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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
四章 文化祭、殺人者と追跡者
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八十話「クラス会議」

 全体での文化祭準備会議が終わった翌日。

 放課後前の最後の授業を使って、一年二組では文化祭についての話し合いが行われていた。


「というわけで俺たち一年二組は結上市の歴史を調べることに正式に決定した」

 文化祭のクラス委員である彰は教室の前に立って進行を務める。ちょうど昨日の全体会議の報告が終わったところで、議題はクラスの出し物について移ろうとしていた。

「歴史だけじゃなく他にも結上市について調べようと思う。何を調べたらいいか、ついでにパレードをで何をするのかを決めたいので近くの人と話し合ってくれ」

 彰が言うと、さっきまでわりと静かだった教室に喧噪が戻ってきた。




「由菜さん。そういえばパレードってどういうことをするんですか」

 その中、水谷恵梨は空席となっていた彰の席に座っている。

「……私も話聞いただけだから詳しくは分からないけど」

 というのもその隣の席に座っている由菜と話すためである。教室内に先生がいないので、教室の秩序はあって無いようなものだ。

 担任の畑谷がいないのは、この時間は斉明工校の三学年ともクラスで会議を行っておりそれに合わせて教師たちも会議を行っているからであった。

「確か各クラス・各部活が代表者を二人選んで、その二人は仮装をして自分達の出し物を紹介して歩く。……そんな感じだったわ」

 由菜は自分の記憶から捻りだして恵梨に答える。


「面白そうですね」

「各団体の顔ともいえる存在だから、美男美女ばかりが集まるらしいよ」

「なになに? パレードの話?」

 そこに割り込む声があった。

「あっ、美佳さん」

 二人とも仲の良い西条美佳である。

 話し合いの最中だというのに美佳は席から離れて二人のところに近づいてきていた。……話し合い中に関係ないことを話していた由菜が言える立場にあるわけではないが。

 由菜はそう思って周りを見回してみると、自分の席から移動して話している生徒は多く、熱心に議論をしている生徒もいればただおしゃべりをしているだけの者など様々だった。

(彰はこの状況からまとめられるのかしら)

 由菜は教卓のところにいる幼なじみを見る。この惨状に彰は注意をするわけでもなくただ普通に見守っていた。

(何か結構余裕そうね)

 そんな印象だった。



「…………そういうことだから恵梨も協力してね」

「ふふふ。分かりました」

 観察している間も由菜の方ををちらちらとうかがいながら恵梨と美佳は話をしていたようだった。

「ごめんごめん。聞いてなかった。何の話しているの?」

 由菜も二人の話に入ろうとする。二人は顔を見合わしてから言った。

「別に特に大した話じゃないわよ。そうよね、恵梨」

「そうです」

「…………本当に?」

 ならさっきなぜこちらをちらちらと見ながら話していたのだろう?

「どうせ由菜が聞いてもどうしようもないから」

「由菜さんに決定権はありませんからね」

「何よそれ……」

 ジト目で二人を見る由菜。

 美佳の表情は普通だが、それは逆にポーカーフェイスを貫いているときだと中学からのつきあいである由菜は知っている。つまり、何かを隠している。

 そして、上機嫌なのか顔に微笑を張り付けている恵梨。(彰が見たら暗黒面(ダークサイド)恵梨の光臨だと分かっただろう)

 二人が協力して何か――対称はおそらく自分――をしようとしているのは由菜の目にも明白だった。


 嫌な予感がするわね。由菜は二人を問いただすことにした。

「何を企んでいるの?」

「ひゅ~ひゅる~る~」

「……露骨ね」

 下手な口笛を吹く美佳は隠す気はないが話す気もないらしい。

「何を企んでいると思います?」

 明らかにからかっている恵梨。


「はあ。……あんたたち~~」

 由菜はさらにつっこんで聞こうとして、

「はい、そこまで。いったん意見をまとめるからみんな席についてくれ」

 彰が手を鳴らしてから全体に話し合いの終了を告げた。

 しかし、

「でもさー」「やっぱり結上市の特産品とか」「無難だな」「高野君が座ってって言ってるよ」「パレード誰がいいかな?」「この前駅前にできたケーキ屋知っている?」

 話に花を咲かせた学生は周りが見えなくなるもので、それぐらいで話をやめるはずがなかった。そもそも聞こえて無い可能性もある。

 こうなることは由菜にも予想できていたことだ。なので彰にはすまないがもう少しこの二人に話を……。


「この話し合いが早く終わって時間があったら、昨日の会議で聞いた文化祭の情報を話そうと思っていたのにな。……例えば先輩から聞いたおすすめのナンパスポットとか」


「………………」

 シーーーーーーン。

「えっ!?」

 彰の言葉を聞いた途端、男子全員が一瞬で席に着いた。そのあまりの速さに由菜が驚きの声を上げる。

 クラスの半分が静かになったことで、もう半分の未だ話していた女子達が目立ってしまう。

「さっさと戻りますか。男子達がものすごい目で見てるし」

「……なんでいきなりこんなに静かになったんでしょう?」

 美佳と恵梨はそそくさと自分の席に帰っていった。女子のほとんどが話をしていたので彰が何と言ったかは聞いていなかったが。


「よし静かになったな。……まあ今のは冗談だぞ。そんなの俺が聞くはずないし」

 あっかり手のひらをひるがえす彰。

「何だと!!」

「ふざけるな!!」

「期待を返せ!!」

 当然、男子全員からえんさの声が上がり、元と同等の騒がしさになる。

 だが、

「ほら、静かにしなさいよ。がっつく男子は嫌われるわよ」

「………………」

 美佳の一言でまたも沈黙する。

 彰と美佳の二人とも男子を掌握しきっていた。


「何が起きているのかしら?」

 話についてきていなかった美佳以外の女子には、男子達がいきなり騒ぎだしたり黙ったりと意味不明だったが、

「それでは意見のあるやつは挙手」

 彰は何事もなかったように会議を進めていった。




 数分後。

「結上市の特色、これからの結上市、結上市に伝わる庄兵衛の話、結上市出身の有名人……」

 彰は黒板にかかれた意見を読み上げていく。七、八個の項目がありそれぞれを調べれば十分な分量になると思えた。

「まあ、これぐらいでいいだろうな。……さて、次はパレードの話だ」

 彰は話を次に進める。


「そういえばパレードって何だ?」「俺見たことあるぜ」「……男と女が手を組んで歩いているのを見て爆発しろと思ったのを覚えている」「ただ歩くだけなのか?」「いろいろと仮装するらしい」「去年ロミオとジュリエットのを見た」「部活着のところもあったな」

 和気藹々としたところは一年二組の強みなのだが、こういうときにすぐに話し出してしまう欠点もある。……それは仲がいいことの裏返しでもあるのだが。


「はい静かに。……それで何か良い意見はあるか」

 若干静かになったところで意見を求める彰。

「はい」

 すると、すぐに女子の一人が手を挙げた。イスを引いて立ち上がる。

「さっきも話に出ましたが、庄兵衛の仮装が良いと思います」

「ああ、あの話か。……ということは庄兵衛、かよの二人の仮装ということか?」

 この町に住んでいる者なら一度は聞いたことのある話を思い出す彰。

「はい。ちょうど結上市の歴史という内容とも合っていますし」

「まあ仮装と内容を合わせる必要はないんだが……たしかに良い案かもしれないな。

 みんなこれでいいか? 他の意見がある奴は挙手」

 手を挙げる生徒はいなかった。

「それではパレードの仮装の題材は庄兵衛の話とします」

 彰は決定を言い渡す。


 あっさりと決まったわね。

 由菜は特にパレードについて思うところが無かったので、庄兵衛で賛成だった。

 しかし気になることが一つある。

(さっき決定になったとき美佳がガッツポーズを取ったのよね)

 目の端に映っていた友人の所作。意見を言ったのは別の女子だというのに、美佳は自分のことのように喜んでいた。

(もしかして美佳がそう言うように指示したのかしら。)

 情報通の美佳だが、それはひとえに多くの人とネットワークがつながっていることを意味する。由菜はさっき手を挙げた女子とあまり話したことはないが、美佳なら頼みごとを言えるような関係だったとしても不思議ではない。

「……」

 さっき何かを企んでいたし、もし何か起こすとしたらこの後かな。



 由菜が心配する中、会議は最後の議題となった。 

「次はパレードに参加する代表者だが……」

「はい」

 推薦する奴はいるか、と彰が続けようとしたところを遮られる。

 挙手して立ち上がったのは、

(動いてきた!?)

 美佳だ。由菜は無言で美佳を見つめる。


 立ち上がった人物を見て、呆れながら彰は言った。

「おまえ人の話は最後まで聞けよ」

「ごめんなさい。……それよりパレードに参加する人の話だよね?」

「……そうだが」

 そして美佳は当初の予定通りに告げた。



「私は庄兵衛に高野彰、かよに八畑由菜を推薦します」



「……ええっ!?」

 何を言われても良いように備えていたのに、それでも由菜は驚いた。


 さっき少し聞こえた言葉が思い出される。

『パレードでは男と女で手を組んで歩いていた』

 さらに思い出される。

『全校生徒に一般の人も見に来るんだぜ』

 そして、庄兵衛の話が思い出される。

『庄兵衛とかよは結婚しました』


 つまり。

(それって彰と夫婦の役を演じて、手を組みながら歩き、大勢の人に見られるってことーーーー!?)


 恋する乙女が処理しきるにはあまりに大きな出来事であった。

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