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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
四章 文化祭、殺人者と追跡者
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七十六話「文化祭準備会議1」

 放課後。

 GW明けて一日目を何とか乗り切った生徒たちが開放感にあふれる中、クラス委員である彰はこれから行われる文化祭の準備会議に出席するために、教室を出て会議室に向かうことにした。


 が、その前に立ちふさがる三つの影。


「ちょっといいですか、彰くん」

「そんなに時間はとらせないぜ」

「…………話がある」

 斉藤たち反リア充三人組だ。

 朝から今まで動きが無いと思っていたが、放課後になって動いてきたようだ。

「……これから会議があるんだ。お前らの相手をしている暇は無い」

 いつも以上に辛辣に対応する彰。実際会議が始まるまでそこまで余裕があるわけではない。


「話を聞いていなかったのですか? そこまで時間はとらせないといったでしょう」

 斉藤が小バカにしたように言う。

「………………」

 その態度に少しカチンと来た彰だが、三人は話を聞かなければここを通さないという雰囲気を出しているので、

「……はいはい。分かったよ」

 おとなしく折れることにした。


 三人を代表して斉藤が話し始めた。

「話というのは、本日某所で行われた一年二組男子会議の結果をお知らせに来たのです」

「……何だその会議?」

「その名の通り、一年二組男子たちの会議です」

「俺はそんなの参加してないぞ」

「…………リア充は除く」

 平井がボソッと付け足す。

 要するに彰以外の一年二組の男子が参加した会議のようだ。まだこのクラスになってから一ヶ月ほどしか経っていないというのに大した団結力(?)である。


 自分だけ省かれたということに悪い予感がしながら、彰が恐る恐る聞いた。

「その会議では何を話し合ったんだ」

「当然ながら彰くんがGW中に水谷さんと二人で旅行に出かけたというリア充行為についてです。

 僕がその行為について皆に説明をしましたが、その後会議は大いに荒れましたよ。彰くんに対してどのような罰を下すか様々な案が飛び交いました」

「…………無罪放免という案は出なかったのか?」

「一つも」

 彰の背筋に汗が流れる。


「会議は大いに荒れましたが何とか多数決により、そろそろ高野は全力を持って処刑すべきだという結論が出そうになった時――」

「怖えな」

 処刑、って何をする気なのか?

「会議場にいた僕たちはこんな言葉を聞きました。『俺たちはこのままでいいのか?』と。

 それはその場にいた一人の生徒の発言でした」

「……まともなやつがいたか」

 そうだよな。クラスメイトを処刑するなんて普通の感覚じゃない。


「リア充を擁護する発言したそいつに対し、即座に僕たちは食って掛かろうとしました」

「おい。クラスメイトを当たり前のように攻撃しようとするなよ……」

 こいつらは昔不良だった彰よりも節操が無いような気がする。

「ですが皆が迫ってくるというのに、彼は気丈にもこう言ったのです。『これから何の行事があるのか知っているのか?』と」

「………………」

「『そう、文化祭だ。文化祭といえばどんなイベントなのか分かるか?』一人が憎々しげに吐き捨てました。『リア中のためのイベントだよ! くそっ!』」

「文化祭に何の恨みがあるんだよ」

「その場にいる皆がその発言に肯定しましたが、彼はゆっくりと首を振って言いました。

『違う。……リア充になるためのイベントなんだ』

 ……僕も最初聞いた時は目を見張りましたね」

 リア充になるためって……まあ、文化祭の浮ついた空気によってカップルができやすいとか言うのはよく聞く話だが。

「彼は言いました。『そんな文化祭まであと少ししかないというのに、俺たちは復讐ばかりにかまけてていいのか? 否! 我らもリア充になるために行動を開始すべきだ!』」

 斉藤は心酔した様子でそのセリフを言った。


 彰は今までの話に結論をつける。

「……ということは、俺は何もされないと」

 斉藤がトリップ状態から帰ってきた。

「はい。残念ながら僕たちは彰くんにかまっている暇はないのです」

「ああそうだな。文化祭について先輩たちにオススメスポットを聞いたりしないといけないしな」

「…………情報収集に徹する」

 戸田山と平井の二人も同じ意見のようだ。

「と、それだけですので彰くんは会議をがんばってきてください。文化祭の成否が僕らの将来に関わってきますので」

 斉藤が普通の生徒のように彰を応援した後、言いたいことを言い終わったのか三人とも回れ右で帰って行った。


 彰は三人が去って行った方向を眺める。

「あれ? 俺ってあいつらに構われている立場だったのか……?」

 どちらかというと俺が構ってやってるのだと思っていたのだが。






 そんな一幕があったせいで、彰が会議場にたどり着いたのは開始時間まで後三分だった。

 文化祭の準備会議に出席する各クラスのクラス委員、部活動の代表、生徒会の役員がすでに集まっているため教室一つ分の大きさがある会議場もかなり人口密度が高い。

 ちなみにこの場に教師はいない。斉明高校は生徒の自主性を重んじるという校風なので、教師はこのような会議にはノータッチなのである。

 ロの字形に並べられた机の一辺がクラス委員が座る席になっているらしく、一年一組と三組のクラス委員が座っている間に彰も腰かけた。

 対面上に座っているのは各部活の代表、入り口から一番遠い下座の方に座っているのが生徒会の役員。


 そして記録用のホワイトボードが置かれた上座の方には、この会議の議長が座っていた。


 彰よりも遅かった生徒が時間ぎりぎりにやってきて席に着くと議長は立ち上がった。

「全員揃ったみたいね」

「そのようです」

 傍らにつく女子生徒に確認して、議長は前を向き直る。


「会議を始めるわよ」

 この会議の議長である、斉明高校生徒会の生徒会長。毬谷(まりや)千鶴(ちづる)は会議の開会を宣言した。



「文化祭の準備自体が押しているためいきなりですが本題に入りたいと思います。まずはクラスごとの出し物の確認をします」

 毬谷千鶴は頭脳明晰な上に容姿端麗な女子生徒であった。

 そんな毬谷が二年生であるのに三年生を抑えて生徒会長に当選したのは想像に難くない。性格は真面目なため生徒会長に向いているというのも一つの要因だったのだろう、と彰は聞いている。


 毬谷(まりや)は手元にある資料を見る。

「まずは二年三組が出しましたお化け屋敷ですが、ほかに対立候補がいないために決定とします」

 それを聞いた二年三組のクラス委員がほっとした表情をとるのにも関わらず、毬谷は資料をめくった。

「同様に二年一組のプラネタリウムも決定とします」

 斉明高校の文化祭ではクラスごとに一つの出し物をしないといけない。その企画書はすでに全クラス提出済みである。

 クラスで色々と話し合った結果なので、それが通ったときにクラス委員が安堵するのは当然のことであろう。


「次は一番やっかいなのですが、三年一組、三年三組、二年二組の三クラスが出した喫茶店です。それぞれいろいろとコンセプトを出しているのですが、基本的なところが一緒だと見受けられます。さすがに三クラスは被りすぎだと思うので、それぞれのクラス委員で話し合ってください。それでも決まらなかった場合はくじによって二クラスに減らすこととします。

 あとは二年三組のクレープ屋ですが……これは喫茶店とは違うという趣旨でよろしいのですね」

「はい。予定ではクレープを売るだけで、飲食スペースは設けないつもりです」

 二年三組のクラス委員が答える。

「……ならまあ決定でいいでしょう。あとは一年生の調べ学習のテーマについてですが、それぞれ『宇宙について』『結上市の歴史』『ノーベル賞をとった偉人』と被っていないので決定とします。

 これでクラスの出し物について審議は終わりますが、何か質問のある方は?」

 毬谷がクラス委員を見回して言った。

「無いようなので、次に移ります。それでは次は部活動毎の出し物についてですが……」

 毬谷が部活動の代表が集まっている方を向く。


 ちなみに彰たち一年生の出し物は調べ学習の発表と決まっている。

 文化祭といえば華やかなイメージばかりが思い浮かぶが、一応は日ごろの学習成果の発表の場である。なので斉明高校では一年生が建前として調べ学習をすることになっていた。

 一年生が入学してまだ二ヶ月ほどしか経っておらず、クラス全体でまとまって何かするのが難しいだろうという考えもあるようだ。

 彰の一年二組は『結上(ゆいがみ)市の歴史』を調べ学習する予定であった。



 生徒会長ともなると手際がいいな。

 彰はクラスの調べ学習のテーマが他のクラスと被らなかったので、自分の役目は終わったとばかりに会議を他人事の様に眺めていた。

 この会議はGW前にも行われたのだが、そのときは生徒会長の毬谷が体調不良で休みだったため生徒会の役員の一人が議長となったのだが、各々が好き勝手に主張しそれに大声で反論したりと収拾がつかなくなった。

 その点毬谷が議長だと皆も場をわきまえるというのか、騒ぎ出す生徒はいない。そういう気にさせない真面目な雰囲気を毬谷は発している。

 毬谷の整った容姿もあいまって彰のイメージ的に言うと、毬谷は政治が得意な高貴なお姫様って感じだ。


 しかしこれからどうなるか、彰は毬谷の方を盗み見る。

 前の会議もクラスの出し物の話題の時は荒れなかった。クラスごとにするのだから場所も決まっているからであり、各クラスの出し物が被っていないかを確認するくらいだからだ。

 本当に大変なのはこれからの部活動ごとの出し物についてだ。運動場はどこの部活がどれほど使うのか。体育館のステージも音楽部や演劇部など使いたいところはたくさんあるし、本番だけではなく練習時間の割り振りだってある。

 前回はここでお互いの部活が主張しあった。どの部活も自分たちの理想があるのだからそれに折り合いをつけていかないといけない。

 それだけの手腕が生徒会長には備わっているのか……?



 毬谷が手元の資料を参考に話し始めた。


「まず野球部の『うちのエースと勝負! 君はこの豪速球が打てるか!』の企画ですが、内容に関してはバッターとして参加する客の安全についてをよく考えてないようですのでそこを気をつけてください。例えばヘルメットを貸し出すなどの手配をするように。

 後は場所ですが、運動場はサッカー部と陸上部も使うためどれほどの場所を使うのかはまた追って話をします」


「テニス部のたこ焼き販売についてですが、保健所に届け出を出していないのでそれを早く済ませるようにしてください。

 場所は校舎入り口前を予定しているようですが、同じ場所を希望している部活が四つほどあるのでこれに関してはくじで決めます」


「軽音部のライブについてですが、これは音楽系の部活そして演劇部全体に言いますが当日のタイムテーブルとそれまでの練習時間の割り振りは難航すると思いますので、明日該当する部活だけで集まり決めることにします」



「そして…………」

 毬谷はテキパキと会議を進めていく。

 会議という形ではあるが毬谷の言い方はほぼ断定口調であり、事前に対応については考えてあったようだ。

 毬谷の対応が的確なため、各部活の代表も特に反論することなく議会はスムーズに進んでいく。

「これならすぐに終わりそうだな」

 毬谷の手際に感心しながら、彰はつぶやいたのだが。



 文芸部の企画について話が及んだ時それは起こった。




「文芸部の企画ですが不成立とさせてもらいます」

 毬谷がピシャリと言い放つと会場には少しざわめきがおきた。

「……えっ? な、何でですか?」

 文芸部の部長らしき女子生徒が驚いて聞き直す。

 今まで全部の企画が通っていただけに、彰もそれは同じ気持ちだった。


「まずは今年成立した絵画同好会の企画が美術部の企画場所と被ったからです。場所はひとつの教室ですが、さまざまな企画があるため校内にはもう空きスペースがありません。企画からして同好会と一緒に教室を使うというのも無理そうでしたので不成立となりました」

「………………」

 場所の一致。そして空きスペースの不足。

 部外者である彰はあまり実情を知らないから、そういう問題があるのだと思うことにしたが。

 では何故同好会ではなく、文芸部のほうが不成立となったのか?


 彰の疑問を見透かしたわけではないだろうが、毬谷は言葉を続けた。

「なぜ同好会ではなく、文芸部の方が不成立となったのかについてですが…………すいませんが部長さん。このところあなたは部の活動報告を生徒会の方に提出していませんよね」

「………………あっ。その、それは」

 気の弱そうな文芸部の部長がしどろもどろになる。

「対して同好会の方はきちんと活動報告を出しております。……前例にもこういうときに活動の実態の悪いほうが不成立になったという記述が見受けられますのでそれを参考にしました」

「…………で、でも」

 文芸部の部長も反論を必死に探すが、気の弱そうな彼女は現在会議室中の注目を集めていることで頭が真っ白になってしまっているのだろう。言葉が続かない。


「いくらなんでも企画の不成立はやりすぎじゃないか?」

 彰は小さな声でつぶやく。

 会議室を見回すと大半の生徒が彰同様にどうにかならないのか、という顔になっているように見られた。

 一年に一回の文化祭なんだし、どんな事情があったのか知らないが活動報告を出していないくらいで企画が通らないということがあっていいのか、とも思っているのだろう。



 しかし誰もそれを口にしない。

 その理由には、前例まで出した毬谷の言い分が概ね正しいということもあるが。


 一番の理由は自分には関係ないからであろう。


 ここで文芸部が出し物をできないのは確かに納得がいかないが、しかし企画が通っている自分たちには関係ないという思いがあるのだろう。

 現代の若者に多い『事なかれ主義』。それが如実に現れている結果であった。




 彰はそこまで分析したところで考えてみた。

 文芸部の企画が不成立になりそうになっている。自分はどう思っているのか?

「………………」

 ここが社会ならともかく、自分たちはまだ学生だ。確かに文芸部にも責任はあるだろうが、何とか許すことはできないのか……。

 けど、他の先輩たちと同じように自分とは関係ないことだし、気にするだけ無駄なのか…………。

 結局、彰は。


「…………そうだな。……はあ、しょうがないか」


 ため息をついた。

 が、それは文芸部についてぐるぐると悩んだ結果、企画不成立は妥当だと思ったからではない。



「それでは文芸部の企画は不成立ということで」

「ちょっと質問いいですか」

 毬谷がまとめにかかったのを遮って、彰は手を上げて立ち上がる。



 彰がため息をついたのは。


「何で文芸部の企画が不成立なんですか?」


 生徒会長の毬谷と正面から戦うことを決めて、その途方も無さからついてしまったものであった。



 さて、敵は厄介だぞ。彰は自分を鼓舞する。

 毬谷が質問者である彰の方を向く。


 その二人の中空で視線が交錯した。

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