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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
一章 水の錬金術者
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七話「来訪者」

 チャイムが鳴ったのを聞いて、彰は反射的に立とうとした。

 だが、それを制するように、ガチャ! と玄関の鍵が開く音がした。

 一応、鍵を持っているというのに形だけ鳴らしたチャイム。そんなことをするやつも、こんな夜に訪れるやつも、あいつしか思い浮かばない。

 そう思い彰はまた座りなおした。

 当然、それを見た恵梨は疑問を持つ。

「出なくていいんですか?」

「? ……ああ。鍵が開いたのを聞いただろ。勝手に入ってくるから」

 恵梨が、誰が? と聞こうとしたとき、廊下につながるドアが開いた。



「ようっ、彰。ちゃんと飯食っ、ている、か……?」

 彰の幼なじみの由菜(ゆな)が入ってきた。元気な声をあげて入ってきたが、恵梨を見ると声が尻すぼみに消えた。

「……誰だこの女?」

 立ち直った由菜は彰を問い詰める。彰は落ち着いて答える。

「えーっと」

「同じ学校じゃないな」

「今日の夕方」

「近所でも見たことがないな」

「俺が助けた」

「まず一度も見たことがない女だ」

「恵梨だ。……話聞いてないよな、由菜」


 それもスルーして由菜がまくしたてる。

「って、この家に二人きりじゃない! 何するつもりだったの!?」

「なぁ、由菜。話を……」

「私が会ったことがない。つまり、こいつと彰も初対面。なのに親密。そして二人きりの家の中……分かった! 出会い系サイトで知り合ったんだな! ふ、不潔だ!」

「………………」

 発想が飛躍しすぎだ。

 時々こういう風に暴走する由菜だが、こうなったら手のつけようがないので、彰は放っておくことに決めた。



 そこで恵梨が由菜に対応する。

「すいません」

「誰なんだおまえは!」 

 二人の中空に火花が散って、女同士の壮絶な舌戦の始まり……のように見えた。


 が、

「あの、彰さんの彼女ですか?」

「…………か、彼女!?」

 邪気無く言われた由菜は、開幕そうそう先制パンチを食らった格好となった。

 そもそも、由菜は恵梨に敵意を持っているようだが、恵梨は由菜のことを知らないので敵意があるわけも無く、舌戦になりようが無い。……と思われるのだが、何故か恵梨の言葉は的確に由菜をとらえた。

「すいません。こんな時間に家に二人きりだと、誤解されても仕方ないですが、事情があるんです」

「……そ、そうだぞ! 男は狼なんだ! 家に二人きりなんて、どんな事情があっても関係なしに襲われるぞ!」

 しかし、由菜も反撃のジャブを放つ。

 人が黙っているからって調子に乗りすぎだ、と彰が口をはさもうとする。



 が、その寸前で少し考えていた恵梨が言った。

「……そうですね。ではあなたは襲われに来たのですか?」

 由菜に、上手いカウンターが入った。

「は、はい!?」

「私がいなければ、彰さんと二人きりだったみたいですし」

「っ!」

「こんな夜遅くですし」

「!?」

「男は狼なんですよね?」

「!!! そ、それは誤解だ! いや、誤解じゃない。けど誤解なんだ! しかし……」

 しどろもどろになる由菜。はっきり要ってKO(ノックアウト)である。


 由菜が落ち着いてきたようなので、彰はレフェリーのごとく双方の間に入って、誤解を改めるべく、まず由菜のほうを向いた。

「落ち着け由菜。さっきも言ったが、こいつは水谷恵梨だ。事情があってここに居る」

 そして恵梨の方を向く。

「恵梨。こいつは八畑由奈だ。俺の幼なじみで、彼女ではない」

「そ、そうなの?」

「そうですよ。そっちこそ幼なじみなんですね」

 理解しあった由菜と恵梨。

「そういうことだ。どちらも仲良くしてくれ」



「それにしても幼なじみですか」

「な、何よ」

 由菜を見て恵梨がニヤニヤしている。

「いえ……それ以上を望んでいるんじゃないですか」

「そ、それは」

「私を見て嫉妬していましたしね」

 由菜がうなだれる。

「……私ってそんなに分かりやすいかな?」

「そうみたいですね」

 その後、彰は夕食の食器の後片付けをして、恵梨と由菜は会話していた。

 皿を洗うために水を出している音で、彰には二人の会話が聞こえない。



「こんなことを何回もしているんですか?」

「こんなことって?」

「だから、夜にこの家に訪れることですよ」

「そりゃほぼ毎日だけど」

「なのに、襲われないと」

「お、襲うって! いや、その……。私はいつも緊張しているのに、彰が鈍感だから」

「なら、こっちから襲ったらどうですか」

「お、襲う!? そんな恥ずかしいことを」

「でもあんな鈍感じゃ、いつまでたっても気づかないと思いますよ」

「……でもそんないきなり襲うとかじゃなくて……その、まずは告白とか」

「じゃあ、告白してください」

「はめられた!?」


「二人とも、もうかなり仲がいいようだな」

「!?」

 彰が皿を洗い終えて帰ってきた。由菜が血相を変えて彰に詰め寄る。

「今までの話、聞いてないわよね!?」

「ああ、聞こえなかったが。……で、何の話をしてたんだ」

「何でもないわよ!」

「がんばってくださいね、由菜さん」


「?」

 意味が分からなかったが、彰は話を変えた。


「そういうことで恵梨が今日うちに泊まるからな、由菜」

「えっ! ……あっ、いや、事情があるのは分かるけど、どんな……。いや、言わなくていいわ」

 恵梨と彰の表情で訳ありの雰囲気を感じて、詮索をやめる由菜。

「……ありがとうございます」

 恵梨は由菜にお礼を言う。


「……それなら、ここを自分家だと思って、ゆっくりしていきなさい」

「ここは俺の家なんだが」

「私の家でもあるようなものなの」

「何だそれ」

 彰は苦笑した。

「何笑っているのよ」

「ごめん、ごめん」

「お二人とも仲がいいんですね」

「そう、恵梨。彰と二人きりなんでしょ。襲われそうになったら悲鳴を上げなさい。私は隣の家に居るから。聞こえたらすぐ私が助けに行くから」

「? ……組織の追っ手に襲われたからって、お前が力になれるとは思えないが。……そもそも何でお前が知っている?」

「彰さん、襲われる相手が違います……」

 その後も、リビングは笑い声にあふれていた。

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