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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
三章 日本、能力者会談
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五十四話「会談一日目 能力者、大学生コンビ」

 宴会場から歩くこと二、三分。


「着いたで」

 火野正則(まさのり)はとある客室の前で彰に言った。彰は扉を見ながらつぶやく。

「……大人たちは宴会場だったのに、子供は客室の一室か」

「まあ、しょうがないやろ。日本にいる未成年の能力者は少ないからな。……この部屋の中に四人、そして俺、恵梨、彰の三人で合計七人しかいないからな。……それにもいろいろと理由があるんだが――」

「それより早く入りましょう!」

 恵梨の声がはずんでいる。毎年この能力者会談が開催されているらしいので、この部屋の中には一年ぶりに会う能力者の知り合いでもいるのだろう。

 彰としてもここで立ち話を続けるのは本望ではない。なので扉の前にいる火野を促す。

「火野」

「OK、OK。じゃあ、開けるで」

 火野はいつのまにか受け取っていたこの部屋の鍵を差し込んで、ドアノブを回した。


 彰はまず靴を脱いで邪魔にならないように端に寄せる。

 部屋は和室らしく、玄関の扉とは別に(ふすま)が存在した。

 よく考えてみると、中にいるのは恵梨と火野にとっては毎年会っている人だろうが、彰にとっては初対面の能力者たちだ。

 思えば彰が今まで会ってきた能力者――戦闘人形(ドール)や、異能力者隠蔽機関のラティスたち、火野、といつも一触即発のムードで出会っている気がする。

「………………」

 ――いや、能力者だからといってみんな攻撃的とは限らないよな。うん。

 ということで、いつもふてぶてしい彰でも少しは緊張する。

「スー……」

 彰は深呼吸でもしようとするがその前に、

「よーっす!」

「こんばんは、です」

 火野が掛け声と共に襖を開け、恵梨もその後ろに続く。

「ハー、って、ちょ、待てよ!」

 彰もあわてて部屋の中に入った。


 恵梨と火野の挨拶に反応して、部屋からは四つの声が返ってきた。


「おおっ! やっと来たか!」

 これは髪はぼさぼさ、メガネをかけた長身の大学生ほどの男の発言。


「久しぶりね、正則くん、恵梨ちゃん」

 次は母性本能満載という雰囲気のこれまた大学生ほどの女性の発言。


「もう! お兄ちゃんたら遅いんだから! どこで道草を食っていたの?!」

 怒っている声を出しているのは、髪をツインテールにしたあどけなさの残る少女。


「久しぶりね、恵梨。……ところで隣の少年が、(くだん)の風の錬金術者(アルケミスト)である高野彰とみていいのかしら」

 最後に、鋭さを感じる美貌の少女が彰に話を振ってきた。


 その発言を聞いて四人の視線が一斉に彰に集中する。気分としては転校一日目にクラスで先生に紹介されて注目される転校生だが、あいにく彰は今まで転校したことが無い。

 ここまで来たら腹をくくれ、俺!

 開き直った彰は一歩前に出て自己紹介をする。

「ああ、そうだ。……俺は高野彰。風の錬金術者(アルケミスト)だ」

「……確かにそう聞いてるけど……あなたが風の錬金術者(アルケミスト)だなんて本当なの?」

 疑問を述べるのは彰に話を振ってきた少女である。

 さっきの宴会場での一件から、言葉だけでは自分が能力者だとは信じられないだろうと思った彰は横に出した右手に意識を集中。風の錬金術を発生させて、右手に緑色の剣を顕現させる。

「これが証拠だ」

 その剣を前に突き出す。四人は風野氏のようにはまじまじと見ないでも、一目見て信じてくれたようだ。

「本当のようだな」

「彩香ちゃんと同じだねー」

「へぇ」

「…………………………」

 ――と、思ったのだが最初に質問した少女は剣をまじまじと見ている。

「…………やっぱり、この人は本当に…………だとしたら………………」

「信じてもらえないのか?」

「あっ、いえ! ……ちょっと考え事をしていまして!」

 少女は顔の前で手をわたわたと振る。……大人っぽい言動とはギャップがある仕草だ。

「じゃあ解除するぞ」

 彰は手の中で金属が風に戻る。


 そのタイミングで格好が少しだらしない男が発言する。

「さて、君が名乗ったのだから僕たちも自己紹介をするべきなのだろうが…………まぁ三人とも席に着きたまえ。もうこんな時間だし、腹が減っているだろう?」

 部屋の中はオーソドックスな旅館で、床は畳張り、真ん中には大きなテーブル。テレビや貴重品を保管するための金庫などが置いてある。

 そしてテーブルの上には宴会場でも見たオードブルが二つほど乗っていた。オードブルの所々に空所があるのは、先に四人は食べているからだろう。

 時刻は夕方を過ぎて、夜に入った頃。健全な男子高校生である彰は当然腹が減っているので、異論も無い。

 腹が減っているのは恵梨と火野も同じで、全員が席に着いた。



「いただきます」

 恵梨はいつも通りに食前の礼を言った。

「いただきます。……よし、食うぞ!」

 目の前に食べ物があって待ちきれない彰は形式的に感情が全くこもっていないと思われる食前の礼を行ってから箸を握った。

 しかしこれはまだ良い方で、

「(ガツガツ、ムシャムシャ、ゴクゴク)プハァー! おいしいぜ!」

 獣のような勢いで食べた後、オレンジジュースをあおった火野は、まず「いただきます」すら言っていない。

「お兄ちゃん! いただきますぐらい言ったらどうなの!」

 この場では最年少と見える少女(さっきからの発言から見ると妹なのだろう。……そういえば火野がこの妹のことを思い出して(うつ)になっていたような……?)が火野を注意すると、

「確かにそれは正しいやろう。食べ物となった命に対する感謝はいつも忘れてはいけないしな。………………しかし腹が減った俺には通用しないんや!」

 無駄にかっこつけた後、火野は元のペースで食べ始めた。

「もう、お兄ちゃん!」




「………………さて、あの兄妹は置いといて自己紹介を始めよう」

 さっきから場をまとめている男が、その騒ぎを無視して話し始める。……場をまとめているのはこの場では最年長の男という自覚があるからなのだろう。

「早速だが僕から名乗らしてもらおう。

 僕の名は雷沢(らいさわ)拓也(たくや)。この場にいる以上、当然能力者であり能力名は『電気(エレクトリック)』だ」

「『電気(エレクトリック)』……か」

 電気を操る能力(詳しくはまだ聞いてないが、名前からしてそうだろう)とはこれまたオーソドックスな能力だな。

 思い出してみると、錬金術系統とか、ラティスの記憶メモリーとかあまり今まで読んだことのある物語とかでは見たことのない能力ばっかりしか知らない彰。


 はい、はーい。と手を上げてホンワカ系の女性が発言権を要求する。

「私の名前は光崎(こうざき)(じゅん)だよ。タッくんと同じで大学生なの。……えーと他には何かあったっけ? …………あっ、そうそう。能力は、光を扱うことができる『光使い』――」

「違うぞ! ……おまえの能力名は『閃光(フラッシュ)』だと言っただろ」

 と、そこで雷沢が叫んで割り込んでくる。

「あっ! そうだったねー。…………そう、私の能力は『閃光(フラッシュ)』だよ」

 てへへ、と手を頭にのせる光崎。


「???」

 光崎の間違いを雷沢が訂正した。……ただそれだけではない勢いを雷沢から感じた彰は質問する。

「今のはどういう意味だ?」

 雷沢が返答をする。

「……能力名に関わる少し長い話だ。聞きたいか?」

「ああ」

 彰が了承したのを見て、雷沢は一息ついてから話し始めた。


「……昔、俺たちの親の時代までは呼びやすさ重視というか、見た目だけで能力名を決めたのか、おまえの能力『風の錬金術』は『風使い』って呼ばれていた。同様に『水の錬金術』は『水使い』、『炎の錬金術』は『炎使い』、『閃光』は『光使い』って呼ばれていたんだ」

「…………風使い?」

 そういえばどこかで言われたことがあるな。

 彰はうろ覚えの記憶を引っ張り出す。

 …………ああ、そうか。俺が始めて能力を使う時、念話(テレパシー)でハミルがそう呼んでいたっけ?

 なら光崎は昔の名前を間違って使ったってことになるはずだが……。


 雷沢の説明は続く。

「…………当時、中学生だった俺はそれに耐えられなかった」

「? 何に?」

 いきなり飛んだ話に彰が疑問を伝えると、雷沢は力強く主張した。




「せっかくの能力なのに、かっこいい名前がついていなかったことだ!!!」




「………………?」

 彰の目が点になる。

「だってそうだろ!! せっかく能力者なのにそんな平凡な名前だったら興ざめだろ!! ラーメン屋に行ったのに、ざるソバが出て来るようなもんだ!!」

「はぁ……?」

 彰には理解できない感覚である。

「『俺の能力は風使いだ』よりも『俺の能力は風の錬金術だ』の方がかっこいいだろ!! ……いや、風使いをいう名前を馬鹿にする気は無い。しかし、風を起こして金属にする能力を風使いと呼ぶのは間違っている!!」

「そう、なの、か……?」

「そうだ!! だから僕は能力にふさわしい名前を考えた!! 『風使い』には物質から金属を作り出すというのにふさわしい『風の錬金術』という名称を、同様に『水使い』には『水の錬金術』という名称を。そして他の能力にもふさわしい能力名を僕は考え出した!!」


 だが、と雷沢の主張は続く。…………若干、その勢いに彰は引いてるのだが。

「大人たちはいつも強情だ! ……せっかく僕がかっこいい名前をつけたっていうのに、今まで使っていた名前を使おうとする。………………結局、僕が考えた名前を使っているのは執拗(しつよう)に俺の考えた能力名を言って聞かせたここの七人と、風野藤一郎だけさ。社長になるだけあって常人とは違うんだな。…………ハァ」

 一気にしぼんだ風船のようになった雷沢がため息をついた。


 そこでクールな言動の少女がつぶやく。

「分かるとは思うけど……この雷沢は中二病なの。それもかなり重度で、大学生になった今も、それは続いているらしいわ」

「見もふたも無い言い方だな」

 それだけによく分かりやすい一言だった。

 つまり光崎が自分の能力名を間違えたのを雷沢が許せなかったのは、自分が命名した能力に誇りを持っているから…………とかなんだろう。


「能力名だけじゃなくて、錬金術系の用語『解除』とか『領域(エリア)』とか名づけたのも雷沢さんなんですよ」

 恵梨が補足する。……ちなみに『解除』とは金属化をやめて元の物質に戻すこと、『領域(エリア)』とは金属化させたものを自由に動かせる範囲、錬金術者(アルケミスト)から半径二メートルほどのことである。

「そうか。…………でも、そういえば雷沢の能力の名前『電気(エレクトリック)』はどちらかというと普通じゃないか?」

 少し気になったので彰は雷沢に質問する。

「……僕の能力名は昔、『電気(でんき)』とそのまま呼ばれていた。……今は『電気(エレクトリック)』と読んでいるが、確かにもうちょっと凝った名前にしてもよかったかもしれない。……しかし、僕はかっこいい能力名が好きだが、同時に分かりやすさを尊重して名前をつけるからな」

 フッ、と息をつく雷沢。

 彰は雷沢がかっこよさを重視し過ぎて『風使い』を『神より(たまわり)りし烈風の能力!』とか名づけなかったことに感謝した。




 

「だから彰くん。君には期待しているんだよ」

「……何をですか?」

 唐突過ぎる発言。いや、もしかしたら雷沢の中ではこれが自然な話の流れなのかもしれないが……。

「君がイレギュラーな能力者だからだよ。……物語の主人公というのは、基本的に他人とは違う。だから君は主人公の素質がばっちりあるんだ。能力者だと判明した君の、これからの歩みを期待するよ。……君が主人公なら、僕は役割的に言うと中二病な頼れる先輩ってとこなんだろうな」

 うんうん、と一人うなずく雷沢を見て、彰は少し呆れる。

 ――自分のことを頼れる先輩って言うのか。……ていうか自分が中二病だと気づいていて、それを誇りに思っているタイプなんだな。……まあ実際自分が能力者であるという、中二病があこがれる状況だし妄想が膨らむのか?

 だけど、この世界は物語じゃないっていうのに。



 さすがに大声を出し過ぎてのどが渇いたのか、雷沢がジュースを飲んでから言った。

「まあ、それ以外にも君には感謝しているんだよ。未成年者で男の能力者は、日本には僕と火野しかいなかったからね。こうして集まると女4人、男2人と肩身が狭かったんだが、これで少しは対等になれる」

「そうなのか」

 彰の返答の後、『閃光(フラッシュ)』の能力者、光崎がぎゅっと手を握り締めて話に入ってきた。

「タッくんは私と一緒にいて、肩身が狭い思いをしていたの?」

「ん? ああ、僕はオタクだからあんまり女が多いところだと気後れするぞ。………………いや、オタクは関係ないか? ……いや、リア充ならそんな状況に慣れているだろうし関係あるか。…………まあ、とにかく軽度のコミュ障なんだ」

 情けないことをカミングアウトする。

「……そうなの」

 光崎が肩を落として落ち込む。



「でも、昔から一緒にいるおまえは別だな。普通に話すことができる」



「えっ!」

 光崎の顔が輝き出す。


 っていうか、比喩でなく輝いてないか!?

 彰が内心で驚いている。

 ……そうか。光を操るという、光崎の能力『閃光(フラッシュ)』が勝手に発動したということなのだろうか。

 彰が分析していると雷沢が言った。



「なんていうか…………こう、おまえを普通の女としてみることができないんだよな」



「えっ…………!」

 今度は光崎の顔が暗くなった。比喩ではなく顔が見えないほど暗い。


 ――これも『閃光(フラッシュ)』の能力による物なんだろうな。

 彰の思考をよそに、雷沢が続ける。



「友達? ……違うな。相棒? これも違う。…………そうだな、僕ら二人は相性の良いパートナーといったところか?」



「えっ!」

 また、光崎の顔が明るくなった。これも比喩ではなく(以下略)



 ころころ表情が変わりすぎだな!!

 真面目な彰は突っ込み属性持ちである。



「あの、ありがとね」

 光崎が顔を真っ赤にしてそう言った。…………これは能力じゃないだろう。…………じゃないよな。

「? 僕がおまえに何かしたか?」

「いや。……でも、言葉だけでも十分だよ」

「???」

 雷沢が意味不明だ、という顔を取るのを見て、彰は恵梨に耳打ちする。


「もしかして、この二人……」

 恵梨は彰が何を言いたいのか分かったようだ。続きを(おぎな)って返答する。

「二人とも、だとは思いますけど。……光崎さんの気持ちは分かりやすいんですが、雷沢さんは鈍感ですから」

「だよな。あそこまで言われて気づかない方がおかしい」

「!?」

 彰は普通に言ったのだが、その瞬間、恵梨に目を見開かれて「あなたがそれを言うんですか!?」的な表情を取られた。

「彰さんがそれを言うんですか!?」

 実際に言われた。

「? どういう意味だ? 俺は鈍感じゃないぞ」

「えっ?」

「えっ?」

「「……………………」」


 思わず彰の顔をまじまじと恵梨は見た後で、ポンと手を打った。正面の彰には聞こえないようにつぶやく。

「……ああ、自分が鈍感だと気づかないからこそ鈍感なんですよね……」

「何か言ったか?」

「いえ、何でもありません」

 恵梨はすました顔で言った。

「………………まあいいか」

 それ以上の追求が難しいと見た彰はあきらめる。




 しかし、人の恋の機敏(きびん)には気づくのに、何で自分のには気づかないんでしょうか?

 彰の幼なじみ由菜を不憫(ふびん)に思いながら、恵梨は彰を見てそんな感想を抱いた。

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