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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
四章 文化祭、殺人者と追跡者
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八十七話「ミスをして初めて学んだ事」

「どうしてそう思うのかい?」

 能力のことは能力者本人が一番分かっていることだというのに、ラティスはそうやってとぼける。

「この連続猟奇殺人事件からヒントを得た。……説明してやろうか?」

「そう。……じゃあよろしく頼むよ~」

 面白がっているラティスの顔から、さっきの言葉が本当と認めているようなもんだよなあ……と思いながらも彰は説明を始めた。



「まず、俺がこの事件を知ったのは新聞だった。……確かGWのころだったと思う。アメリカで連続猟奇殺人事件が発生!というその記事を読んだことは、そのときも大して気に留めていなかったし、今までもそんなに気に留めていなかった。

 だが、今考えてみるとおかしいんだ。『獣化(ビースト)』を使ったモーリスはアメリカで五件も殺人事件を起こした。

 ……いや、起こす事ができたんだ。

 モーリスはどうして五件もの殺人事件を起こす間、警察に捕まらなかったんだ?」

「ん~。アメリカの警察が無能だったんじゃないの~?」

「……まあ仮に百歩譲ってそうだったとしよう。だが、五件目の殺人事件。獣に引っかかれたように殺された女性は二階の寝室で死んでいた。現場の家もそんなに荒らされていなかったようだし、他には特に何も新聞には書かれていなかった。


 そう。他には特に何も書かれていなかった。


 ……なあ、どうしてアメリカの警察は室内で獣に襲われたかのように死んでいた女を全く疑問に思わなかったのか?

 家が荒らされていなかったということは、獣が行儀良く階段を使って二階まで上がって女はそれで殺されたのだというのか? 

 どう考えても異常だろ? それが分からないほどアメリカの警察が無能なわけが無い」


 ラティスが一つ嘆息をついた。

「……君はよく新聞を読んでいるね~。それでも高校生なのかい?」

「茶化すな」

「うおっ、怖いね~。キレる若者ってやつか」

 ギロリ。

「そんな睨まないでよ~。ごめん、ごめん。……さて、冗談はさておき、つまり君は何を言いたいんだい?」


「この事件、おまえらの組織が動いたんだろ。組織名通り、事件から能力者だと思われる痕跡を隠蔽したんだ。

 例えばどんな証拠を見ても『まあ良いか』で済ますように記憶を操作し、獣が二階に上がる事もよくあることだという記憶を植えつけたりとかな」


「ふむ。……どうしてそんな事をしたのだと思うのかい?」

「簡単な事だ。

 おまえたちは、警察――つまり一般で普通の人たちに、事件――つまり犯人の能力者に近づいて欲しくなかったから。そうだろ」



 彰は言葉を切る。言いたいことは全て言った。

「………………」

 無言のラティスは「やれやれ」と芝居がかったしぐさで嘆く。そしてエリスの方を見てうなずいたのを確認すると、そこでようやく口を開いた。

「……君は本当に頭の良く回る子だ。その通りだよ」

「やっぱりな」

「僕は確かに能力を使って、誰かがこの事件を聞いたときに不審に思うことを忘れさせた。それだけじゃ足りないだろうと読んで、連続猟奇殺人事件のことを考えた時にこういう事件はよくある事件だという風に認識するように記憶を操作した。

 目的も君の言ったとおりで、ただ、事件自体を思いださせなくして『無かった事』にしなかったのは、そうしたら死んだ人が宙に浮いてしまうからだ。……本当に大した推理だよ」

「……さっきまで俺も全く疑問に思っていなかったんだが、事件の裏を知った事で『記憶メモリー』の効果が俺には切れたんじゃないか」

「そうだね」


 ちなみに彰が言っているのは、『記憶メモリー』は自分で思い出す事ができなくなる能力で、間接的に物事を知ると能力が解除される物だということだ。

 『記憶メモリー』は例外無く彰にも作用していたので本来疑問に思う事すらできなかったのだが、モーリス本人を見て能力者だと認識したせいで『記憶メモリー』が解除され事件について疑いを持ち、推論を立てることが可能になったみたいだ。



 ラティスは彰を指差す。

「それで君は能力『記憶メモリー』で何をして欲しいんだい?」

「おまえらはこの事件にも『記憶メモリー』を使うんだろ。能力者が殺した痕跡があるだろうからな」

 彰は見ていないが、現にこの近くにはモーリスに殺された女性の遺体が転がっている。夜遅くのため遺体にまだ誰も気づかれていないようだが、そのままにして朝になれば気づかれて当然であった。

「うん。そうだね」


「なら、加えて記憶を操作して欲しいんだ。……この殺人事件が隣町で起きたという事にしてくれ」


 普通なら遺体をこの町から隣町に移しても、この地に血痕など殺人を犯した証拠が残り、移した先の隣町にはまるで証拠が無いという明らかな状況が残るだけ。

 しかし、この男にはそれができるのだ。

「いいよ」

 ラティスは気軽にうなずく。

「どうせ元々隠蔽するつもりだったから、そんなに労力は変わらないからね~。……だけど、どうしてな隣町にして欲しいんだい?」

「ああ、それは……」

 彰は文化祭が開催される事と殺人事件の犯人が逃走された場合の懸念を話す。

「――だから隣町で起きた事になれば斉明高校が気をつける必要がなくなって、文化祭の準備を邪魔されないって事だ」

「ん。君の意見はよ~く分かった」


 だけどさ、とラティスは言葉を続ける。

「僕だけが君の頼みを聞くっていうのは不公平じゃない~?」

「ああ、そういうと思ったぜ。……だからその代わりに、モーリスを捕まえるまで手伝うつもりだが……それでどうだ」

「そうだね。僕らも戦力不足だし、今回みたいに共闘してくれると助かるね~」


 本来、彰がモーリスを捕まえる理由となっていたのは文化祭を守りたいというものだったので、ラティスに話をつけたことですでにそれは達成されている。

 のだが、彰は一度関わって犯人を逃がしておきながら自分だけ関係ないと逃げる事を許せる性分ではなかった。



「ということで、ルークくんとも話をしたいのだけれど……」

 彰との交渉が終わったラティスが言葉を濁した事で、彰も振り返った。

「………………」

 そこにいるのは変わらず落ち込んでいるルーク。……いやさっきよりも深く落ち込んでいるような気がする。

「……なあ。何で落ち込んでいるんだあいつ?」

「ああ、それはたぶん彼がエリートだからなんだと思うよ~」

「あれか? 失敗したからプライドが傷ついたとかそんなやつか?」

「そんな感じだと思うよ~」


 さすがに俺一人じゃモーリスを倒せるとは思えないし、ルークには立ち直ってもらいたいんだが……。

「どうすれば良いんだ?」

 彰が途方にくれていると、

「…………はい。…………ラティス様。彼女たちがもう少しで来るようです」

 ハミルがその接近を知ったのは、その者と『念話(テレパシー)』をしていたからだった。

「ん。……ああ、ちょうど良かったよ。ルーク君はあの二人に任すことにしよう」






「僕は……僕は」

 ルークはうなり続けている。

 原因は直接的には任務に失敗したからであった。それがここまでひどくなったのは彼がエリートであったからだった。

 100の失敗をしてきた人の101回目の失敗と、0の失敗だった者の1回目の失敗は大きくその価値が違う。

 色んな人に期待をかけられてきた事がそのまま彼のプレッシャーとなり、任務に失敗した今となってはそれは重石となっていた。


 ルークの心は強迫観念によりがんじがらめとなり、自分から抜け出す事は不可能となる。

「………………」




「少年。どうやらモーリスに逃げられたようだな」

「私もその可能性は99%だと思います」




 そんなルークに声をかける者がいた。呼びかけられたことによって、のろのろと首を上げたルークは、

「……『過去視(パストビジョン)』? ……『演算予測(カリキュレーション)』?」

 二人の女がそこにいた。共にルークの協力者であり、モーリスが逃げた行方を追うのを手伝っていた。

「能力名で人を呼ぶな……と、説教でもしたいところだが」

「落ち込んでいる可能性が88%ですね」

 ルークをたしなめたのは大人びた容姿のミステリアスな女性、冷静に可能性を告げる少女はまだ学生のように見えた。



 この二人もまたルークに期待している人間であった。

「……知られた。知られた。知られてしまった」

 そう。そんな人間に任務を失敗した事を知られてしまった。

 ああ……。この二人は何と言うだろうか。そうだ、期待していたのに失敗したのだから嘲り、皮肉、罵倒。どれも等しく考え――



「だがぼさっとしている暇は無いぞ、少年。さっさとモーリスの痕跡を追うぞ」

「その後で、今日の事を報告書にまとめないといけないですから時間もありませんよ」



 かけられたのは内容は厳しいながらも相手を労わっている声。

「……え?」

 ルークの声は彼の混乱している心情を的確に表していた。


 しかし二人にとっては、そうつぶやかれる事の方が理解できなかった。

「……モーリスを逃がしたんだから当然のことだ」

「まあ、結局殺人を防げなかったしモーリスを逃がしたので、報告書を出したあなたが上から怒られる可能性は79%ですが、私の予測も甘かった事ですし私も一緒に怒られてあげますよ」


 二人の顔に浮かぶのはやれやれという顔。

「どう……して?」

 ルークはやはり理解できない。

 どうして任務を失敗した自分にそんな言葉をかけてくれるんだ……。期待をかけていたのに裏切られて何故そんなにしていられるんだ……。



「何故って決まっているだろ。君は最後にはちゃんとやってくれるって信じているからな」

「大体それぐらいで手のひらを返すようならそれは本当の意味の期待ではありませんよ。

 何があっても信じるのが本当の期待で、それは別の言葉で言うと信頼なんです」



 二人はさも当然と答える。

 その言葉は、その考え方はルークが一片たりとも持っていなかったものだった。


「早く行かないと。私の『過去視(パストビジョン)』は一時間ほどまでしか遡れないからな」

「そこに留まっていて何か良くなる可能性は0%です。動き出しましょう」


 『演算予測(カリキュレーション)』の少女はルークの手を取って、先に移動を始めた『過去視(パストビジョン)』の女性の後ろをついていく。


 引っ張られるように歩き出すルーク。

「ああ…………」


 僕は……ひどく勘違いをしていた。


 ミスは挽回をする事ができるし、本当の期待や信頼は簡単には裏切らない。


 今まで成功ばかりの人生を歩んできた僕が学べなかったその事実。


 僕にできることは皆のそれに答えるために、例え一回失敗してもがむしゃらに努力する事……。


「それだけです!」


 最初は少女に引っ張られるように歩いていたルークも、すぐに自分の足で歩き出す。

 そのときちょうど住宅街には風が吹き込み始めた。






 それを脇で見ていた異能力者隠蔽機関の三人と彰。

「うんうん、良い話だね~」

 ラティスは(出ていない)涙をぬぐい、

「はあ。……おまえを見ているとあの場面も一瞬で台無しだな」

 素直に彰にツッコまれていた。

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