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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
四章 文化祭、殺人者と追跡者
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九十八話「モーリス捕獲作戦2 犯行背景」

 どこにでもある一つの普通に幸せな家庭――いや、少し違ったのはその父が強大な能力を秘めた、しかし性格が温厚な男性だった事ぐらいでしょうか。


 夫婦の間に子供は一人。その娘はすくすくと育ち、順風満帆で今どきドラマにもなりそうに無い平凡的な家庭。


 平日には父は仕事に出て、母は家事にいそしむ。娘は子供の仕事とばかりに外で元気いっぱいに遊びました。

 休日。天気がよければハイキングに行き、悪くても車で買い物に行ったり、家で本を読んだりと穏やかな生活。


 しかし、そんな家族にも転換点が訪れました。


 その家族が住んでいたのは離婚大国のアメリカ。数年後、男に非はありませんでしたが、行き違いによりその夫婦は離婚することになりました。

 国民の半数が離婚するアメリカでは非常によくある光景だったのでしょう。ただ、珍しかったのは娘が父親の方に引き取られたことでした。


 男はあくせくと働き、家事をこなし、娘を育てました。父子家庭ではありましたが……いやだからこそと言うべきか。まあ、とにかく娘は優しい心の持ち主に育ちました。



 そうやって父と娘二人は慎ましくも、このままずっと幸せに暮らしていきました……。





「って、ことにはならないんだろ」

 ルークの話を遮る彰。

 先ほどルークはモーリスが復讐するに至った経緯を話すと言った。

 その後にいきなりこんな話をするのだから、男が誰なのかも、そして何かが起きるのも彰には明白だった。

「察しがいいですね。その通りです。……おっと」

 歩きながら話すルークは木の根に足を取られたが、すぐに立て直して話を続けた。




「幸せは長く続かず、男――モーリスの娘はこの春、能力者によって殺されたのです」




「そうか……」

 予想していたとはいえ、思ったより直接的な出来事に彰は言葉を失う。

「娘さんが殺害された状況はこの際省きますが、その犯人は二人組でした。……実を言うと、連続殺人事件のうち最初の二人はこの犯人なのです」

 ルークは出来るだけ感情を削ぎ落とした声で続ける。執行官という秩序を守る者として色々と思うところがあるのだろう。


 モーリスが殺人を犯すのは復讐だと彰は聞かされていた。つまりその動機は大切な娘を殺されたからだということなのだろう。だからモーリスは犯人を恨む。


 まあ考えられる過程だな、と納得しかけたところで彰はその人数に疑問を思った。

「…………あれ? 犯人は二人って言ったか?」

「さすがですね。彰さんもそこに気づきましたか」

「だってそうだろ。すでにモーリスによる殺人事件はアメリカで四件、日本で一件起きているぞ。殺された人の数が合わないじゃないか」

「……そうなんですよ。動機を知っていると偉そうに言いましたけど、僕にも残りの三人を殺した理由が分からないんです」

 ルークもお手上げ状態であるようだ。


「殺された三人目と四人目と五人目はモーリスと関わりがあるのか?」

「いえ、モーリスとは全く関係が無かったのですが……三人目は能力者ギルドの執行官だったんです」

「それは……」

 能力者ギルドの執行官。ルークも努めているその役割は、その名の通りギルドの仕事を執行する者で相当の腕利きでないとなれないらしい。

 やっぱりモーリスはそんな能力者を殺せるほどの実力を持っているのか。……俺は買ってはいけないケンカを買ってしまったか?


「最初は能力者の秩序を守るという役割上、能力者に娘を殺されたモーリスが逆恨みをしたのではと思ったんです。

 一般人だったら守ってくれなかった警察に矛先を向けるのと同じように、能力者ですからギルドを恨むと」

「能力者ギルドがしっかり能力者の秩序を守っていれば娘は殺されなかったんだ! 復讐してやる! みたいな気持ちをモーリスは抱いたってことか?」

 と、彰が噛み砕いた理解をしているとルークはため息をついた。

「まあ、そうであれば事件はもっと簡単だったんですけどね」

「……? 違うのか?」


「殺された四人目。一転してその人物は能力者とは全く関わりの無い、ただの一般人だったんです」

 彰の質問には答えずルークは予想外の事実を伝えた。


「ちなみに、日本で殺された五人目もただの一般人でした」

 ルークは何が何だか分からないといった感じで付け足す。

「それは……おかしいだろ」

「でも事実なんです。……モーリスを知っている人物からは、彼は穏やかで誠実な性格だという証言が多くなされました。そんな人間が復讐で殺人をするならまだ考えられるにしても、愉快的殺人を犯すとは思えません」

 ルークにだって腑に落ちない思いはあるのだろう。つらつらと語りは続く。

「最初の二人は娘を殺した犯人だったんです。つまり復讐が動機であるのは間違いないはず。……なのに一転して三人目で執行官を殺し、一般人を続けて殺している。

 この豹変振りは何が原因なのでしょうか?」

 憔悴しているルークは藁にもすがる思いで彰に問いかける。


 既にこの情報を持っていたルークは幾度と無く『なぜ何も関係ない一般人が巻き込まれなきゃいけないのか』と自問していた。

 表面にはあまり出ないがルークも正義を守る者の一員。その問いの答えが出ないことに心を痛めるばかりであった。


「………………」

 振られた彰も答えを持っているわけでは無い。

 ただ、何となくだがルークでさえも知らない何かがこの事件の裏にあるのでは無いか……という予想が思い浮かんだ。

 だが、ルークが黙り込んだ重い雰囲気の中では根拠の無い夢想事を言う気になれず、口を結んだまま廃工場目指し足を動かした。











 廃工場の中、管理室のような部屋は長年の放置によりほとんどほこりを被っていた。電気の通っていないため使えない冷蔵庫や電子レンジやコタツなど生活用品が置かれている中、その一つのスプリングが弱くなっているソファの上で、

「………………ハァ」

 モーリスは虚無感に襲われていた。


 その原因は今しがた見ていた娘とささやかな幸せを噛み締めながら生活していたころの夢。

 夢の中で温もりを感じた後に、それは永遠に喪失されているだという現実を突きつけられると中々にこたえるものがある。

「……おまえの仇は必ず返してやるからな」

 天国の娘に誓ったモーリスはソファから立ち上がり、部屋の隅に置かれたスーパーの袋から朝昼兼用の飯を取り出す。



 テーブルにそれを広げたモーリスは、復讐を手助けしてくれる『女性』の事を思い出していた。


 それは一ヶ月ほど前のこと。

 事故で娘を失った……と誤認していたモーリスの前に現れたのは眼鏡の似合う理知的な女性だった。

 喪失感から打ちひしがれているモーリスに、その『女性』は知らない事実を次々と教えてくれた。


「あなたの娘さんは事故で死んだのではありません。殺されたのです」


 最初は笑えない冗談だと思った。しかし『女性』は話を続ける。


「その犯人は能力者だったため上手く殺害の痕跡が隠されたのです」


 犯人が行った手段がこと細やかに話されて、その『女性』の話は真実味を帯びてきた。



「そしてここが大事なのですが……犯人は間接的に関わったのを含めて『八人』も居るのです」



 全てを聞き終えたとき、モーリスの心中には喪失感を上回る怒りが湧き上がった。



 ………………。

 『女性』はそれ以外にも犯人が誰なのか、どこに住んでいるのか、隠れ家にこの廃工場を薦めたりなど色々とは助けてくれた。

 『獣化(ビースト)』という能力を持っているとはいえ、元は一般人だったモーリスが能力者ギルドに追われながらも復讐を遂行できるのはこの『女性』のおかげである。


 どうしてそんなに親切にしてくれるのか? そう尋ねたことがあった。

「そういえば私の能力を言っていませんでしたね。『死霊(ネクロマンサー)』って言って死者の声が聞こえるんです。

 あなたの娘さんの声は良く聞こえるんです。『私はまだ生きたかった! なのに殺されて……。ああ、犯人が憎い、憎い、憎い、憎い………………』と」


 意外だった。温厚な娘がそのような事を思うなんて。


「死を経験したことのない私たちには分からないのでしょう。死を経験したものがどのように思うかを」


 こちらから言葉を伝える事はできないのか?


「すいません。私の能力はそこまで強くなくて……」


 それでも十分だった。娘の思いを伝えてくれたのだから。



 思えば長い道のりだ。

 その『女性』が指示するままに私はもう五人に手をかけてきた。

 ここまでくれば人を殺すのに何も考える事がなくなっていた。二人も三人も四人も五人もそこまで変わらない、というのが私の持論だ。

 一人目を殺す時はさすがに色々と考えたが……そいつの性根が腐っていたおかげで罪悪感は全く湧かなかった。


 しかし犯人はまだ三人も残っている。

 なぜかその女性に六人目を殺すのを踏み止まらされている。まるで何かまでの時間を稼ぐように……。

 だが全てが終われば娘の無念は晴らされるのだ。

 私はそのときまでこの血塗られた道を歩くのを止める気は無い。





 飯を食べ終えたモーリス。

 早く起きたため少し散歩でもしようという気になり、二階にある管理室を出て階段を降りようとするその直前。


「…………!」

 吹き抜けになっている一階を動く二つの影を見た。


 その影はこそこそと動いているが上からは丸見えだ。正体には覚えがあったし、意外だとも思わなかった。

「……ここをかぎつけるとはやはり優秀だな」

 執行官として有名なだけはある、と感心するモーリス。

 もう一つの影はこの前の戦いの時、途中から紛れ込んできて苦しめられた子供だった。

 日本人のようだが……なぜ執行官と行動を共にしているのだろうか?


「まあどっちでもいい」

 復讐の邪魔をする以上どちらも殺すのだから、とモーリスは思考を断ち切る。


 殺人という行為をもはや躊躇しない、たがの外れているモーリスは手すりを掴み、その身に秘めたる能力『獣化(ビースト)』発動させた。






「ここが廃工場ってやつか?」

「そうですね」

 お互い黙ったまま歩いて数分。

 彰とルークは目的の建物の前に到着した。

 森の中にポツンと存在する大きめな建物。三方を森に囲まれ、森の無い方からは一車線のみの道路が続いている。

 よどんだ雰囲気、活気の無さから人がいなくなってから随分の時間が経っていることが見て取れた。

「元々は何を作っていた工場なんだ?」

「さあ。そこまでは調べていませんし、今回の作戦には関係ないでしょう」

 森の方からやってきた駐車場に面している方に回りこんで廃工場の中に入ることにした。


 工場の中は売れなかった在庫なのかダンボールが積み重なっていたり、どういう用途か彰には分からない何かの製造用機械などが置かれていた。その全てがひどくほこりを被っていて、人がいなくなってから随分経っているという彰の予想を裏付けている。

「本当にモーリスはここにいるのかよ」

 とても人がいると思えない空間である。

 彰は舞い上がるほこりで咳き込みそうなのを我慢しながらルークに聞いた。

「昨夜この場所を捜索してもらった『演算予測カリキュレーション』によりますと、二階の管理室にここ最近人が寝泊りしている様子があったのでそこにいるのではないかと思います」

「二階か」

 彰はルークの言葉を聞いてなんとなく視線を上げた。吹き抜けになっているため良く見渡せる。



 その二階に一人の男性がいるのも見えた。

 手すりに手をかけたその男性はこちらを見下ろしているようだ。



「………………え?」

 この廃工場には就寝中のモーリスしかいないんじゃなかったのか? だとしたらあれは誰……ってそうじゃない! あいつがモーリスに決まっているだろ!

 現実逃避しかけた思考を戻して彰は叫んだ。

「ルーク、上だ!」

「何ですか彰さ……。……っ!」

 ルークも言葉を失って戦慄する。

 彰の脳内では魔力の使用を感知してピリッとした刺激が起こる。



 二人の見ている前で膨大な魔力を使ってモーリスは『獣化(ビースト)』を発動。毛むくじゃらになり、爪が伸び、牙は生え、身体能力が劇的に向上する。


 モーリスは人間らしく一階に下りるのに階段を使ったりはしなかった。

「…………ガルッ!」

 そのまま彰たち目掛けて飛び降りその爪を振るう――!


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