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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
一章 水の錬金術者
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八話「風呂」

「恵梨の肌はきれいね」

「ちょっと、由菜さん! 触らないで下さい!」

「え~いいじゃん。こんなにすべすべなんだし」

「そんなの理由になりません!」

「減るもんじゃないんだし」

「そんなの理由になりません!」

「私が触りたいんだから」

「そんなの理由に……なりますね」

「じゃあ、OKってことね」

「OKはしていません! って、ちょっと! そんなとこ!」


 制服以外の服を持っていなかった恵梨のために、由菜は一度家に帰って二人分のパジャマを取ってきた。

 そして彰の家の風呂で二人は一緒に入浴して、騒いでいた。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「この世の幸せ~」

 恵梨はしっかりと由菜に触られたようだ。

「もう何でこんなことするんですか!」

「私がしたいから」

「幼稚園児並みの思考回路ですね!」

「何とでも言いなさい」

 由菜が何故か勝ち誇る。


「分かりました。……今度は私のターンですね」

 恵梨がやる気を出す。

「おお、やるのか?」

「ええ。でも触り返すわけじゃありません」

「何をするんだ?」

「……由菜さんは、随分とこの家の風呂に慣れていたようですね」

「?」

 そして恵梨は爆弾を落とす。


「昔は彰さんと一緒に入ってたんですか?」


「ぶっ! そ、そんなこと! ……ていうか私は肉体的攻撃だったのに、そっちはトラウマをえぐる精神的攻撃ってずるいだろ!」

「ど・う・な・ん・で・す・か?」

 夜叉のような真顔で迫る恵梨。さっき触られたことを随分と根に持っているようだ。

「そ、それは……」

「私の言うことは間違っているとでも? 予備のシャンプーの位置や、タオルが何処にしまわれているのかまで知っていた由菜さんはそう言うんですか?」

「で、でも……」

「大丈夫です。本当のことを言えば」

「言えば?」

「事あるごとにそれを言い出して、由菜さんをからかって遊びます」

「最悪だな!」

「言わなければ、あること無いことを言いふらします」

「選択権が無いな!」

「ある、とでも思っていたんですか?」

「うう……」

「ほら、早く言ってください」

「……そ、その……小学四年生ぐらいまで///」

「へー。小学四年生って、結構な年になってもですか」

「も、もう勘弁してください」

「だけど今でも彰さんと一緒に入りたいと?」

「お、思っているわけ無いでしょ!!」

 由菜の叫びがお風呂場にこだました。




 彰は二人が風呂に入っている間、それを覗こうとがんばっていた……訳ではなく、リビングで考え事をしていた。

 考え事の内容は恵梨についてである。

 今までに話をされたことや、今後どうするか、それ以外にもいろいろ考えていた。

 だが、

「何か釈然としないことがあるな」

 彰には懸念があった。

 それは矛盾とまではいかないが、違和感のような物。

 正しいと確信している解答なのに、何故か間違っていられるように思えることに似ている。

 そんな(たぐい)の物であった。


「ふぅ~。いいお湯でした」

「うう。何で私がこんな(はずかし)めを」

 そこに恵梨と由菜がリビングに入ってきた。

 由菜は自分の家から持ってきた、パジャマに着替えている。彰には見慣れた光景だった。

 風呂上がりで上気した顔は、いつもより赤く見えたが瑣末(さまつ)な違いだ。


 そして、恵梨は、

「あれ?」

 彰は自分自身の感覚に疑問を浮かべる。

 恵梨も由菜が持ってきたパジャマに着替えている。

 それを見た彰は何故か心臓の鼓動が増した。

 女のパジャマ姿なんて見慣れていたはずなんだがな。

 彰はそう思うも、それは間違いだ。

 彰が見慣れていたのは、由菜の、パジャマ姿である。

 

 あれ?

 恵梨の風呂上がりの上気した顔が、そして無防備なパジャマ姿が、洗われた黒髪が魅力的に見える。

 何でだ?

 それは……。

 と、考えを進めようとしたとき、自分の本能が警告を出した。


 これ以上考えたら何かやばい事になる、と。


 でも、だが、しかし、

「ああ、もう。落ち着け!!」

 ゴン! と彰は自分の頭を、机に打ち付ける。


「うわ! どうしたのよ?」

「どうしたんですか!? 彰さん」

 突然の彰の奇行に、ビクッ! となる二人。

 彰は痛みでひりひりする(ひたい)をさすりながら、顔を上げる。

「いや。ちょっと落ち着こうと思ってな」

「それ、ぜんぜん落ち着いてないわよ」

「むしろ暴れていると思います」

「まぁ、気にしないでくれ」

 そして恵梨を正面から見る。

 痛みで直前まで何を考えていたかを忘れた彰は、普通に恵梨を見ることができた。

「よしっ!」

 ガッツポーズを取るも、何で普通に見れたことに安心しているのかさえ忘れている彰。

「変な(あきら)

「どうしたんでしょうか?」

 二人は首をかしげた。

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