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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
三章 日本、能力者会談
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五十五話「会談一日目 火野理子」

「さて話を戻そう。次はどっちが自己紹介するんだ?」

 雷沢が何事も無かったかのように言った。…………いや、鈍感だから何も無かったと本当に思っているんだろう。

「あぅ…………」

 ちなみに光崎は未だに顔が赤いままだった。

「そうね、私の順番は最後がいいわ」

 自己紹介をしていない残り二人の内の一人、クールな少女はそう言って順番を譲った方を見た。

「ん?」

 つられて彰、恵梨、大学生二人もそちらを見る。



「すまん理子、ジュースついでくれ」

「もう! それぐらいちゃんとしてよね!」

 理子と呼ばれた少女は文句を言いながらも火野からコップを受け取る。

 そこには、こちらが今まで話していたのを気にせず食べ続けていた兄とその兄を世話する妹がいた。



 しかし、彰には非常に気になる物が目に入ってきた。

「おい! おまえ食いすぎだろ!!」

 火野の前にある、かなり空きが目立ってきたオードブルを見て、まだ腹が満たされていない彰は声を荒げた。

 雷沢と光崎の自己紹介、そして能力名にまつわる話を彰が聞いていた間に、火野は一心不乱で食べていたようだ。



「……そんな言われても、俺も腹が減っていたし、食べてしまったもんはしょうがないやろ」

 彰の非難に、火野は心外だという表情を取った。

「……それに文句を言うのは筋違いや。

 昔から言われている、単純にして明快なルールがあるやろ。――」


 そして、戦いの始まりを宣言する。



「――早い者勝ち、ってな」



 ニヤリ、と笑った火野を見て、彰の中で何かがプツン! と切れた。

「……………………ほう。その言葉忘れるなよ」

 彰が低い声でそうつぶやく。

 と同時に、彰はオードブルの前に高速で移動した。

「おららららららららら!!!!!!」

 彰は叫びながら、オードブルに残っていた食べ物を箸の雨を降らして、食べ物を掴んでは口まで持っていく。

 見る間にオードブルが減っていく様子を見て、火野は非難の声を上げた。

「あっ、ちょっ! それは俺が大事に取って置いた――」



「早い者勝ち、だったよな?」



 彰がニヤッと勝ち誇った笑みを取るのを見て、火野の中で何かがプツン! と切れた。

「…………………………分かったで。そっちが、その気ならこっちはこうやああああああ!!!!!!!」


 火野は気勢を上げながら能力『炎の錬金術』を発動。オードブルから少し上空で炎が燃え盛る。

 それは次第に形を変えていって、金属化。

 先が三つに分かれた細長い金属片、つまりフォークが大量に作られる。


「全部取ってやる!!!」

 全てのフォークが降下を開始。

 オードブルに残っている全ての食べ物を突き刺そうとする。


「甘い!!!!」

 しかし彰も同時に能力『風の錬金術』を発動。

 赤色のフォークから守るように、緑色の盾をオードブルの上に形成した。


「ちっ! こしゃくやな!!」

 火野は舌打ちをして、フォークを空中で静止させる。

 同時に緑の盾の横に炎を金属化。赤色の金属塊を作り出し、加速させて盾を弾き飛ばそうとする。

「これは間に合わんやろ!!!」

 火野は勝利宣言をする。盾がオードブルの上から無くなった瞬間フォークを降らす予定だ。


 しかし、彰は諦めていない。

「この!!!」

 彰は能力で更に盾を作り出すのでは間に合わないと判断。



 よって、盾を弾き飛ばそうとした赤色の金属塊を自身の素手で掴んだ。



「なっ!!??」

「これは予想外だっただろ!!」

 火野が顔に驚きを表す。が、すぐに立て直して、

「だが、いつまで耐えられるかな!!」

 彰が掴んだままの金属塊を更に加速。彰の手をお構い無しで盾を弾き飛ばそうとする。

「くっ!!」

 押されてるだと!?

 徐々に赤色の金属塊が緑色の盾に近づいていく。

 くそっ、劣勢か! …………だが、負けるわけには行かない!!



「うおおおおおおおおお!!!!」

 彰は雄叫びをあげて今まで以上の力で金属塊を押し戻そうとする。

「なめるな!!!!!!」

 火野も叫びながら金属塊を加速させようと、意識も魔力も集中させる。



「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「このおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

「くそたれっがああああああああ!!!!!!」


 彰がしのぐか、火野が突っ切るかのデッドヒート。




 このまま(不毛な)戦いの決着がつくかと思われた――――その瞬間。




「「うるさいです!!!」」

 二人の少女の声が部屋に響いた。




「おふっ!」

「ぐえっ!」

 戦っていた二人は同時に奇襲を受けて崩れ落ちた。

 彰には青色の金属塊が、火野には赤色の金属塊が、二人の腹に埋まっている。


「こんな夜にそんな騒いで、他の宿泊客に迷惑です!!」

「そうだよ、お兄ちゃん!! それに私たちにとっても迷惑だったんだから!!」

 彰に奇襲をかけた恵梨と、火野に奇襲をかけた妹は、「周りの事も考えなさい」と怒った。



「…………残念だな。今のバトル、能力を上手く使っていて結構面白かったんだが」

「……タッくん。それあの二人に聞こえたら怒られるよ」

 中二病の雷沢は残念がり、光崎はそれをたしなめた。



「火野兄妹はいつも通りだけど…………恵梨がめったに見ないほど怒っているし、高野彰もあんな馬鹿だったなんて」

 言動、雰囲気から彰のことを真面目だと思っていたクールな少女は少し愕然とした。








 しばらくして。

「「すいませんでした」」

 奇襲のダメージから回復した彰と火野は何のためらいも無く土下座を敢行。

 それほど今の恵梨は怖かったし、火野の妹も相当な迫力を出している。


「………………」

 土下座をされた二人は顔を見合わせる。お互いの表情から「二人は反省しているのではないか」と読み取れた。

 なので、

「……………………まぁ、いいでしょう」

「……………………いいよ、お兄ちゃん」

 二人とも許しの言葉をかける。

「「ありがとうございました!!」」

 彰と火野は心の底から安堵した。



「……さて、それでは話を元に戻そうか」

 荒れた場を戻すように雷沢が言った。今まで戦っていた彰と火野、それを怒った恵梨と妹が机を囲んで座る。

「火野妹。自己紹介だ」

「OK」

 振られた妹は雷沢に返事してから、彰の方を向いた。

「私の名前は火野理子(ひのりこ)。中学生で、そこのお兄ちゃ――――じゃ無かった。火野正則の妹で、能力も同じ『炎の錬金術』だよ」

「火野と同じ能力か」

 …………まあ、能力は遺伝する物だから当然ではあるか。


「ああそうですね。……彰さんはお兄ちゃんとは一回戦っていましたね」

 彰が考えていると、突然理子は謝罪してきた。

「……すいませんね。お兄ちゃんが馬鹿な勘違いをして彰さんには迷惑をかけました」

「俺を戦闘人形(ドール)と間違った件か?」

 彰が確認するとその通りのようだった。

「はい。……お兄ちゃんは良いところもあるんですが、馬鹿なのはしょうがなくて」

「まあ、しょうがない。馬鹿につける薬は無いって言うし」

 彰の苦笑しながらの呆れ声に、けど! と理子は主張する。

「馬鹿なところを除けば、そこそこいいお兄ちゃんなんですよ!」

「でも、馬鹿だからなー」

「…………ですよね……」

 理子がシュンとした表情になる。笑いをこらえて肩が震えていなかったら兄を思う良い妹に見えただろう。



「人のことを馬鹿、馬鹿って、何を言いたいんや!!」

 冗談(?)なのに、火野は普通にキレた。



 しかし即座に彰は反論する。

「けど普通俺と戦闘人形(ドール)を間違えるなんて事ありえるか?」

「ぐっ……!」

 彰の言葉が深く刺さる火野。

「やめてください、彰さん! 馬鹿な兄に代わって私が謝りますから。……すいませんでした。……ププッ」

 理子が頭を下げる。顔が笑っていなかったら真面目に謝っているように見えただろう。

 ――やばい。火野をいじることに関しては、この妹ともの凄く息が会う。

 彰も笑いをこらえて、理子を心の内で賞賛する。

「いや、俺も謝ったからな!?」

 火野が何か言っているが彰は無視する。

「…………ううっ、深い兄妹愛だな。…………うん。いい、妹を持ったな火野」

 涙を流す(フリ)をしながら、火野の肩をポンポンと叩く彰。



 その言葉に火野は「まさか」と呆れた顔で、肩に置かれた彰の手を取り立ち上がった。

「誰が良い妹やって!? こいつはひどいヤツだぞ! 俺を(ごう)も――」




「お兄ちゃん、正座」

 火野の主張に割り込んで、明るい声から一転した冷酷な理子の声が響き渡る。



 ゴツン!

「ぎゃぁ!!」

 立ち上がろうとした火野の膝の裏に、いきなり赤色の金属がぶつかる。膝カックンの要領で火野は崩れ落ちて正座の形で座ってしまう。

 その後火野のヒザの上で、更に炎が燃え盛る。ブロック状になった炎は金属化。

 ブロック金属塊は火野のヒザの上に、 ズシンと重量感のある音を立てて乗った。

 同時に手が背中の方で拘束された。赤色の手錠が火野の手を(いまし)めている。


 正座した囚人の膝に石を載せる「石抱(いしだき)」。

 それは江戸時代に行われていた拷問の一種であり、その変化版「炎の錬金術を使ってみた」ともいうべき状況に火野は遭っていた。


 この一連の流れは一秒もかからないほどスムーズに行われた。

 全ては炎の錬金術者(アルケミスト)である火野理子の仕業である。


「ちょっとやめてくれ!!」

「ねえ? 私の愛の鞭を…………拷問って呼ぶの? そんな風に思っていたの? ……ひどいよ、お兄ちゃん?」

 理子の何かのスイッチが入ったらしい。

「それは……口が滑って」

「ということは、本心はそう思っているっていう事なの? …………さっきも騒いでいたし、やっぱりちゃんとお仕置きをしないといけないね」

 火野の膝の上に金属塊が一個追加。体の内部からミシリと音がする。

「くっ! ……マジでやめてくれ」

「駄目。お兄ちゃんが悪いんだからね。…………私は悲しいよ。お兄ちゃんが私の本心を理解してくれないんだもん」

 更にもう一個追加しようとする。

「ちょ、それはヤバい!!」

 火野がマジで切迫した声を出した。



「…………?」

 あれ? 何でこんなことになっているんだ?

 彰は首を傾げる。さっきまで妹と火野をいじっていたのに、いきなり急変して拷問に変わっている。

「理子ちゃんはしっかりしていますね」

 恵梨がのんきな感想をつぶやく。

「いや、しっかりって……」

「悪いことをしたらお仕置きしないといけないでしょう? 理子ちゃんはお兄ちゃんを叱ることのできる良い妹じゃないですか」

 笑みを貼り付けた顔を恵梨は彰に向ける。

「………………」

 ………………ああ。…………暗黒面(ダークサイド)恵梨の登場か。

 彰が打ちひしがれている。

「知ってました? 彰さんを戦闘人形(ドール)だと思っていた頑固な火野くんの誤解を解いたのも理子ちゃんなんですよ」

「……いや、誤解を解いたというか、あの状況を見るに強制的に認めさせたと言ったほうが良いような気が……」

「フフッ」

「………………何でもない」

 何故このタイミングで笑った!?

 恵梨にツッコミたいが、その後どうなるか分からない。


 元不良を怖がらせている恵梨はあごに手を当て思案する。

「しかし、理子ちゃんの手並みはいつも鮮やかですね。…………私も習いましょうかね? 役に立つと思いますし」

「恵梨。おまえにはもっと他に学ぶべきことがあるはずだ。そうだ、その通りだ。……決して、そう決して拷問の方法なんて習う必要は無い」

 彰は自分の危機を本能的に察知して恵梨の説得を開始。



「あの二人共、立場低すぎじゃないか? 完全に尻にしかれているぞ」

「そうだね。(…………私もタッくんにあんな風にできたら……)」

「(ブルッ!)……何か悪寒がするぞ」

 雷沢は呆れ、光崎は不穏なことを考える。



「………………デジャヴかしら」

 ついさっきこんな風景を見たような気がしたクールな少女はつぶやく。



 何かが壊れて無表情な火野に、妹理子は教えるように言う。

「分かりましたか? 私がどれだけお兄ちゃんを思っているかを」

「ハイ。アイユエニ、リコハオレニコンナコトヲスルノデスネ」

「そうです。お兄ちゃんには私だけいれば十分なのです」

「オレニハ、リコダケイレバジュウブンデス」

「もう一回」

「オレニハ、リコダケイレバジュウブンデス。……オレニハリコダケイレバジュウブンデス。……オレニハリコダケ――」

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