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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
四章 文化祭、殺人者と追跡者
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八十一話「図書室」

「モーリスの手がかりが見つかったんですか!?」

 とあるホテルの一室。

 金髪の少年、ルークは仮の拠点としているその場所で報告してきた若い女に対して聞き返した。

「はい。『過去視(パストビジョン)』の能力で偶然モーリスがある場所に向かったのが見えたそうです」

「でかしました。アメリカではずっと後手に回っていましたが、今回は先手を打てそうですね。……それでどこに向かっているのですか?」

「……向かった行き先、モーリスのこれまでの行動パターンなどから、私の能力『演算予測(カリキュレーション)』でモーリスの動きを予測したところ、


 現在、結上市という場所に潜伏している可能性が91%です」


 ルークは少し考えてから言った。

「分かりました。では、そこに向かうので移動手段を用意しておいてください」

「もう用意しています。……あなたがそう言う可能性は99%でしたので」

「毎度助かるよ」

 ルークがねぎらうと、女はにこっと微笑んだ。






「恵梨、結上市関係の本があるのはあっちみたいだ」

「そうですか」

 斉明高校の図書室はなかなかの広さを誇っている。

 一年生の彰には、もともと図書室にあまり足を運ばないこともあって、目当ての本をすぐに見つけるのは難しいことであった。そのため先に司書に場所を聞いてから移動を始めていた。


 クラス会議の翌日。その放課後、彰と恵梨の二人は図書室に来ていた。

 目的は一年二組が文化祭で行う展示『結上市の歴史』の資料集めである。

 まだ文化祭まで三週間あるのだが、早めに準備を始めて損はないだろうという彰の真面目さによって、帰宅部の中でも暇な連中が先に調べることにしていた。

 そのため帰宅部の彰と恵梨が二人で図書館にきているのである。


 二人はお目当ての本を何冊か棚から取り出し、図書室に備え付けられている机の一つに対面して座った。

 恵梨が積み上がった本を前に聞いた。

「これをどうするんですか?」

「今日はめぼしいページをコピーしといて、後日模造紙にまとめればいいだろ。……後で一気にコピーするから、コピーするページにはこれでも張っとけ」

 彰は用意していた付箋を恵梨に渡す。

「ありがとうございます。……それにしても」

 彰の細かな気遣いに礼を言った後、恵梨は本を一冊取って表紙の絵を彰に見せた。

「この絵を見る限り庄兵衛って確かに長身ですし、彰さんが仮装するにはちょうど良いかもしれませんね」

「江戸時代って栄養状態も良くなかったから長身の日本人はあまりいなかったはずだし、脚色しているんじゃないか? ……まあ気にしないけど」

 二人が今日調べにきたのは結上市に伝わる庄兵衛の話についてだ。

 それは一年二組がパレードの仮装に選んだ話でもある。


「……パレードねえ」

 彰は一冊本を取りそれを読み進めながら、昨日のクラス会議の顛末を思い出していた。





 一年二組の教室にて。

『私は庄兵衛に高野彰、かよに八畑由菜を推薦します』

 美佳がそう発言した結果、恋する乙女の方はパニックになっていたが、その相手の方は至って冷静だった。

「……それで美佳。俺と由菜を推薦した理由を一応聞いておこうか」

 彰はこめかみを押さえながら形式として一応聞いた。


「話の中で庄兵衛は高身長だったという記述があったのでクラスの中でも比較的身長の高い彰を庄兵衛に、そしてかよの仕事が湯女(ゆな)だったので由菜をかよに推薦しました」

(面白そうだったからに決まっているし)

 美佳は澄ました顔で口で建前を、心で本音を語る。



「どうするか……」

 彰は誰も出なかったら自分がパレードに出るしかない、と持ち前の責任感で確かにそうは思っていた。

 しかし、そうなると彰は学級委員長に文化祭のクラス委員にパレード出演者の兼任となり負担が重すぎる。なので最終手段だったのだが、

「他にはいないか? 自薦、他薦どちらでもいいぞ」

「………………」

 誰も手が上がらない。

 クラスにはこの二人でいいんじゃね、というムードが漂っている。


 これには理由があって、入学してから一ヶ月で彰と由菜が長年の幼なじみぶりを無意識に見せつけていたため、こいつら夫婦役にはまっているだろうという一年二組の共通理解がある。

 それに分かりやすい由菜の気持ちを一年二組の女子は理解していたため(男子は分かっていない)、二人を応援しようという美佳の根回しが事前にされている。



 そして、その他の立候補がでないまま三分ほど経過。

 しょうがないか、彰は腹をくくった。

「その他に意見が無いため、庄兵衛役は俺が務めることにするが……」

 そこですっかり失念していたことを思い出す。

「由菜はかよ役でいいのか?」

 パレードの相方である由菜に確かめる。

 彰は割り切ったのでパレードに参加することに異論はないが、由菜はどう思っているのか分からない。

 本来なら真っ先に聞くべきことを、いまさら聞いたのだが――。



「ほら、由菜さん。聞かれていますよ」

「…………え?」

 聞かれた、って……何を?

 由菜はあわてて教室を見回した。何故かは分からないが視線が自分に集中している。

 隣にはいつの間にか恵梨が座っており、その恵梨が声をかけたようだが、

「由菜さん。話聞いていなかったんですね」

 呆れたように言った恵梨の言葉が真実だった。

 確かに思い返してみても、美佳が発言した後の記憶が抜け落ちている。内容があまりの衝撃だったため脳が活動停止していたようだ。


「ご、ごめん。何の話?」

「由菜はかよ役をするのか、と聞いたんだ」

 前に立つ彰が重ねて聞いてくる。

 かよ。彰の演じることになった庄兵衛とは夫婦。

 もしかよ役をすることになったら、私と彰はそれに仮装して全校生徒の前で一年二組の出し物の宣伝をしながら歩くことになるんだけど――。

 そのときを想像すると、顔から火が吹き出そうなほど恥ずかしいと感じる。

 む、無理よ! だってそれに腕も組むんでしょ! そんなことしたら彰と密着することになって……。

 っ~~~~~~~~~~!!

 そんなこと幼なじみとして過ごした十年ほどの中で一度もなわよ! ……でも、これは良いチャンスなのかも? だけど飛躍しすぎで、しかしやってみたい気持ちも十分にあるし、けど私なんかじゃ……。


 ………………。

 頭の中がパニックとなった少女だが、長々と逡巡したところで恋をしているのだから返事は決まっているようなものだった。



「…………やります」

 由菜は小さくつぶやいた。





 そんなこんなで彰は由菜とパレードを歩くことになった。

 正直、彰は自分の相方が由菜だったことにホッとしている。

 それは……。


「なかなかに良い話でした」

「おっ。……そういえば恵梨は庄兵衛の話は初めてか」

 正面の恵梨が本を読み終わったらしく彰に話しかけてきたため思考を打ち切る。

「はい。内容自体はよくあるハッピーエンドですが妙に話がリアルですね」

「当然だ。一応この結上市であった実話を基にしているからな」

 この地に住み始めた恵梨が初耳なのは当然だが、彰は何回かこの話を聞いたことがある。


 庄兵衛の話はこんな感じだ。

 江戸時代の頃、庄兵衛という身分の低い武士がいた。

 ある日、庄兵衛が町を歩いていると一人の女性に目を引かれる。

 この女性がかよであった。

 かよに一目惚れした庄兵衛は、その後かよに声をかけだんだんと親密になっていくが、それにつれてかよの境遇を知っていく。

 親が残した借金を返すために身を粉にして働いていること。その借金相手が身分の高い武士で、借金の催促にいろいろと嫌がらせをされていること、その他様々な問題を抱えていた。

 話を聞いてかよを思っている庄兵衛は彼女を助け出すことを決心する。

 身分差のある武士に直談判に行ったり、かよの勤め先の悪徳な雇い主に話をしたり、悪目立ちをしたせいでけしかけられた刺客と大立ち回りを演じたり……。

 さまざまな困難を二人で乗り越え、最後には二人は結婚して幸せに過ごしました、で話がシメられるよくある勧善懲悪ものだった。



 恵梨は彰の本に目を向けた。

「ところで、彰さんは何を調べているんですか?」

「ああ、庄兵衛の話について詳しく書かれた本だ。実話だから、物語に出てきた場所が現在の結上市のどこなのか地図に載っていたりするぞ」

「すごいですね」

「そうだな。……これをまとめればスペースを埋める足しにもなるだろうしコピーしとくか」

 彰は読んでいた本に付箋をつけて本を閉じる。すると恵梨の目に付くのは表紙に書かれた庄兵衛とかよの絵。

(あっ、いいこと思いつきました)

 恵梨はいい機会だということで彰に質問を告げていた。

「……彰さんはパレードで由菜さんと一緒に歩くと決まったときどう思いましたか?」

「どうって?」

「由菜さんと夫婦の役で歩くことにどう思ったかです」


 さて、彰さんはどう答えるのか、恵梨は期待の心で彰の回答を待つ。

 恵梨がこの質問をしたのは、鈍感で感情が読みにくい彰が由菜のことをどう思っているのかを間接的に聞くためだ。

 そのような意図が隠されているとは知らずに、彰は普通に答えた。

「美佳にかよの職業名と名前が一緒とかいう、ふざけた理由で推薦された由菜には申し訳ないが――」

「すいません。そういえば湯女って何なんですか?」

湯女(ゆな)っていうのは昔の風俗嬢の名前らしいぞ。俺もさっき調べていて初めて知ったが。

 ……それで、俺は由菜が相手役でホッとしている」

「何故ですか?」


「由菜には昔から助けてもらっているからな。妻役って聞いたときしっくりきたんだよ」


「……微妙ですね」

 夫婦役をするときの感想を聞けば分かりやすいとは思ったが、妻役としてしっくりきているというこの感想は。

「女として見ているかどうか分かりにくい……」

「話はこれで終わりか? それなら、今度はコピーしに行くぞ」

 彰が机に散らばった本を集めて席を立つ。

「はあ。そうですね」

 一つため息をついて、恵梨は彰の背中を追いかけた。

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