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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
三章 日本、能力者会談
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五十六話「会談一日目 風野彩香」

「さて話を戻そう。…………ってこの台詞何回目だ? 話が脱線しすぎだろ」

 雷沢がセルフツッコミをしながら話し始める。

 現在彰は恵梨の説得に成功して、恵梨は暗黒面(ダークサイド)から通常の状態に戻っている。その恵梨によって火野を拷問していた理子も沈静化。

「俺は……今まで一体何を…………?」

 火野はさっきまで妹に精神崩壊させられていたが正気に戻っている。

 彰はかわいそうに思ったか、もしくは自分と似ている火野に同情したのか優しく言葉をかける。

「……おまえはがんばった。……今までのことを思い出す必要は無い。……辛いことがあっても前を向いて生きていくんだ」

「? どういう意味か分からへんけど…………そうやな。本能が思い出すなって警告している気がするし。…………まあ、前を向いて生きていれば大丈夫だよな!」

「ああ!」

 彰とこぶしを打ち付けあう火野。

 理子に能力『炎の錬金術』を使った拷問をよくされている火野は、妹に拷問される度にその記憶を忘れる。または忘れるように努力する。

 そうしないと火野はすでに心が病みきっていたかもしれない。(よく記憶をなくすから火野は馬鹿になったんじゃないか?――これは雷沢の見解である)



「そんな辛い事なんて無かったですよね」

「そうだよ。私の愛の鞭だよ」

 恵梨が彰の言葉を聞いて理子に訊ねると同意が返ってくる。

 ――この二人怖っ!!

 石抱……つまり拷問を「辛くない事」とか、「愛の鞭」だとか言う少女たちへの彰の感想である。……ちなみに、これを口に出すと彰の寿命が縮まる。



 バン!

 突然、雷沢が机を叩いた。

「さ・て。は・な・し・を・も・ど・そ・う・か」

 基本的には温厚な雷沢がキレた。

「……すまん」

「そうやな」

「すみません」

「ごめんね」

 自らの非を認めて、今まで話をしていた四人とも居住まいをただす。

「ちょっとタッくん。落ち着いて」

「ああ…………いや、大人げなかったな」

 すかさず光崎がなだめて、雷沢も落ち着く。

「…………気を取り直して、最後の自己紹介だ。風野よろしく頼む」

 そして雷沢は、今までの事態を静観していたクールな少女の方を向いた。



 その場にいる全員に注目された少女だが、視線をものともとせずに自己紹介を始める。

「さて、他の人たちと同じように私も名前から言うべきかしらね。……私の名前は風野彩香(あやか)。能力はあなたと同じで『風の錬金術』よ」

 彰はその苗字、その能力に聞き覚えがある。

風野(かざの)……風の錬金術…………。ってことは風野藤一郎氏とは――」

「ええ。私は娘よ」

 ――大企業アクイナスの社長の娘。……ってことはお嬢様なのか。

「ちなみに、得意なことは剣道だから」

「そうか」

 この言動、得意なことが剣道という辺り、彩香は箱入り娘のお嬢様というわけではないのだろう。それに頭の回転も速そうだ。

 彰がそんな感想を抱いていると、彩香は雷沢のほうを向いた。


「これで終わりよ」

「そうか。……話が脱線しなくて助かる」

 雷沢はホッと一息をついた後、場を仕切りだした。

「さて、これでお互いの自己紹介が終わったようだな」そこで雷沢は彰と恵梨の方を見る。「次は君たちの身に降りかかった出来事について聞いていいか?」


 雷沢の言う出来事とは、恵梨と彰が科学技術研究会に襲われた事だろう。

 能力者全員に恵梨が出したメールにある程度の事は書いてあったが、雷沢が今求めているのは詳細な説明ということなのだろう。


「ああ、いいぜ……ついでにこの馬鹿が襲ってきた話もしておこうか?」

 彰は了承した後、『この馬鹿』のところで火野の方を指差す。

「そっちもよろしく頼もう」

「OK。……恵梨。俺の話に足りないところがあると思ったら補足してくれ」

「分かりました」

 恵梨がうなずくのを見て、彰は恵梨との出会いから今までをその場にいる能力者たちに話した。

「四月の中旬。俺が住んでる結上市、その繁華街の裏通りを歩いている時に――――――――」


………………………………………………。

…………………………………………。

……………………………………。



 十数分後。

「――――で、今に至るというわけだ」

 彰の長い話が終わった。

 話を聞いている残り五人は、質問は全ての話が終わってからにしようと暗黙の合意があり、途中恵梨に補足を入れてもらった間以外、彰はずっと話しっぱなしだった。

 能力者関連は全部話したが、学校話と彰の過去話だけは省いている。そんなに関係ないことだからだ。

「ほう。そんなことが」

「大変だったね~」

「知らんかったわ。迷惑かけたな」

「そうだよ、お兄ちゃん」

「……………………」

 五者五様の返事を返される。(一人、彩香だけは無言であったが)



「では、僕から感想を述べて良いか?」

 雷沢が他の四人を見回すと、それで構わないという雰囲気だったので雷沢は口を開いた。

「まず、戦闘人形戦とこの馬鹿との戦い。どちらも能力を上手く使っていたな。異能力モノの基本だが、聞いていて面白かったぞ」

「面白かった……って」

 ――そういえば、雷沢は中二病だったな。

 雷沢が普段は落ち着いた雰囲気のため忘れそうになる。


「あと言って置きたいが、戦闘人形と戦う時に異能力者隠蔽機関のハミルによって君は能力者として覚醒した、と君は言ったがそれは違うぞ」

「どういう意味だ?」

「『覚醒』ではなく『認識』したと言った方が合っている。……細かい違いだけどな」

「???」

 雷沢が具体的に言い直してくれたが、彰には違いが分からない。


 そこで雷沢が噛み砕いて説明してくれる。

「いいか。覚醒とはまるでそのとき能力者になったような言い方だ。それは分かるな? ……そしてそれは誤りだ。能力とは遺伝する物なのだから君は昔から能力者だったんだよ」

「…………なら、何で今まで能力が使えなかったんだ?」

 彰の疑問に、雷沢は質問で返す。

「逆に君は今まで『風が吹け』だとか『風が金属になれ』と、本気で、強いイメージをしたことがあったのかい?」

「………………」

 彰は過去を振り返る。

 ――そういえば、俺が中学生で不良だったころ。

 なんかの拍子に俺の目の前で転んだ由菜。制服だった由菜のスカートがめくりかけていた時、若気の至りということで、『風よ吹け』とか思ったよな……。そして実際に風が吹いてスカートがめくれて青と白の――――。

「……………………いや、そんなこと無かったな」

 今は真面目な彰は、やんちゃだった自分の過去を誤魔化す。


「そう。普通はそんなことをイメージなんてしない。……まあ、もしイメージしていたら能力が勝手に発動していたんだろうけどな」

 そうか、あれは能力『風の錬金術』が勝手に発動していたのか。…………いや! そんな過去なんて無かったな!

 自分に言い訳した後、彰は雷沢の話を反芻(はんすう)する。

「だから自分の能力を認識して、その能力にあったイメージをしっかりすることで能力は使えるようになる――そう言いたいんだな」

「そうだ」

 雷沢がうなずいた。




「彰くんはえらいね~」

 雷沢の話が一段落したので、光崎が感想を言った。

「おう、そうやな。……見ず知らずの恵梨を助けて、行く当ての無い恵梨を家族として受け入れる。……なかなかできるもんやないで。俺よりよっぽど正義やないか」

「その彰さんを攻撃したお兄ちゃんはよっぽどの悪ですね」

 火野に辛辣な言葉をかける理子。

「それは、勘違いしていてな……」

「ホントお兄さんは馬鹿ですね。彰さんを襲いに結上市に行ったときも、私に何も相談してくれませんでしたし。……そうしたら事前に止めることができたのに」

「いや、すまんな」

「ちゃんと反省してくださいね」

 妹に上から言われる兄。


「………………」

 彩香は何か思うところがあり、まだ無言であった。



「さて、今の話をまとめようか」

 雷沢が指を立てながら言った。

「疑問点からまとめておこう。

 一つ。科学技術研究会は何を実験していて、どうして能力者が必要だったのか?

 二つ。戦闘人形とは一体何なのか? 何故風の錬金術の能力を持っているのか?

 三つ。彰は何故風の錬金術者なのか?

 四つ。異能力者隠蔽機関とは?

 ……こんなところだな」

 彰が腕組みをして答える。

「まとめたはいいが、最初から三つは全く分からないな。……四つ目の異能力者隠蔽機関だが、たぶんこいつらはある程度は信用して良いと思うぞ。善意で動いているような気がするし」

「そうか。……僕は会ったことがないから、その発言を信じるしかないか。…………ところで、科学技術研究会とやらは、能力者、つまり僕たちを今も狙っているのか?」


 雷沢の問いに、彰の横から恵梨が答えた。

「それなら大丈夫らしいですよ。異能力者隠蔽機関のラティスさんとこの前話をした時に聞いたんですけど、今、科学技術研究会は目立った動きは無いようです」

「火野と戦った後に聞いたんだ。……それより異能力者隠蔽機関に会ったことが無いのか?」

 彰が雷沢に質問する。

「ああ。……親から能力を普通の人前で使っていけないって教育されたから、そういう存在がいることも知らなかった。……君を除いたこの六人ともそう教育を受けているはずだ」

 彰が周りを見回すと皆からうなずかれる。


「でも火野はためらいなく人前で能力を使っていたぞ?」

「あの時は勝負のことで頭がいっぱいやったからな。……すっかり抜け落ちてたわ」

「………………」

 あっけらかんとして言う火野に、彰は生暖かいまなざしを向けた。


「つまり、科学技術研究会については全く分からない。ということか」

「ああ」

「……得体の知れない組織だな」

 雷沢がつぶやく。



「そうだ! ねえ、私いい事を思いついたよ!」

 突然、光崎が立ち上がって言い出した。

「何だ?」

「彰くんが能力者である理由って、能力が遺伝する物である以上彰くんの両親が関わってくるでしょ。だから電話でもして直接聞けば良いんだよ!」

 光崎が言ったのは、雷沢がまとめた疑問点の三つ目『彰が何故能力者なのか?』を調べる方法だった。

 雷沢が「それだ!」という表情になるが、すぐに落ち着いて彰に聞く。

「それは良いアイデアだが、……どうせ頭の回転の速い君のことだ。既に試しているんだろう?」

「当然だ。…………まあ何故かあの両親全く電話がつながらないんだが」

 既に何回も電話をかけて全く両親が電話に出なかった彰は、あいつら俺に何かあったとしたらどうするつもりなんだ? それでも人の親なのか? と思っている。



「で、でももう一回電話すればつながるかもしれないよ」

 光崎が前向きな提案をする。

 ――もう二、三十回は電話したんだけどな。

「分かった」

 彰はうんざりしながらも、旅館に備え付けられている電話機に向かった。何回も電話をかけたことで、彰は両親の赴任先の電話番号を暗記している。


 プルルルルルルルルルル。プルルルルルルルルルル。プルルルルルルルルル―――

「はぁ」

 彰がいつも通り全く終わらないコール音にため息をついたそのとき。




 ガチャ!

「えっ!?」




「すいません。こちら高野ですが」

 電話がつながった。

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