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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
三章 日本、能力者会談
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五十七話「会談一日目 謎は深まるばかり」

「どなたですか?」

 電話に出たのは親父だった。

 彰は今まで何回も電話しても出なかった鬱憤(うっぷん)を晴らすために怒鳴る。

「どなたかって? ……あんたの息子だよ!!」

「え? ………………あ、あ、ああ、彰か。ど、どこから電話をかけているんだ?」

 親父がものすごくキョドっている。

 …………彰の携帯や、自宅ついでに八畑家の電話は着信拒否していたんだが…………

小さな声でつぶやくのが聞こえる。

 ――よりにもよって息子からの電話を着信拒否していたのかよ!!

 そのつぶやきを聞き取って彰が憤った。

「ちょいと今出かけててな。……だから、この番号は着信拒否できていなくて当然だぜ!」

「えっ! はっ? …………ふう、そうだな。それでゴールデンウィークだからってどこにいるんだ?」

 いったんは焦っていたが落ち着いたようだ。話題を逸らすためか質問してくる親父。

 ――親父は俺の能力について何か知っているだろうし揺さぶってみるか。普通に聞いても誤魔化されるだろうし。

 実の親子なのに駆け引きをする姿がそこにはある。



「…………能力者会談に来ている。って言ったら分かるか?」

「っ! ………………能力者だと!?」

 親父が息を呑む。

 その反応に手ごたえを感じた彰はたたみかける。

「やっぱり何か知っているんだな!? この俺の能力についても!! 何でも良いから、知っていることを教えろ!! 俺がこの訳の分からない状況でどれだけ苦労したと思っている!!」

「………………そうか」

 彰の感情が(たかぶ)っているのと反対に親父が一息ついた。

「おまえが自分の能力に気づくとは思わなかった。気づく方法が無いと思っていたからな」

 親父が言っているのは、彰が自分は能力者である事を『認識』できるはずが無いという事だ。

 異能力者隠蔽機関のハミルに自分が風の錬金術師であることを教えてもらわなければ、彰は自分の能力を認識できず、一生能力を使うことができなかっただろうから。



「……なら、本当なのか。おまえが能力を使って科学技術研究会を退けたという話は」

 親父が嘆息して言ったそのセリフは彰にとって見逃すことができない。

「つまり、俺の状況を知っているんだな!? 今も、そして過去の事も!!」


 『過去』つまり彰が能力者として生まれた理由を親父は知っている。


 『今』つまり彰が科学技術研究会に襲われたことも親父は知っている。


「それなら全部俺に事情を教えろよ!!」

「………………すまんな、彰」

 大きな声を出した彰に返ってきたのは謝罪。

「今は知らないほうが良いということもある。……もしくは言えない状況があるともいうのか?」

「意味不明だ!!」

 彰は受話器を握り締めて叫ぶ。


「すまんな。……そして、もう俺には電話をするな。……実際こんなニアミスが無ければ、こんなことさえ伝える気は無かったんだから。…………ちゃんと生活費は振り込むから安心しろ」

「ふざけんなよ!! ちゃんと説明しろよ!!」

 怒鳴った彰に返ってきた音は。


 ツー、ツー、ツー、ツー。


 電話が切れた音だった。

「……………………ちっ! 切りやがったか!!」

「…………あの、大丈夫ですか?」

 怒鳴ったりして荒れている彰を心配する声を恵梨がかける。




 彰は大きくため息をつく。

「…………………………はぁ」


 ――――これだけしか情報を引き出せなかったか。


 彰は怒ってなどいない。感情を荒ただしたフリをしただけだ。

 そうすれば親父が口を滑らすと思ったが…………予想通りだな。



「大丈夫だ。そしてちょっとは分かったことが増えた」

 彰は両手を上げて自分は落ち着いているとアピール。

 電話先の親父の言葉は彰以外の能力者たちには聞こえていない。なので彰はそれを説明に入った。




「親父と話して分かったことが三つある。

 まず、予想通り親父が俺が能力者として生まれた事情を知っているということ。そして驚いたのが俺が科学技術研究会に襲われたということを知っていること。最後にそんなことを知っている親父自身なにか普通の立場の人間ではないということだな」

「そうか。何も情報が無いところからは進歩したが…………それ止まりだな。僕たちは肝心なところが分かっていない気がするぞ」

 雷沢に続いて、他も口々に感想を述べる。

「彰さんの父親は科学技術研究会の事も知っているんですか……」

「俺には難しいことは分からへんな」

「すいません。お兄ちゃんには後で私が説明しておきますので」

「……彰の父親はどう関わってくるんでしょうね?」


 そしてまた良いことを思いついたと光崎が提案する。

「それなら彰くんの父親に直接会えば良いんじゃないんですか?」

「いや無理だ。最後に親父は俺にはもう連絡するな、って言ったんだ。そんな様子じゃ会ってもくれないだろう」

 彰がすぐ却下する。

「なら、これ以上は話が発展しそうにないな。今回電話によって入った情報は、結局君の父親を問い詰めないと分からない事ばかりだ」雷沢は時計を見る。「もうこんな時間だし、今日はお開きとするか?」

 つられて彰も時計を見ると、もう随分夜に入っている。

 旅館に着いた時間が遅かったのと、自己紹介が脱線しまくったこと、オードブルバトル、彰の今までの話、と気づけば時間を消費してばかりだ。



「そうしましょうか」

「そうやな。俺も眠いし」

「私も賛成」

 恵梨、火野、理子、三人ともうなずく。

 彰も異論が無いということを伝えようとしたそのとき。



「――ちょっといいかしら?」

 風野彩香が口を開いた。



「何だ? 風野」

 雷沢が疑問を発する。

「話を少しさかのぼるけど…………私は彰の今までの話を聞いて、少し疑問に思ったところがあるのだけど聞いても良いかしら?」

 ――そんなに気になったのか?

 場の流れを無視して言うほどなのだからよっぽど気になっているのだろう。

「ああ、いいぞ」

 彰はうなずいた。



「そう。……なら遠慮なく聞かせてもらいます。

 あなたはどうやって戦うための基礎技術を学んだの?

 能力『風の錬金術』は、言うならば武器を生み出すのが基本の能力よ。それならあなたは武器を使って戦う術を持っていたと言える。……この平和な日本でそんなの一般人が持っていることは稀だわ」

「っ!」

 ――そこに気づいたのか。

 彰は彩香の頭の回転の早さに舌を巻く。

「私は剣道部に入っているから剣を使う技術はあるけど…………あなたはそうではないわよね。普通の人が、殺す覚悟で迫ってきた戦闘人形(ドール)を退けることができるとは思えないわ。私だって足がすくむと思うけど」

 つまり風野が言いたいことは、彰が関係ないと思って話していなかった「自分は昔不良だった」という事実につながっていた。



「そうだな。……物語とかだとそこら辺が曖昧だけど、これは現実だしな」

「私も戦闘人形(ドール)を止める自信も勇気も無いよ」

「そういえば彰のケンカ早さも異常やな」

「それは馬鹿なお兄ちゃんも一緒でしょ」

 他の四人も疑問に思い始めた。

「……………………」

 一人だけ事情を知っている恵梨が彰の方を見てくる。目が「どうするんですか?」と聞いている。


「それで、どうなの?」

 彩香が改めて聞いてくる。

 ――あまり言いふらしたくなかったんだけどな。疑問に思われたんだからしょうがないか。

 彰は隠すことにそこまでこだわっていなかったので、すぐに話し始めた。

「実はな、俺は昔ケンカに明け暮れる不良だったんだ。だからケンカにも慣れているし、戦いがそこまで怖くないし、戦う技術もある」

 その後彰は軽く笑って付け足した。

「でもそれは昔の話だ。……今はもう更正したつもりだ」



「そうか」

「そうなんだね」

「そうやったのか」

「うん。分かった」

 彰の簡潔な説明に、四人は納得の言葉を発してくれた。

「………………そう。…………結局あなたも同じなのね。………………いや、勝手に期待した私も悪いか」

 質問した本人、彩香だけは何やらつぶやいていたが。




 そしてその場はお開きとなった。

 皆で軽く片づけをした後、それぞれ部屋に戻る。

 風野藤一郎氏は一家族につき一部屋とってくれたらしい。つまり高野家ということで部屋が一つ、水谷家ということで部屋が一つあった。

 なので彰は旅館の温泉に入った後、広い部屋に一人で寝た。


 能力者会談一日目はこうして終わりを告げた。

次回から会談二日目。

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