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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
三章 日本、能力者会談
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七十三話「会談四日目 帰宅準備」

 試合から一夜過ぎて、能力者会談四日目。


 四日目の本日は特にすることも無く(今までも無かったが)、能力者たちは荷物をまとめて馴染みの友との別れを惜しみつつ各々が帰宅の途につくことになっていた。




「とうとう今日でお別れか」

 荷物をまとめた彰は旅館のロビーのソファに座っていた。どうやら女は帰り仕度にも時間がかかるらしく、一緒に家に帰る恵梨を待っている状況だ。

「そうやな」

 同意する火野も同じく、両親と妹の理子を待っている。

「君たちとはやっぱり話が合うから名残惜しいな」

 雷沢は二人と違って、誰も待っていない。両親もこの能力者会談に来ているようだが、大学生の雷沢は現在一人暮らしのようで実家ではなくそちらの方に帰るということだから、両親は一足先に帰ったようだった。

 なので今すぐに帰っても良かったのだが、帰る前に二人と話をしておきたかったようだ。


 ロビーには今度会うのが来年になる大人の能力者たちが別れ難いのか雑談をしている姿がちらほら見られる。

 彼らは家に帰ってゴールデンウィークが終われば、また会社勤めなどの日常に戻る。友たちと馬鹿騒ぎする能力者会談という非日常が、名残惜しいという気持ちもあるのだろう。


「次に会うのはいつになるんだろうな? ……おまえとはまだ決着もつけていないというのに」

 火野の方を見ながら彰がつぶやく。

「さあな。最低でも来年の能力者会談では顔を合わすだろうやけど…………考えてみれば俺らは能力者関連でしか接点が無いよな」

 火野と彰は同じ高校生だが、二人が住んでいる場所は遠く、となれば当然高校も違う。

 高校生ということで時間、移動能力ともにそこまで有していない二人がまた会うのはかなりのエネルギーか、きっかけが必要であった。




 そこに雷沢がきっかけを与えてくれた。

「……そういえば、風野藤一郎氏が彰くんには迷惑をかけたからということで、夏休みにでもこの旅館に来ないかと言っていたぞ。

 この旅館は海に近いから海水浴も出来るらしいし、夏祭りも開催されるそうだ」

「ほう」

 さすが金持ち。太っ腹だな。

「僕や火野君もぜひ来てくれと言っていた」

「いい話やないか」

 どうやら結婚話とは関わりも無い火野や雷沢も誘われているらしい。


 ということは。

「今度の夏休みにでも」

「再戦するしかないやな!」

 大声を上げてこぶしを打ち付けあう彰と火野。ロビーにいた他の大人の能力者たちが、何事かと注目してくるが無視する。

「何もこんなところで……ほんと息ピッタリだな二人とも」

 そんな二人とは他人だと思われるように二人から少し距離を開け、苦笑しながら雷沢はそれを眺めていた。




「待たせてごめんね、お兄ちゃん」

 その後、三人で昨日の試合について話し合ったりしていると理子がその場に現れた。

「お兄ちゃん、もうお母さんたちも準備できているよ。早く車のところに行こ」

「おっ、そうか」

 妹の方を振り返って返事をした火野。

 火野自身は遅れて一人で電車を使いこの能力者会談にやってきたが、他の火野家は自家用車でこの能力者会談に来ているようだった

「つうことで、俺は一足先に帰らせてもらうぜ」

「ああ、また夏休みな」

 さっきこぶしを打ちつけた熱さとは打って変わって、軽く別れの挨拶をする二人。

 じゃあな、と言って火野と妹の理子は去って行った。



「あー! タッくん見つけた!」

 火野を見送った後、聞こえてきた声の主は光崎純であった。

「どうしたんだ?」

「ねえ、途中まで一緒に帰ろうよ。家の方向も一緒なんだし」

「…………まあ、構わないが」

 雷沢は

「ほんと!?」

 光崎が顔を輝かせる。感情表現が豊かな人である。

「ということで、彰くん。僕ももう行くよ」

「ああ、また夏休みな」

 火野と同じように再会を約束して別れの挨拶とする。

「ねえ、夏休みって何なの?」

 光崎が雷沢に聞きながら、二人の背中は遠ざかっていった。




「さて、恵梨はまだか?」

 二人が立て続けに帰っていったので一人となる彰。

 さっきまで人がいたロビーも、少しずつだが人を減らしてきている。


「……すいません遅れました、彰さん」

 だが、折りしもロビーに大荷物を持った恵梨が入ってきた。


「おお、来たか」

「はい。ちょっと荷物を詰めるのに時間がかかってしまって……」

「まあいいさ。……よし、じゃあ帰るぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 早急な彰を恵梨が引き止める。


「何だ?」

「まだ藤一郎さんに挨拶していませんよ」

「……それぐらい良いだろ」

「駄目です。藤一郎さんのご厚意でこの旅館に泊めさせてもらったんですから礼をいうべきです。

 それに彰さんは昨日試合の後、彩香と話をしていないでしょう」

「……それは」

 彰は昨日の試合の最後、彩香に竹刀で攻撃されて気を失った。少し時間が経った後意識は覚醒したのだが、その後はずっと彩香を避けて過ごしている。

 というのも、結婚話が嘘だったということで彩香を怒らしているからだ。

 だから、会わずに家に帰りたかったのだがそうは問屋が卸してくれないらしい。


「行きますよ」

「ちょ、ちょっと待て」

 昨日彩香に盛大にやられて本調子ではない彰。

 そのため、恵梨に腕をとられて連れて行かれるのに彰は抵抗もできなかった。




「また来年だな、洋平」

「次こそは勝ちますからね、藤一郎」

 恵梨に連れてかれたロビーの一角には風野藤一郎と彩香、中田洋平と昭代がいた。四人は別れの前の雑談中のようだった。

「……お! 彰くんじゃないか」

 そして、目ざとく二人を一番最初に見つけたのは風野藤一郎。

「君たちもこれから帰るところだろう」

「はい。この度はお世話になりま……し、た?」

 恵梨が泊めてくれた礼を言おうとしたが、尻すぼみに消えてしまう。

 というのも、振り返った風野藤一郎の顔に異常があったからだった。

「ど、どうしたんですか、その顔?」

「ものすごい腫れてるな」

 恵梨の疑問に続き、彰も指摘する。

 というのも風野藤一郎の頬が腫れていたからだった。


「……昨日娘に偽結婚話の説明を求められてね。全部聞いた彩香が私の顔をはたいたという訳だ。……手加減無しに」

「お父さんが騙したのがいけないんでしょ」

 彩香が自分が悪者にされたことを不満に思う。

「その片棒を担いだ、そこの男もね」

 彰に詰め寄ってくる彩香。

「しかるべき謝罪を要求するわ」

「……おいおい」

 神様、俺は何か悪いことをしましたか?と嘆く彰。


「あっ、そうそう恵梨ちゃん」

「どうしましたか?」

 この事態を和らげてくれそうな恵梨も中田昭代に呼ばれて離脱する始末。



 ということで彰は一人で彩香と対峙するのであった。

「ああえと、その…………あの話は風野藤一郎が提案して俺はそれに乗っかっただけ……というわけには行かないもんな。俺もやっぱりおまえを騙していたんだし。

 ……すまなかった」

 騙して悪かったという気持ちもあるのか、彰は素直に謝る。

「……それはもういいわ。一応昨日の試合の最後であなたは謝ってくれたもんね」

 どうやら許してくれるらしい。彰は安堵する。


 だが、それで話は終わりではないようだ。


 彩香が顔を少し赤くして聞いてくる。

「……ねえ」

「何だ?」


「もし、……もしもの話よ。………………あの結婚の話が本当だったなら、あなたはどうしたの?」


 彩香は顔を逸らした。恥ずかしさのあまり、彰の顔を正面から見れないからだ。

 少女が勇気を出して紡いだ言葉は。


「え? ……あの話が本当ならおまえの勝ちだから何も起こらなかっただろう」


 少年の無神経により破壊される。


「………………」

「だってあの話は俺が勝ったら結婚だっただろ。結局おまえが試合に勝ったんだから何も起こらないじゃないか」

「………………ああ、もう。そういうことが聞きたいんじゃなくて」

 少女がやきもきしてブツブツとつぶやくが、鈍感な少年にはそんな迂遠な話では何も伝わらないのだ。


 だから彩香は直接的な手段で迫ることにした。

「な、なら! あなたは私との試合に負けたんだから罰ゲームを受けなさい!」

「え?」

「あなたが勝ったら結婚、私が勝ったら何もなしでは不公平よ!」

「でも、そんな話していなかっただろ」

「ええ、今決めたわ!」

「…………横暴だろ」

 またも嘆く彰は無視される。


 そして、彩香が罰ゲームの内容を発表した。


「あ、あなたの……け、携帯のアドレスを教えなさい!」


「…………そんなのでいいのか?」

「当然それでは終わらないわ。……何通も呪いのメールを送ってやるんだから」

「……まあ、それぐらいならいいけど」

 呪いのメールなど気にしなければ肉体的には被害はゼロなので彰は了承する。


「ほら、まず私からアドレス送るから」

「……? おまえがメールを送るだけなら、おまえのアドレスを俺は必要ないだろ」

「何を言っているのよ! ちゃんと返信しなさいよ!」

「……呪いのメールに返信するのか?」

 彰の疑問は無視される。

 ただ彰が気になったのは、罰ゲームを行うだけだというのに自分のアドレスをもらった時彩香がかなり喜んでいるように見えたことだった。

「……あ、ありがとね!」

「どういたしまして……?」

「どんどんメールを送るから!」

 笑顔で言う彩香を見て「呪いのメールを送られまくるのか……」と彰は憂鬱になった。





「わが娘ながら初々しい」

 それを離れた場所で見守る父。

「まあ彩香は色恋沙汰なんて初経験だろうし、しょうがない面もあるか。……なあ、洋平」

 洋平の妻昭代と水谷恵梨は二人で話しているので、残る中田洋平に同意を求める風野藤一郎。

「彰くんもかわいそうですね。呪いのメールを送られまくるなんて」

「………………そうか。ここにも鈍感はいたようだ」

 態度を見れば彩香の真意などすぐに分かるはずだし、そしてなによりわざわざ呪いのメールを送るために相手にアドレスを聞くことなんてあるはず無いのに、言葉を額面どおりに受け取る。

 ……どうやら彰くんもそんな人種らしいが、ここにも一人いたな。

「はあ。おまえと昭代をくっつけるのは本当に苦労した」

「何故今その話になるのですか、藤一郎」

 自分が仲人として中田洋平と昭代をくっつけた経緯を思い出してため息をつく風野藤一郎だった。


 そしてもう一回彰と彩香の方を見る風野藤一郎。

 彩香は楽しそうに彰と雑談している。

「どうやら私の願いも達成されそうだな」

 それを見て風野藤一郎は確信を得る。

「藤一郎の願い? ……それって風の錬金術を遺伝させるというやつですか?」

「ああそれだ。……それには風の錬金術者同士――つまり彩香と彰君を結婚させるしかないのだが…………そのためなら何だってやって見せるさ」

 その一つ目が夏休みに彰をこの旅館に呼ぶことであった。

 当然彩香もそのときここにつれてくる予定である。そして二人で共に夏祭りの夜を過ごしたり、海水浴をしたりすれば…………。

「フフフフフ」

 それに祭りで上手く行かなかったとしても次の策がある。

「藤一郎、人の悪い笑みを浮かべるな」

「おおっと失礼」

 知らぬ間に笑みがこぼれていたか、と風野藤一郎が表情を引き締める。


 風の錬金術者は彩香の代で終わり。

 そう思っていたのだが、彰くんが風の錬金術者だと分かって状況は変わった。

 自分の願いを叶えるため降って湧いたようなこのチャンス。

「生かさせてもらうぞ」




 一時経って、彰と恵梨は一緒に旅館を出た。

 そして最寄りの駅まで歩いて電車に乗る。

 疲れがどっと出てきた彰は座席で眠りこけ、恵梨はその寝顔を眺める。


 このようにして、能力者会談は幕を閉じた。

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