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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
四章 文化祭、殺人者と追跡者
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九十一話「文化祭前日2」

「結局由菜さんは学校に泊まるみたいですね」

「だな。もっと計画的にすればよかったというのに」

 文化祭前夜。

 いつもは彰宅に来てくれる由菜も今日は文化祭の準備で学校に泊まることになっているため、彰と恵梨は二人きりの夕食を取っている。

 口数の多く元気な由菜がいないため食卓の雰囲気はいつもより盛り上がらない。


「………………」

 そういえば恵梨と二人で夕食を取る機会ってほとんど無かったかもな。

 会話が無ければ思慮にふけるしかない。彰は箸を進めながらも、正面に座る恵梨をチラッと見て物思いにふける。

 いつもは夕食のときは由菜が来てくれるから、四月の中ごろに恵梨とは会ったというのに二人きりでの夕食はほとんど無い。

 というか、一緒に暮らし始めて約一ヵ月半か……。本当早いよなー……っていう感想は何だか爺くさいか。まあ、年寄りのように時間の経過が早く感じられるのは、その間の日々が濃かったからに違いないな。


 彰は鹿野田、火野、風野とこれまでに戦った相手を順番に思い出す。

 そして今はモーリスか……。最初に戦ったのが一週間ほど前だから、今までと違って長期戦だな。文化祭までには決着をつけたいって思っていたというのに。……そのために何もしていない俺が言うのもおかしいか。

 モーリスに関しては行方を能力者ギルドが調べているだけで、彰はこの一週間ルークの報告を聞くだけだった。

 あれから猟奇殺人事件が起きたというニュースも無いし、モーリスは次の獲物を見定めているのか……?

 モーリスが殺人事件を起こしているのは復讐だ、という話は聞いているものの何への復讐なのかは聞いていない彰。

 毎日ルークと話をしているんだから聞いておけばよかったけど、……ルークも話したがってなかったしな。

 聞かれたら話すつもりはあったのだろうが、ルークからは復讐の理由を彰に告げなかった。踏み込んで話を聞いてもよかったが、それをためらわせるような態度だったルークを思い出す。

 一体、モーリスは何に復讐をしているのか……。



「彰さん、どこか具合でも悪いんですか?」

 恵梨が不思議そうに話しかけてきた。

「いや、そんな事は無いが」

「ですけど、なんで箸が止まっているんですか?」

「ん? ……ああ」

 どうやら考えこみすぎて、箸を止めていたようだ。彰は思い出したように飯をかきこむ。

「珍しいですね。いつもはガツガツと食べているのに」

「ちょっと考え事をしていてな」

 会話が無く静かだったから余計に思考が進んだ。

「二人きりなのに黙られたら、会話のしようがありませんよ」

「すまん」

 恵梨の咎めるような言葉だが鋭さは無い。


「それで、明日彰さんは文化祭をどう過ごすつもりですか?」

 仕切り直すように恵梨が話を振ってきた。

「明日……明日か。……そういえばどうしようか決めてなかったな」

 言われてみれば準備に手一杯で当日をどう過ごすかを決めていなかった彰。パレードは二日目の午前だし、文化祭クラス委員の仕事も無く、クラスの出し物は展示をしておけばいいのですることは無い。

「考えてないって……彰さん明日が楽しみじゃないんですか?」

「いや、楽しみだぞ。……ただ準備に追われて考えていなかったというか」

「それなら由菜さんと文化祭を周ったらどうですか?」

「由菜は明日の午前中は部活の方で当番になっているって聞いたぞ」

 そこそこ料理ができるのを買われて、由菜は調理係をするらしい。

「それなら誰と周るつもりなんですか?」

「他に周る友達なんていくらでも――――――」


 美佳、文芸部の販売係。仁司、サッカー部の出し物の手伝い。他のクラスメイト、文化祭を一緒に回るほど仲が良いわけでは無い。


「………………あれ?」

 瞬時に思い返した彰は首をひねった。


 ――誰もいないだと…………!


「いや、そんな馬鹿な……」

 彰の声が震える。

 このままじゃ俺は一人で文化祭を周らないといけなくなる。

 文化祭を一人で楽しんでいる奴なんて、本人はいいかもしれないが周りからすれば哀れに見えるだろう。

 それは避けたい。避けたいのだが。

 ……こんな事ならクラス委員の仕事でもあればよかったのに。


 自分の未来を予想して涙が出そうになった彰は、

「………………そういえば」

 一筋の光明にすがりつく事にした。


「なあ、恵梨」

「……どうしましたか?」

 突然落ち込み始めた彰を奇妙に見ていた恵梨に、彰は提案した。



「もし良かったらでいいんだが、明日一緒に文化祭周らないか?」



「………………………………え?」






 夕食後。

「何かいい番組していないかな~~っと」

 彰はリビングのソファに寝転がり、テレビのリモコンで番組表を表示させていた。特に見たい番組が無かった彰はバラエティ番組にチャンネルを切り替える。

 いつもなら勉強している時間帯の彰。

 それなのに今日はテレビを見ているという事は「明日が文化祭だし今日くらいはいいか……」とサボっているわけでは無い。真実は文化祭の準備が早く終わって帰ってきたので、今日のノルマを既に終わらせていたからだった。まことに真面目である。


 さて、明日の行動予定も立ったし良かった良かった。

 夕食時、文化祭一緒に周らないか、と彰に誘われた恵梨は、数秒時が止まったように固まっていた。

「………………いや、えと、その……」

 その後恵梨は彰の様子をよく観察した後承諾したのだが、何を気にしていたのだろうか? 彰には分かりそうにも無い。

 そして恵梨いわく、特に誰と周ろうとも思っていなかったので明日は二人で周るとのこと。行きたい場所があるらしい恵梨に、彰は全ておまえに任せるということで計画ともいえないものが決まった。

 ……ていうか恵梨一人で周るつもりだったのか? 普通そういうこと気にしないんだろうか……。


「っと、また考え事ばかりしているな」

 バラエティ番組の内容が彰にとってはくだらなすぎて、クイズ番組とかあればよかったのになー、と流し見ている。

 これがつまらなすぎるせいもあるんだけど……まあ、食事中に考え事をするのは良くないな。

 今日の夕食を省みる彰。

 二人きりのとき相手に黙られたら、確かに雰囲気が悪くなるよな。そういう経験俺もあるし、気をつけるか。

「………………二人きり……」

 ……そういえば今現在、恵梨と二人きりなのか……。



 何を今さらという事を再認識する彰。

 男と女が一つ屋根の下っていうのは、何か起きてもおかしくないけど……。

 実際はこの一ヶ月間何も起きていない。

「……そもそも俺が起こす気無いからな」


 同年代の女性と同居という、青少年には耐えられそうも無いシチュエーションに彰がピクリとも動じていない理由は幼なじみの由菜で慣れているからというものであった。

 思い返せば小学四年生のころでも由菜と風呂に一緒に入っていたりした彰は、よく言えばリア充であり、それなのに一線を越えていないのだから悪く言えば枯れているのかもしれない。

 それに飯を食べている時以外ほとんど彰は自分の部屋に引きこもって勉強しているので、家の中であまり恵梨と会わないというのも一因かもしれない。


 まあ普通の青少年ならその程度の理由じゃ抑えることができるはずないから、俺って枯れているのかなと心配になる事もあるが、がっついているよりかはマシだろうとも思う。


 それに。

「約束したもんな……」


『俺とおまえはこの家に住む家族だ』


 それは恵梨がこの家にやってきた夜にした誓い。

 両親が死んでいる恵梨にはこの家以外に行く場所が無い。そんな場所に居づらくなるようなことを、助けた本人である彰がするはずも無かった。


「俺、枯れてるな……」

 彰が自嘲したところで。



「あれ? 彰さん、テレビ見てたんですか? 珍しいですね」

 風呂に入っていた恵梨がリビングに戻ってきたようだ。そちらを彰は振り向きながら、

「今日は早く帰ってきたから勉強は十分に」










「どうしましたか?」

 いつの間にやら恵梨が近くまで来ている。


「――――――はっ!?」

 時間が飛んだだと!?

 そう思ってしまった彰だが、あいにくそのような能力は彰も恵梨も持っていない。


 落ち着かない彰だが理由はすぐに分かった。目の前にあった。

 風呂上りの上気した恵梨の肌には健康的な美しさ、それがパジャマと組み合わされることによって破壊力が上がり彰の脳を直撃していた。


 要するに、彰がそれに見とれていたからだった。



「夕食のときもボーっとしていましたし調子悪いんですか?」

「い、いや。……そんなことは」

 しかも近づいてきた事により、シャンプーのいい香りがふわっと巻き起こった。同居するようになってから、男である彰には違いの分からないシャンプーが色々と風呂場に置かれるようになったがそのうちの一つだろうか?



 いつもこの時間は部屋にこもっているから、見る事がなかったが……。

 ぶっちゃけ言ってドストライクである。

 本当はこの家にやってきた日、風呂から上がった恵梨を見たときも彰はやばいと思っているのだが、そのときの記憶は消去されている。


 そんな彰を見て、やっぱり調子が悪いんじゃないんですかと思った恵梨が、

「熱でもあるんですか?」

「そ、そうかもしれないな! そういうことで今日は早く寝ようかな! おやすみ!」

 彰の額に伸ばしてきた手を避けながら、彰はあたふたしながら退散。自分の部屋に向かった。


「……? 変な彰さん」

 まあ、体調が悪いって言った時に鼻をかいていたから嘘みたいですし、ようは元気なんでしょう。

「…………それなら何故嘘をついたんでしょうか?」

 首をひねる恵梨は自身の無防備さに気づかない。




 彰は自室のベッドで悶えていた。

「誰が枯れているだ……! イチコロじゃねえか……! 飢えた狼だよ……! つうか何? 枯れている、枯れている言っていた俺恥ずかしいな……!

 あれか、パジャマ姿は寝る前にとか見かけていたから、風呂上りっていうのがいけないのか? 何? 俺風呂上りフェチ?」

 枕に顔をうずめながら叫ぶ彰は、「これは駄目だ……。起きたら忘れていますように」と願いながら連日の文化祭準備の疲れもありすぐに寝た。



 ルークからの定時報告が無いことに気づかないまま寝た。

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