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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
三章 日本、能力者会談
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六十三話「会談二日目 温泉、男湯」

「……それで俺と試合ができなくなったという訳やな」

「ああ、色々成り行きがあって彩香と試合することになってな。全力を出さないといけない以上、俺が一日に二戦するわけには行かないと言われたんだ」

 彰は温泉につかり疲れを癒しながら、同じく温泉に入っている火野と会話をしていた。



 時刻は夕方。彩香と彰の偽結婚話の後、風野藤一郎に騒動を起こした理由、そして彩香の過去話を聞いて場はお開きとなっている。

 能力者会談が行われている旅館には当然のごとく温泉もあった。昔からこの地にある火山性の温泉のようで効能について色々書かれていたが、高校生の彰にとってそんなのはどうでもよかったので覚えていない。

 男湯の露天風呂は三方を旅館の建物、植物の生い茂った垣根、女湯との仕切りに囲まれている。そして最後の一方には何もなく、旅館が少し高い位置にあるのか町を見下ろすことができ、遠くには海が見えるという絶景が広がっていた。


 そんな露天風呂には彰と、妹とのデート(?)から帰って来た火野と、光崎とのデートから帰って来た雷沢がいた。



「しかし君は本当に戦いが絶えないな」

 彩香と試合をすると聞いた雷沢が呆れたようなセリフを言った。しかし、目は輝いており「能力者同士の戦いだと……。面白そうだな」と思っているのだろう。中二病だし。

「俺だって好き好んで戦って…………いるな。あれ?」

 そういえば火野との戦いは俺のケンカ早さが原因の一つでもあったか。

「けど、そのせいで俺が彰と戦えないんやで。あんまりやろ」

 火野が不満たっぷりの口調で言った。

 彩香と彰の試合が決まった結果、火野と彰がする予定だった試合は流れている。理由は彰が彩香との試合に全力を出すためであった。


 雷沢が火野を咎めるように言った。

「火野はこの前彰と戦って負けたんだろう?」

「それは二対一やったからや」

「そんなのどうでも良い。……とにかくセオリーからすると、負けた敵キャラが特に理由もなくすぐに主人公と再戦なんてできるわけないだろ」

「…………それは何のセオリーや?」

 火野がキョトンとする。

「マンガ、アニメ、ライトノベル、など古今東西ありとあらゆる創作物に当てはまるセオリーだ」

「……現実世界のセオリーだと、ケンカに負けた次の日に復讐なんて当たり前やけどな」

「全く。お約束を守らないから現実世界は駄目なんだ」

 雷沢が今度は心底呆れていた。

 雷沢の言った中の主人公というのは彰のことだ。特異な存在こそ主人公であると雷沢は定義しているようで、特異な能力者である彰を主人公と見ているらしい。


 雷沢が気になった事ができたのか彰に話しかける。

「それより、彰くんは風野に勝つ自信があるのか?」

「…………そう聞くって事は、つまり俺が負ける可能性があるって事か?」

 彰が憮然(ぶぜん)としながら聞き返す。

 明日の試合は男と女の勝負だ。当然、彰と彩香には絶対的な腕力の差がある。加えて彰はケンカの経験が豊富にあるし、風野藤一郎との頼みによって彰は全力を出すと決めている以上負ける気がしなかった。

「負けるわけないだろ」

 彰の言葉に雷沢が挑発的な笑みを浮かべる。

「……果たしてそう上手く行くかな?」


 火野も話に加わってくる。

「そうやな。冗談抜きで風野は強いぞ。……ほら、自己紹介のとき得意なことが剣道って言ってたやろ。はっきり言って得意なこと、っていうレベルやないからな」

「……どれくらいなんだ?」

「県大会程度なら優勝するレベルやで」

「………………それは」

 彰が言葉をなくす。

 しかし、同時に腑に落ちたことがあった。確かに彩香にそれほどの剣の腕があるなら、彰に対して強気に出たのも納得がいく。

 火野がお湯の中で伸びをしながら言った。

「実はな、俺も去年の能力者会談で彩香と試合したんや」

「そうだったのか。……それで、どうだったんだ?」

「結果は惜しくも負けや。……そんな驚いた顔をするな、彰。おまえは男と女で腕力の差があるから彩香なんて楽勝で勝てると思っているかもしれないけど、あいつはそれを能力の使い方で埋めてくるからな」

「能力の使い方? ……どういう意味だ?」


 彰が聞き返したそのタイミングで雷沢が話に割り込んできた。

「火野。そこまでにしておけ。……彰くんだけが相手の情報を知っているなんて不公平だろ」

「………………」

 せっかく敵の情報をもらえると思ったときに、真面目に邪魔した雷沢をジトーと彰は見る。


「……雷沢、本当はどう思っているんだ?」

「戦いの中で相手の能力を分析をするのが能力モノの基本だ。先に話されたら面白くない」

「……安定した中二病だな」

「褒め言葉と受け取っておこう」

 雷沢が満更でもないという表情なので、本当に皮肉として受け取ってもらえなかったようだった。



「しかし、おまえは去年彩香に負けていたのか」

 ということで新たな情報を持った彰は、恒例の火野いじりを開始した。

「そ、それはやな」

「女に負ける男なんてカッコ悪いな」

 大仰に首を振りながら、ハアとため息をつく彰に、火野は軽くキレた。

「っ! い、一年前の俺と今の俺を一緒にするなよ!?」

「……ほう。どう違うんだ?」

「……去年敗戦のショックから俺は努力して炎の錬金術の応用『念動力(サイコキネシス)』を身につけたんやからな!! 今なら彩香と戦えば絶対勝てるわ!!」

 火野がほえた。

 本来炎の錬金術は炎を操るものだが、炎の錬金術の応用『念動力』とは火=エネルギーということで移動エネルギーを操って、自分の領域内にいる敵を高速で移動させて物にぶつける技だった。本人曰く、普通に能力を使わないのでかなり魔力を消費するらしい。

 最近火野が身につけた技だから、恵梨が『念動力(サイコキネシス)』について知らなかったのかと認識を新たにする彰。


 そこまで思い出して、彰は疑問を持った。

「なあ、火野。おまえバカなのに、よく能力のそんな使い方を思いついたな」

「そ、それは――」

「僕がヒントを出したからだ」

 言いよどんだ火野に変わって雷沢がスラスラと答える。

「能力というのは工夫して使うのが能力モノの基本だ。僕はそういうのを考えるのが好きで、自分の能力だけでなく、他人の能力の使い方も考えていることがある。

 炎の錬金術についてはエネルギーをそのままで使うことが出来るのか、と考えていた事もあったから試しに助言したのだが……上手く行ったのか、火野?」

「成功したで。まあ、変わりに魔力を使いすぎるけどな」

 少し得意気に言った火野。だが、雷沢の次の言葉は火野の心をへし折った。


「その力があったのに彰くんには負けたのか?」


「そ、それは二対一やったからで……い、一対一なら勝つはずや!! 事実、一対一なら勝ったからな!!」

「それは聞き捨てならないな」

 火野があわてて負けず嫌いの言葉を言えば、彰が反応するのは当然の成り行き。

「俺だって今ならおまえに勝てると言っただろう」

「水谷と二人がかりで突破した『念動力(サイコキネシス)』を一人でどうするつもりなんや?」

 彰は口の端をニッと上げた。

「…………今見せてやろうか?」

「! ……そうやな。俺は別に試合の場でなくてもケンカすることが出来るっていう基本的な事を忘れてたな」

「俺も忘れていた。……さて、現在一勝一敗。決着をつけるとするか」

「そうやな」

 ケンカ早い二人が坂道を転がり落ちるように一触即発のムードとなった。

 彰は露天風呂でくつろいでいた体勢から立ち上がり、火野も体勢を整える。両者が向かい合う形になるが、場所が露天風呂であるのと二人とも裸なせいで緊迫感が全く感じられなかったが。



 ということで、あっと言う間に傍観者となった雷沢。

「はあ……」

 自分が関与する隙もないくらい鮮やかにケンカに入る辺り、二人は本当は仲が良いのではないかと思いつつ。

 自分の信念、一度負けた敵が特に理由もなくすぐに主人公と再戦するのはおかしい、というのに乗っ取って。

 雷沢は二人のケンカを止めに入る。




 自らの能力『電気(エレクトリック)』を使うことによって。




「ぎゃああああああああああああああ!!!」

「ぐはっ! しーーーびーーーれーーーるーーー!!!」


 温泉に電気を流したので、当然温泉にいる人物は感電する。つまり、彰と火野の絶叫が露天風呂に木霊した。(雷沢も温泉に入っているのだが、そこは電気を扱う能力者なので無事のようだ)




「ふう」

「「…………………………」」

 雷沢が能力の行使を止めると二つの悲鳴も止んだ。そのとき露天風呂の仕切りの向こうから声が聞こえてきた。

「タッくん、何があったのーー?」

 仕切りの向こうは女性用の露天風呂だ。二人の悲鳴が聞こえて気になった光崎が仕切り越しに大声で雷沢に呼びかけた。

「何でもない。バカ二人をちょっと懲らしめただけだ」

 雷沢も大声で返した。



 雷沢の目の前では、電撃により気を失った風の錬金術者(アルケミスト)と炎の錬金術者(アルケミスト)がただ温泉に浮かぶだけだった。

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