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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
四章 文化祭、殺人者と追跡者
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八十三話「異能力者隠蔽機関の頼みごと」

 彰の頭の中に直接響いた声。

 「……何故なんだ?」

 その問いは誰もこの部屋にいないのにどこから声がしたのか、と思っていたわけではない。

 それどころか彰はこの声の正体を知っている。


「……この念話を初めて聞いたのは俺が初めて能力を使った時のことだな」

 彰が思い出すのは平穏な日常に流され遠い昔のようだが、たった一ヶ月前の出来事。科学技術研究会なる組織の能力研究部門、室長の鹿野田が戦闘人形という能力者を連れて恵梨を襲ってきた時のことだ。

 何とか恵梨と二人で力を合わせて戦闘人形を追い払ったのだが、そのとき彰が能力者であることを気づかせてくれたのが今頭に響いた声だった。


 つまり彰が分からないのは何故念話(テレパシー)を自分にかけてきたのかということだった。

「……まあ、考えても分かるわけ無いんだがな」

 ということで彰は思考を切って具体的行動に移る。

「………………」

 最初に聞いたときはいきなり響いた誰とも分からない声に驚いていたが、今回は彰はこの念話(テレパシー)を使っている相手――異能力者隠蔽機関のハミルの顔を思い出しながら返事を頭の中に思い浮かべた。


 念話(テレパシー)なんてあのとき以来初めてだな。今日はどうしたんだ? 世間話……ではないんだよな


 すぐにハミルから念話(テレパシー)が返ってきた。


 はい。さっきも言った通り彰さんに協力してほしいことがあるんです。


 ハミルの声を聞きながら彰は頭を働かせる。

 現在、彰たちがこうやって平穏に暮らしている一因に異能力者隠蔽機関の機関長ラティスの能力『記憶メモリー』がある。記憶を思い出させなくする能力らしく、これによって先にも言った室長の鹿野田の記憶を封じているのだ。

 これが無ければ研究会からの再度の襲撃を彰は常時警戒しないといけなかっただろう。毎日とてもストレスがたまったに違いない。

「……その恩の分ぐらいは話を聞いてやるか」

 文化祭の準備によって疲れ早く寝たいところだが、こうやって安心して暮らせるのもラティスのおかげだ。

 彰はベッドに腰掛けてからハミルに念話(テレパシー)を返した。


 とりあえずその頼みとやらを話してくれ。


 本当ですか! ありがとうございます!


 ハミルの喜色全開の声にあわてて彰は釘を刺す。


 ま、まだ協力すると決まった訳ではないからな。とりあえず話を聞いてからだ。


 ……そうですね。

 それでは時間がないこともありますので単刀直入に言いますけど。……彰さん。殺人鬼を捕まえるのに協力してくれませんか?


「殺……人……鬼?」

 予想を180%裏切る要求に絶句する彰。


 …………俺は平凡な高校生だ。そういうことは警察に電話してくれ。じゃあな。


 ちょ、ちょっと待ってください!! せ、説明をさせてください!


 「じゃあな」と言っているが彰から念話(テレパシー)を切ることはできない。(能力を発動しているハミルにコントロールがあるからだ)

 だというのにあわてているハミルがおかしくて彰は苦笑とともに念話(テレパシー)を飛ばした。


 少しは落ち着け。……しかし何で俺にそんな事を頼むんだ? 順序立てて説明してくれ。


 は、はい。

 ……まずはですけど、彰さんはアメリカで起きた連続猟奇殺人事件を知っていますか?


「……いきなり何を言い出すのやら」

 話題が飛んだが彰は知っていた。


 確か新聞で読んだことがあるぞ。

 GW前から言われている事件だろ。アメリカで獣が殺したみたいな死体が見つかったっていう。

 確か五人くらい死者が出たというのに犯人は逃走中のはずで……。


 ブルッ。

 彰は話していて悪寒がしてきた。

「もしかして……」

 さっき言った殺人鬼を捕まえてくれという頼みとこの話題を出したのが同一人物であり、その人物が能力者絡みの存在である。

 警察ではなく俺に頼るのは……公にできないから。言い換えると能力者である俺なら頼める……それはつまり……。

 これまでの情報を統合して彰の頭は答えをはじき出していた。


 それで俺に捕まえてほしいのはその殺人鬼なのか? ……そしてそいつは能力者なんだな。


 ……すごいですね。その通りです。


 ハミルが絶句しているが、彰には分かりやすいことだった。

「能力者で殺人鬼……か」

 確かに戦闘向きの能力があれば人を殺すのも簡単になるだろうな。

 そのタイミングで驚きから解放されたハミルが念話(テレパシー)を返す。


 彰さんは頭がいいのですね。

 ……そうです。能力を使っている事件のためラティス様の能力『記憶メモリー』で記憶を操作しているんです。

 そのため警察とかに頼る事ができなく、殺人鬼が抵抗することも考えられるため能力者で戦闘能力もある彰さんにお願いしたいのですが。


 ……言っても殺人鬼を捕まえるんだから危険が伴うんだろ。それに俺は高校生だぜ。役に立つかも分からないし、死にたくも無いからそんな頼みはごめんしたいんだが。


 あ、確かに危険ではあるんですけど、さっき協力と言ったとおり彰さん一人じゃないんです。そのもう一人が中心に戦いますから彰さんにはサポートを頼みたいんです。


 ……もう一人? それって誰だ? もしかしてラティスなのか?


 いえ。ラティス様は戦いません。争いを隠蔽はしますけど、争い自体には関与しないのが機関の方針ですから。

 それで協力者というのは能力者ギルドの執行官の方なんです。ずっとその殺人鬼を追っているのですよ。


 ……能力者ギルド? ……執行官?


「?」

 聞きなれない単語が出てきた彰が首をかしげる。


 ああ、彰さんは知らないんですね。アメリカを拠点に動いている組織なんです。

 ……説明したいのは山々ですが、時間が無いので先に頼みを受けてくれるかどうかをきいていいですか。

 彰さんしか頼める人がいないんです。お願いします。



「殺人鬼を捕まえる手助けか……」

 異能力者隠蔽機関から久しぶりにもたらされた非日常。

 今回は少し抜けていた火野や試合という形だった彩香とは違って、戦闘人形と戦った時のような命をかけた戦闘になるだろう。

 戦いと聞いてうずうずしてきた自分の血を沈めて、冷静に考える彰。


「……無しだな」


 結論はそれだった。

 恩のある異能力者隠蔽機関の申し出だから受諾したいという気持ちもあるにはあるのだが、そんな理由だけで突っ込むわけには行かない。

 それに異能力者隠蔽機関が彰にしか頼れないならまだしも、今回は別に能力者ギルドとやらの執行官という存在が殺人鬼を追っているらしい。

 よくは分からないが大仰な名前からしてプロなのだろう。高校生が出るべき舞台がではない。

 彰は念話(テレパシー)を返す。


 すまんが協力できない。


 ………………そうですか。

 ああ、いえ良いんですよ。ラティス様も強制はしないって言ってましたから。


 そうは言っているもののハミルの声はしぼみがちだ。それでも彰は協力する気に今ひとつなれない。

「もうちょっと確固とした理由があればなりふり構わず協力するんだけどな」

 明日も変わらず文化祭の準備という日常が待っている彰には、関わる必要がそこまでなさそうな非日常まで抱えてられない。


 すまないな。わざわざ俺にまで念話(テレパシー)をかけてきたというのに。


 そんな。彰さんが気にする事はありません。

 ……それではもう念話(テレパシー)を切りますよ。そろそろ行かないといけませんから。


 へえ。何か用事があるのか?


 え? 仕事に決まっているじゃないですか。

 記憶メモリーで事件を隠蔽しないといけませんから、今からそっちに行きますよ。


 そっち? 事件って何だ?


 何を言っているんですか彰さん?

 結上市の事ですよ。今そこで六件目の殺人事件が起きて、現場を押さえた執行官が現在犯人ともう十五分は交戦中ですから彰さんに協力を仰いでいるって…………あれ? 言いませんでしたっけ?


 言ってない!!


 ひあ! す、すいません彰さん!


 彰は思わず声を荒げてしまったがそれだけの衝撃はあった。

「くそ! 何てことだ!」

 今になって考えてみれば想像できる事だった。

 アメリカを拠点にしている能力者ギルドとかいう他にも頼ることが出来る組織があるらしいのに、わざわざ日本の高校生である彰に頼ってきた理由。それは日本で起きている事件で彰の方が頼りやすいからなのだろう。

 それに時間がないと言っているのは、さっき事件が起きてから未だに交戦中であるその手助けだから。今すぐに助けて欲しいという事なのか。

 そこまで考えを巡らせていなかった彰は何となく事件が未だにアメリカで起きているものだと勘違いしていた。


「……なんでこの町なんだ」

 結上市で人が殺されたからといって彰には関わりが無いように思えるが……その実、思いっきり関係している。

 例えばもし執行官とやらが犯人を取り逃がした場合。

 そうなれば当然、近くで殺人事件を起こした犯人が捕まらなければ学校としては気をつけなければならない。

 遅くに帰らないように下校時間を早めに設定されれば、放課後を中心に行っている文化祭の準備が立ち行かなくなる可能性もあるし、


 最悪、一般人に紛れて犯人が入ってきたら大変だと文化祭が中止に追い込まれる可能性もあるだろう。


「それは最悪すぎる可能性だが……」

 近年モンスターペアレントなどいう保護者が論理の通っていない主張を学校側に押し付けるというのはよく聞く話だ。



「しかしもう人は死んでいるのか」

 ハミルによるとすでに結上市で人が殺されているのだ。

「執行官が殺人鬼をしっかり捕まえればそれで終わりなのだが……」

 これで犯人に逃げられれば、今考えた可能性が現実味を帯びてくる。

「そして俺に捕まえる協力を呼びかけてくるっていうことは」

 執行官一人では捕まえる自信が無いということ。



「ちっ!」

 彰は部屋のクローゼットを開く。

 そして動きやすい服装に着替えながら、脳内ではハミルに呼びかけていた。


 ハミル! さっきの話は無しだ!

 俺も殺人鬼を捕まえる手助けをさせてもらう!


 えっ! 本当ですか!?


 ああ。おまえの能力『探知(サーチ)』で執行官と殺人鬼が戦っている場所は分かるだろう? そこまで案内してくれ!


 着替えた彰は部屋を出て抜き足で恵梨の部屋の前まで行き中の気配を探る。

「……もう寝ているようだな」

 確かに彰も眠気を感じるほど夜はもう遅い。

「ちょうどよかった。恵梨までこんな非日常に付き合う必要は無い」

 恵梨も能力者であるのは同じだが、彰は巻き込むつもりはさらさら無い。一人で決着をつけるつもりだった。

 恵梨がこの事件を知った場合、自分も協力すると言い出したかもしれなかったから好都合だった。


 彰は恵梨を起こさないようなるべく静かに家の中を動き、玄関のドアを開けて外に出た。

「こんな夜遅くに家を出るなんてな。明日も学校があるというのに。

 ……ハミル! どっちに行けばいいんだ?」

 声に出して呼びかける彰。


 え、えっと。……現在住宅街で戦っているようですのでとりあえず右に。


「分かった!」

 文化祭(にちじょう)を守るために、夜風を切って彰は走り出した。

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