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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
三章 日本、能力者会談
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六十話「会談二日目 会談2」

「能力者がいつ現れたかだって…………?」

 彰は思いもよらなかった質問にポカンとしてしまう。

 風野藤一郎が説明を追加した。

「この世に能力者がいる以上、歴史上どこかで能力者が現れたタイミングがあるはずだろう。

 ……事実、ある時期に全世界一斉に能力者はこの世界に現れたんだ」

「…………そして能力は遺伝する物だから、そこから今まで能力が受け継がれてきたと」

「そういうことだ」

 風野藤一郎はうなずいた。


 ――能力者が現れたタイミングか……。

 彰が「そんなの分かるはずがないだろう」と言えば風野藤一郎から正解を教えてもらえるのだろうが、負けず嫌いの彰はその手段を選びたくない。

 なので彰は次善の策を取った。

「ヒントをもらえるか?」

「…………ヒント? ヒントか…………。そうだな。日本の能力者がなぜ人前で能力を使わないように教えられてきたのか、というのでどうだ?」

「………………OK」

 彰は再度考え始める。

 日本の能力者、と限定したのは外国は違うということだろう。……確かに人前で能力を使おうとするやつがいないのならば、異能力者隠蔽機関の仕事なんて必要ないからな。

 そして日本の能力者が自らの能力を隠した理由。

 ……………………。


「………………そうだな」

 発想を転換する。

 逆に考えると、能力者はいつの時代に現れたら能力を隠して生活しようとするか。


 例えばもし縄文時代とかの古代に能力者が現れていたら。…………その能力は神の所業だと思われただろうし、能力を隠す必要もない。それは中世もほとんど同じだろう。

 鎌倉から戦国時代にかけても、もし能力者がいたら、能力を使って戦績を上げた者がいただろう。そんな人物の話など聞いたことがない。


 だから、能力を隠して生活しようと思うのは近世。つまり江戸時代あたりからじゃないか。ある程度平和になった世界で、みんなと違うのを恐れる日本らしい思考が定着したその辺りではないか?



 彰は結論を言った。

「もしかして能力者がこの世に現れたのは江戸時代ぐらいなのか?」

「! …………驚いたな。まさか正解するとは」

 風野藤一郎は目を見張った。

「彰くんの言ったとおり日本で言うと江戸時代の……そう、正確に言うと江戸時代の終期で今から二、三百年前のことだ。その頃、全世界に能力者は現れたんだ。……ちょっとした証拠を見せよう。ちょっと待っててくれ」



 風野藤一郎が話を中断して部屋を出て行った。その証拠とやらを取りに行ったのだろう。

 証拠って何なんだ? と彰が推測を始めたところで、横から恵梨が賞賛してきた。

「彰さん、よく分かりましたね」

「さっきの問題か? ……あれはヒントのおかげだな」

 彰が表面上は謙遜(けんそん)した。本当は自慢したいほど得意気であった。

「いや、でもあんなヒントだけでよく分かりましたね」

「…………まあな。俺は天才だからな。ハッハッハ」

 自慢した。



 そのとき日本の能力者集団において副長である中田洋平(なかたようへい)が彰に提案した。

「藤一郎が部屋に戻っている間の時間も無駄ですし、せっかくだから私からも話をしましょうか」

「……よろしく頼む」

「はい。…………確か彰くんは能力者についての話を知りたいんでしたよね。では、彰くんは能力者について何を知っているのですか? それが分からないと何を説明したら言いのか分からないので」

 洋平の指摘は的を得ていた。

 なので彰は自分の知っていることを一つ一つあげていく。

「俺が知っているのは能力は遺伝するということ。能力の発動には人間が本来持っていると言われる魔力を使うということ。能力者は家系になるのでそれに属していない俺は異端だということ。日本の能力者は能力が無くても生きていけるほど平和だということ。…………こんなところか」

「そうですか。ふむ…………」



 中田洋平は少し考え込んでから言った。

「では、能力を遺伝する条件については知らないのですね」



「条件?」

「その反応からすると当たっていたようですね。……そうです。能力が遺伝するには条件があるのです。

 ……おかしいとは思いませんでしたか? 日本には大人の能力者が三十人強はいますが、しかし子供はたった七人しかいません」

 彰が今一度考えると、確かに人数比がおかしい。

「…………そのことに条件とやらが関わってくるのか?」


「そうです。

 その条件とは、同じ能力を持った能力者同士が子供を作らないと遺伝されないということです」


「………………」

 そうだったのか……! ………………けど、

「それの何が子供の能力者が少ないことに関係するんだ?」



 中田洋平は嫌な顔一つもせずに、一から説明してくれた。

「結論から先に言いますと、同じ能力者同士で子供を作るということはつまり近親婚になりやすいと言うことです」

「近親婚って血のつながっている二人が結婚するってやつか? …………能力が遺伝する物で、同じ能力者同士ってことは血がつながっている可能性のほうが多いかもな」 

 彰が理解を示すと、中田洋平はうなずいて続けた。

「そうです。藤一郎が能力者はこの世に現れて二、三百年しか経っていないって説明してくれましね。しかし二、三百年では人間と言うのはそこまで繁栄しません。つまり同じ能力の家系というのが二つ三つとできることは少なかったのです。

 つまり能力を遺伝させようとすると実の姉や妹と近親婚しないといけなかったと言うケースになりがちで、恋愛婚が増えている現代、それを拒否した結果日本の能力者が少なくなってきたといわれています。


 かくいう私もその一人です」


 洋平がそう言ったので、彰は驚きの声をあげた。

「えっ? ……でも、洋平さんは昭代と結婚しているじゃないか?」

 ――能力者会談に来ている以上、二人とも能力者だろ。

 それには、妻である昭代(あきよ)が答えた。

「違うって言ったのは結婚の部分じゃなくて、同じ能力者同士ってところよ。……夫の能力は『身体強化(しんたいきょうか)』。対して私の能力は『読心(どくしん)』だから。

 あと、姓が同じなのは結婚したからよ。私の旧姓は月代(つくよみ)なの。

 ……私たちはこの能力者会談の場で知り合って仲良くなり結婚まで至った。……君に分かりやすい例で言えば、今の雷沢と光崎の二人みたいな関係になって、そのまま結婚したって感じよ」

 知っている二人が出できたので、彰はそちらに興味が引かれた。

「あ、やっぱりあの二人がそんな関係だって思いますか?」

「当然。…………早くくっつけばいいんだけど、あの二人は。GWの度にそうなることを心待ちにしているわ」

「でも、いかんせん雷沢の方が鈍感ですからね」

「……でも、あと二、三年のうちにはくっつくんじゃないかしら」


 ゴシップと言うのは盛り上がる物で、昭代と彰の会話が弾んでいるところに洋平が割り込んできた。

「二人とも、話がずれていないか?」

「……あら」

 昭代がまあ大変、と口に手を当てる。

「ああ、そうでした」彰もうっかりしていた。「……ということは二人は違う能力者同士で結婚したんだから、子供には能力が遺伝されていない、ということですか?」

 彰の確認に洋平が答えた。

「その通り。……私たちには息子がいるんだが、能力者で無い以上ここには連れてこられない。だから母の家に預かってもらっているよ」

「でもお義母さん、孫が来て嬉しそうだったじゃない」

 昭代も口を挟んだ。




 洋平が話のまとめに自分の状況の独白を始めた。

「そうだな。…………私には姉がいる。この能力者会談にも来ていて、能力も同じく身体強化だ。

 私は姉と結婚すれば能力を遺伝させることができたのだろう。しかし、私はそれをしなかった。……残念ながら身体強化の能力を受け継いだ子供はいないから、身体強化の能力は私の代で終わりだ。

 でも、しょうがない。……私は昭代を愛しているからね」

「あなた……」

「昭代……」

 ドラマのワンシーンのように見つめあう二人。


「「「………………」」」

 ――ここでそんな事されてもな。

 熱烈なまなざしをあびせあっている二人。その場にいる彰、恵梨、そして彩香にとってとても気まずい状況だ。 


 雰囲気に耐えかねたのか、気を紛らわすために恵梨が彰に小さく耳打ちしてきた。

「ちなみにですけど、雷沢さんが二人の能力につけた名前は『身体強化(しんたいきょうか)』は『身体強化(フィジカルアップ)』。『読心(どくしん)』は『精神解読(マインドリード)』です」

「……名前付けるの上手いな」

 さすが中二病、彰は感心した。




 会話をしたものの、中田夫妻は二人の世界に入ったまま帰ってこない。

 どうしようもなくなった彰たちを救ったのは、襖が開く音だった。

「遅くなってすまない。ちょっと探すのに手間取ってな」

 風野藤一郎が小さな本のような物を手に取って入ってきたのだ。

 助かった、と三人が共に思った。



 洋平が妻から視線を外して、風野藤一郎の方を向いた。

「……それで何を持ってきたんだ?」

「ああ、能力者がいつ現れたのかという証拠を見せると言っただろう。……これは風野家の家系図だ」

 風野藤一郎は手に持った本を軽く叩いて言った。

「家系図?」

 彰が首をかしげる。

「大丈夫。見れば分かる」

 風野藤一郎は自信たっぷりにうなずいて、彰にその本を渡した。


 彰は言われたとおり本を開いてみると中から小さな紙が落ちた。

 それに気にせず読むと、タイトルは『風野家家系図』で、中にはあみだくじみたいな家系図がかかれているページがあった。

 一番下は、風野彩香。その上に風野藤一郎とその妻の名前。そのまた上に……と続いている。

 風野藤一郎から四つ上、つまり高祖父母まで書かれていた。



 彰の横から、彩香と恵梨が本を覗いてきた。

「へえ。私の家ってこんなものがあったんだ」

「彩香はこれを初めて見るの?」

「そうよ」


「…………これで何が分かるんだ?」

 会話する二人を尻目に、彰が風野藤一郎に質問する。

「見れば分かるとおり、私の高祖父母の代から風野家は始まったんだ。そして、高祖父母が生きた時代と言うのは大体二百年ほど前だ」

「……つまり、能力者が現れたと言われている年と一緒ってことか?」

「そうだ。一応、辻褄は合うだろう」


 風野藤一郎が言っていることは正しいのだろう。

 しかし、さっきは気にしていなかったことが家系図を見たことで疑問として沸いてきた。

「それなら、この高祖父母はどうやって能力を持ったんだ?」

「……痛いところをついてくるね」風野藤一郎は苦笑した。「残念ながらそれは分かっていない。分かっているのは二百年ほど前に全世界に能力者が現れたという事実だけだ」

「……何でなんだろうな?」

 彰は分からない疑問にまた当たったことで少し落胆していた。

 というのも、この能力者会談で色々な疑問が解決されることを望んでいたから。


 ……しかし、謎は解けるどころか増える一方だった。






「そういえば藤一郎、彰くんに能力を遺伝する条件の話はしておいたぞ」

「そうか。ありがとう、洋平。……ちょうどよかった」



「ん? これは何だ?」

 恵梨と彩香に家系図の本を渡した彰はその下に小さな紙が落ちているのに気づく。本を開いた時に落ちた物だった。



「何が良かったんだ?」

「いや、ちょっとな」

「?」



 折りたたまれていたので、彰は何となく気になって開いてみると、

『これからちょっと話を合わせてくれ 風野藤一郎』

 と書かれていた。




「ちょっとみんな聞いてくれ」

 その紙片について彰が問おうとする前に、風野藤一郎がその場にいる全員に呼びかけた。中田夫妻、恵梨、彩香、そして彰。計五人がそちらを見る。

「今の話に関係して、私から一つ提案があるんだ」

「……何だ、藤一郎?」

 代表して答えた洋平に、風野藤一郎は五人を見回してからそれを言った。



 突拍子の無い提案を。








「彰くん。私の娘、彩香と結婚してくれないか?」









「「「「「……は?」」」」」

続きます。

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