるのだろう、と思う。それから自分がピアスホールを開けていない事に気付いた。

「あ、あたしピアスホール開けてないんです」

 怖くて開けられません、という言葉を飲みこんで。優しく自分を見守る彼に言った。

「じゃあベリルか蒼羽に開けてもらって。大丈夫、痛くないから」

 怯えた顔をしてしまったようだった。彼は微笑んで、なだめるように声をかける。それから蒼羽に目を移す。

「蒼羽。緋天さんをちゃんと連れて帰るんだ。来た時のように自分だけ先に進まない、緋天さんに歩調を合わせる。何か聞かれたら丁寧に、緋天さんが分かるように答える。いいか?」

「・・・はい」

 オーキッドが蒼羽に言い聞かせるのを見て。蒼羽が一瞬バツの悪そうな顔になり、それからしぶしぶ頷くのを見て。思わず笑みがこぼれた。

 


 

 

 センターを出て街の中を通る。ほとんどの建物がレンガ作りで、穴に位置する通りの延長みたいだと思う。蒼羽が自分の斜め前を歩いていた。来た時よりもゆっくり歩いている事に気付いて、また笑みがこぼれた。

「ここ、市場ですか?」

 道の両側に色とりどりのテントが並ぶ広い通りに出た。りんごに似た、黄色い果物が山積みにされているテントを見て、相手が蒼羽だという事を忘れて質問してしまう。

「ああ、そうだ」

 意外にも蒼羽が前を向いたまま低く答える。きょろきょろとテントを見回しながら彼の後に続いた。ふいにひとつのテントに目が釘付けになる。そこには銀色の金属に様々な色の石をはめた、アクセサリーが並べてあった。

「・・・蒼羽さん、あの、えっと、・・・ちょっとだけ見てもいいですか?」

 蒼羽に声をかけて、左手のテントを指差す。

 今なら何を言っても聞いてくれると思って、口にしてみる。行き道にあれほど感じていた蒼羽への恐れは、オーキッドとのやり取りを見てからどこかに消えていた。

 蒼羽が振り返って眉間にしわを寄せた瞬間、指差したテントから声がかかった。赤い髪の男性が、親しげに蒼羽に話し掛ける。目に鮮やかなその色がきれいだった。

「お前は・・・相変わらず情報が早いな。でも今はアウトサイドがここにいる事を広めるな。街の人間が押し寄せる」

 蒼羽が男性に答える。その口調から知り合いらしい、と推測していると、彼が自分を見て何か話しかけた。

 随分と明るい声に、彼は蒼羽の機嫌など全く気にしていないのだ、とぼんやり思った。

「ごめんなさい。まだピアスをつけてないので言葉が判らないんです。ピアスホールを開けてもらったら、また来ますね」

 自分が答えたのを見て、蒼羽が男に口を開く。

「ピアスをつけてから、また来る、と言っている」

 通訳をしてくれた彼に驚いていると。男性が微笑んでまた何か言った。

「もう行くぞ」

 なぜかそれを遮って。蒼羽はこちらの右腕を引いた。触れられたそこは、昨日のように痛くない。急に去ろうとする自分たちのことも気にせず、手を振る彼に会釈して、歩き出した蒼羽の後を追った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ