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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
三章 日本、能力者会談
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五十三話「会談一日目 宴会場」

 能力者会談が開催される旅館の宴会場にて。

「ぎゃはははは!」

「おまえ飲みすぎじゃないのか。ヒック」

「いいじゃんか。一年に一回なんだし」

「まあ、そうだな!」


「「ぎゃはははは!」」


 大人二人が酔っ払って気分が高くなり、無意味に笑い出す。

 宴会は集合時間が決まっておらず、遅れてくる人もいるので料理が一人一人にあるのではなく、皆でつまめるようにオードブルが用意されていた。会場は和室なので、オードブルは長机の上に置かれている。

 広い部屋の中で二、三人から七、八人の集団が自然と形成されて、大人たちは酒を飲み、話を盛り上げるために冗談を言い合う。

 そのような光景がそこかしこで展開されていた。



「それで風野氏はどこに居るんだ!」

 同じく宴会場で彰が半ば叫び声で隣の恵梨に聞いた。叫び声気味になったのは、宴会でどこもかしこも騒いでいるので、大きな声を出さないと聞こえないからであった。

「今探しているところです!」

 恵梨が辺りを見回しながら、こちらも大声で返してきた。

 現在二人は風野藤一郎氏――この旅館のオーナーに挨拶するため宴会場をさまよっている途中だ。彰がざっと数えたところ二、三十人ぐらいの大人が宴会場にいて、その全てが酔っ払っている。

 ちなみに火野は自分の親を見つけて、一応ここにたどり着いたことを報告に行ったため別行動となっている。

「あ! あっちにいました!」

「分かった! あの集団の中なんだな!」

 恵梨が指差す方向を見ると、三人の大人がグラスを片手に集まっている。どうやらその中に風野藤一郎氏がいるようだ。

 二人はそちらの方に近寄っていった。



「そういえば、今回は何故か新しく見つかったっていう能力者の坊主が来ているんだっけか?」

「そんなこと初めてだよな!」

「ああ、私も気になっているんだが……」

 話が盛り上がっているところに、

「すいません!」

 恵梨の声が入ってきた。周りが騒がしいためデフォルトで大声である。

「恵梨ちゃん、久しぶり!」

「あれ? 隣の少年は誰だ?」

「私が思うに、噂をすれば何とやら、だと思うが?」

 話題に出た彰も遅れて挨拶をする。

「はじめまして。今回、初めて能力者会談に招かれた高野彰といいます」

 律儀に頭を下げた彰を見て、

「おいおい、若いの! 今日はそんな堅いこと無しにしようぜ!」

「一年に一回の楽しみなんだ。気楽に行こうぜ!」

 酔っ払いがテンション高く絡んで来る。

「え、ええ。まあ」

 そのテンションの高さに彰はタジタジになって言葉を返した。


「それで、君が風の錬金術者というのは本当なのかね?」

 三人の内で比較的に酔いが浅い、貫禄(かんろく)がある男性が彰に聞いてきた。

 ……やっぱり疑問に思うよな。普通、俺が能力者であることはありえないことらしいからな。

 彰は答えた。

「ええ、そうです」

「……ここは能力者しかいないし、少し使ってみてもらえないかな?」

「分かりました」

 たしかに彰が風の錬金術者だと証明するには、能力を発動させるところを見せた方がいいだろう。

 彰は意識を集中させて、風の錬金術を発動させる。

 その能力によって右手付近では風が吹き始め、しかしすぐに収束して金属化。

 緑の剣となって彰の右手に握られた。

「これでどうですか?」

「………………うーむ。やはり本当に風の錬金術だな。……私の能力とも変わりが無いように思える」

 その男性が彰の手に握られた剣をまじまじと見ながらそうつぶやく。

 ……風の錬金術者ってことは、この貫禄ある男性は風野藤一郎氏なのか。

 目の前の人物と新聞に載っていたアクイナスの社長の写真が一致させていると、十分に眺め終わったのか、姿勢を正してその男性は言った。

「疑ったりしてすまないな。やっぱりこの目で見るまでは信じられなくてな。……もう剣を解除していいぞ」

「はい」彰は金属の剣を風に戻しながら「それであなたが風野藤一郎氏ですよね。この(たび)は能力者会談に招待ありがとうございます」

 またも律儀に礼をする彰。

「いやいや、そこまでしなくていい。もともとこの旅館はうちが経営している。それを貸し切る程度、造作の無いことさ」

 風野藤一郎が大企業、アクイナスの社長であるからこその発言である。


 スーツ姿の風野氏は緩んでいたネクタイを締めなおして言った。

「さて、遠いところをわざわざ来てもらったのだから、いろいろと話をしたいのだが……この通り。私を含め、皆酔っ払っていてね。すまないが詳しい話は明日ということでいいかな?」

「はぁ。……分かりました」

 ……自分が酔っ払っている、って認めるのか。

 普通酔っ払いは自分が酔っている事を認めない。まして、ネクタイが緩んでいても直そうとしない。そして酔っ払いはここまで明瞭(めいりょう)に話ができないものだ。

 大企業の社長になるような人は違うな、と思った彰は返事が気の抜けたものになってしまった。


「別の場所では、酒の飲めない未成年者達だけで集まっているはずだ。水谷さんに案内してもらって、そこに行くといい」

「そうさせてもらいます」

 最後に彰はもう一度礼をして、そのときもう二人に絡まれていた恵梨もちょうど抜け出してきた。

「彰さん、行きましょう」

 恵梨の案内で二人は風野氏に言われたその部屋を目指して歩き出した。




「あの少年なら…………礼儀正しかったし、頭も良いらしい。…………ふむ……」

 背後で風野氏がつぶやいている声は二人には届かなかった。




 旅館の廊下を三人は歩く。

「それで風野氏には挨拶してきたんやな」

 宴会場を抜ける途中で一旦別れていた火野とも合流していた。

「ああ。それで今は宴会には出れない未成年者たちが集まっているところ? に向かっているんだが」

「いつもどおりやな」

 火野がつぶやく。

「宴会場に顔を出した後、子供たちは子供たちだけで集まるのがいつものパターンなんですよ」

 恵梨が彰に補足説明をした。



 その頃。三人が向かっている部屋には、四人の能力者がいた。



「遅いぞ、火野のヤツめ。……このまま男は僕一人という状況は辛いんだが」

 『電気(エレクトリック)』の能力者、雷沢(らいさわ)拓也(たくや)は部屋に女三人、男一人しかいない現状を嘆き、


「宴会場に顔を出しているからじゃないかな? タッくん」

 『閃光(フラッシュ)』の能力者、光崎(こうざき)(じゅん)は少しイライラし始めた雷沢をなだめて、


「ほんと、お兄ちゃんったら遅いんだから」

 『炎の錬金術』の能力者、火野理子(りこ)は兄を心配し、


「……恵梨は遅いわね。……一緒に来る高野彰? も含めて三人で行動しているのかしら?」

 『風の錬金術』の能力者、風野彩香(あやか)は一人溜め息をついた。

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