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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
四章 文化祭、殺人者と追跡者
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七十七話「文化祭準備会議2」

「えっ、あの」

 文化祭準備会議に出席していた文芸部の部長は困惑していた。

 去年も行った文芸部の『作品発表と部誌の販売』の企画が今年は通らなかったというのもあるし、そして面識もない一年生がそれに質問した事もだった。

「……ど、どうすれば」

 その一年生がなぜ立ち上がったのかは分からないが、人前で話すことが苦手な文芸部の部長にはこの状況をどうにかできるわけもなかった。




 生徒会長の毬谷は質問者の彰の方を向くと、意外そうな表情になった。

「……誰かと思えば高野彰くんですか」

「え?」

 彰は首をひねる。

 その言い方だと、毬谷は俺を前から知っていたように聞こえる。

 実際は毬谷と学年も違う彰は、学級委員長として生徒会長の話を聞くことはあったが直接話すのは初めてだった。


「それで質問とは何ですか?」

 そんな表情をしていたのも少しの間だけで、すぐに元のまじめな顔に戻って毬谷は彰に聞いてくる。

「いえ、ただの純粋な疑問ですよ。何で文芸部の企画が通らなかったのかなーと。俺はまだ一年生でよく規則とか分からなくで」

 彰は申し訳なさそうに聞く。

 とりあえず下から刺激しないように接することで少しでも毬谷の油断を誘おうという魂胆だ。

 文芸部の企画については、現状毬谷の方が正論なのでそのような小細工を駆使しないと勝てないと彰は判断している。

「そう、分かったわ」

 今までと特に変わらない調子で答える毬谷にそれがどれだけ通用したかは怪しかったが。



 会議室中が二人に注目する中、生徒会長は説明を始めた。

「ではまず、場所がないというところから説明しましょう

か。まずは本校舎ですが一階は職員室や保健室があるので企画には使用しません。二階以降の各クラスの教室はクラスごとの出し物に使いますし、二階の自習室1は美術部が三階の自習室2は将棋同好会……その他の教室もすでに埋まっている状況です」

「なら、この場所は使えないのですか?」

 彰が指を下に向けてこの部屋、つまり会議室を示す。

「ここは文化祭の実行委員の本部が置かれますね。ですから無理です。

 文芸部は普通の教室を所望してますが、一応言うと特別教室棟もすべて埋まっています。科学室は科学部が使いますし、家庭科室も調理部が使います。物理室は……バスケ部が使うようですね」

「確かにどこも空いてないですね」

 彰が同意する。

 ちなみに斉明高校の校舎は一般教室棟と特別教室棟の二つに分かれている。


「それでなぜ文芸部の企画が不成立なのかですが、一年生のあなたは知らないでしょうが各部の部長は毎月一回活動報告というものを生徒会に出さないといけないのです。

 生徒会はそれを見てきちんとその部が活動しているかを判断しますが、文芸部はそれを出していないのです。どういう事情があるのかは知りませんが、これを生徒会の方ではきちんと活動していない部と見なさせてもらいました。

 本来はそれだけの理由で企画が不成立はありません。それに文化祭はほとんど毎年、部が出した企画は全てが承認されています。

 ですがさっきも説明した通り、今年は本当に教室の空きが無い状況なのでどこか一つの部が出し物を諦めるしかない状況だったのです」

「………………」

「となれば、きちんと活動していない部活動が企画を諦めるしかありません。

 ……ここまでが生徒会が文芸部の企画を不成立にした理由ですが、納得していただけたでしょうか、高野彰くん」

 確認をとってくる毬谷。



「……そうだな」

 彰は確かに理屈では納得できた。部屋が足りないのも事実だろうし、文芸部が活動報告を出していないのも事実なのだろう。

 しかし、感情では納得できない。

 そもそもその程度で立ち止まるようなら、最初から彰は立ち上がっていない。

 彰は反論の方針を固めてから口を開いた。


「俺が言いたいことは一つだ。どうにか文芸部の企画を通してやってくれないか?」


 下手に出ていた口調をかなぐり捨てて、彰は予定通りのセリフをはく。

 それを聞いた会議室中の生徒たちがざわめき出す。何となく彰が立ったときからその予兆は感じられていたのだが、いざそれを生徒会長に言ったとなると驚くものらしい。

 一方、毬谷には動揺の気配が見られない。

「どうしてなのかしら?」

 余裕たっぷりに聞き返す毬谷は、自分の言い分に絶対の自信を持っている。


「ここが学校で、俺たちは生徒だからだ」

「……それで?」

 毬谷は特に何も意見を返さずに、彰に続きを求める。

「俺は学校を特別な場所だと思っている。小さな社会とも言える学校に在籍するのは子供、社会を知らない未熟な人間たちだ。つまり学校とは『社会とは何か?』を学ぶ場所だとも思っているんだ。

 確かに今回悪いのはルールを守らなかった文芸部だ。社会では自分に責任を持たないといけない。ルールを守らないといけない。それは小さな社会でもある学校にもあてはまる。

 ……でもさ。俺たちはまだ未熟な子供だ。間違う事だってあるさ。当然だ。そのために俺たちは学んでいるんだから。……せっかくの年に一回の文化祭なんだから、ルールを守らなかった文芸部には何か他に罰を与えるなりして、一緒に文化祭を楽しもうぜ――」



 彰は毬谷の顔を見ながら話していたが、それが彰の主張を聞くうちに興味なさそうな顔つきになるのが見て取れた。

 彰でもそうなるだろう。結局彰が言っているのは綺麗事。絵空事。感情論。毬谷を納得させるには到底足りない。

 このまま彰が口を閉じれば毬谷は即座に反論を始められるだろう。


 だから。


「――と思うのだが、みんなはどう思うか?」


 毬谷から視線を切って、会議室にいる生徒の方を向いた。

「っ!」

 毬谷が息を呑む気配が感じられる。

 確かに俺の綺麗事は、生徒会長のあんたには通じないだろう。……しかし他の生徒ならどうだ?


「みんなはそれで納得しているのか? 自分達の企画は通っているから文芸部の事なんて関係ないことなのか?

 そうじゃないだろう。斉明高校ではほとんどの部活が出す企画が通るらしいな。それだと言うのに文芸部だけほっといて自分たちだけ楽しくやってそれで満足なのか?」


 彰の呼びかけに。

「……確かに」「おれもかわいそうだとは思っていたんだよ」「……わ、私も」「でもさー」「何だ?」「な、何でもない」「毎年文芸部の部誌買ってるし、今年は変えないのは嫌だな」「そういえばおまえ文芸部に彼女がいるんだっけ?」「ああ」

 直接的な言葉から、間接的な物までそこかしこから彰に賛同する言葉が上がる。

 さっきの態度から彰には分かっていたが、やはりみんな文芸部の企画の不成立には反対だったのだ。

 なのに彰以外がそれを言わなかったのは、こういう場で積極的な発言を行わない現代の若者が多かっただけなのだ。そんな若者でも消極的な発言、彰の呼びかけに反応する事ぐらいは出来る。



 場の流れが変わった事を肌で感じている毬谷は焦りながら発言する。

「で、ですが場所が無いのは本当で――」

「あのー」

 そこで部活動代表の方に座っている一人の生徒が手を上げた。

「私は絵画同好会の部長なんですけど…………教室の半分で良いなら文芸部に使ってもらっても構いませんよ」

「ほ、本当ですか!!」

 人前で話す事が苦手な文芸部の部長だが、このときばかりは喜びの感情が詰まった大声で聞き返す。

「スペースを詰めれば何とかなると思います。まあ絵画研究会なんて大層な名前を付けていますが、私たちはマンガのキャラの立ち絵を描いているような同好会ですからね」

「……ありがとうございます!」

 パチパチパチ。

 その光景に会議室の生徒たちが誰からでもなく拍手を始めた。



「……ということになったのだが、生徒会長さん」

 拍手も収まり彰が生徒会長に意見を伺うと、全員の注目が毬谷に集まる。

 まさかこの雰囲気の中文芸部の企画の不成立をごり押しする事はできないだろうな。もしそんなことになったら最悪文化祭が上手く行えない可能性すらあるぞ。


 彰の危惧は毬谷にも分かっている事で、数秒の逡巡の後。

「……文芸部は一週間以内に今までの活動報告を出すこと。出せない理由があるなら生徒会の方まで来てください。それと今まで提出していなかった事は事実ですので、罰として文化祭までは生徒会の業務を手伝う人材を部の中から毎日一人派遣すること」

 表情には出ていなかったが、苦々しい声で文芸部の部長に決定を告げる。

「はい」

 文芸部の部長はうなずく。

「絵画同好会の方は出し物の場所が半分になりますがそれでもいいのですね?」

「はい」




「………………そういうことですので、文芸部の企画を成立とします」




 毬谷の決議に賛成の意を表すために再度沸き起こる拍手。

「よかった、よかった」

 この結末の最大の功労者である彰は、他人事のようにつぶやいた。

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