五十二話「会談一日目 再会2」
彰が電車に揺られ始めて二時間ほど経った。あと少しで目的地に着くようだ。
「そういえば雷沢の兄さんや光崎さんと会うのも久しぶりやな。二人とも大学二年目だったか?」
「そうですよ。……私も彩香や理子ちゃんと会うのが楽しみですね」
彰と火野のやりとりも一段落して、火野と恵梨はこれから始まる能力者会談の話題で盛り上がっていた。
そうなると話から置いてきぼりな彰は質問する。
「実際、能力者会談ってどんなことをするんだ?」
「……あれ? 私、言ってませんでしたっけ」
疑問の声をあげる恵梨。
「聞いてないぞ」
「…………そういえば彰さんは能力者会談には初参加でしたね」恵梨はなるほど、と手を打ち、「分からないのも当たり前ですね。……彰さん、頭がいいから何でも知っていると錯覚していました」
「俺だって知らないことは知らないんだ」
どうやら恵梨は彰に説明するということが思考のポケットに入っていたようだ。
「なんや、なんや。彰は能力者会談のことをよく知らんのか?」
話の成り行きを聞いていた対面に座っている火野も話に入ってきた。
「そうみたいです。……私の不注意ですね」
恵梨がうなずく。
「そんなら、俺から説明しようか?」
「よろしく頼む」
火野の親切な提案を彰は了承した。
「まずは概要から話を始めるで。
能力者会談ってのは日本中の能力者が一つの場所に集まる唯一の機会なんや。そんで、毎年GWに三泊四日で開催されている。場所は毎年同じで、とある旅館だ。……今、俺らが向かっている場所でもあるんやで」
「……毎年やっているのか」
そんな基本事項すら知らなかった彰。
「………………そういや、風野って名前は聞いたことがあるよな?」
説明を中断して火野がいきなり彰に質問する。
「風野……風野……? ……それだけで分かるはずが無いだろ」
火野の指摘がアバウト過ぎる。そんな苗字だけ出されても想像の仕様が無い。
「分かった、分かった。……そんなら、アクイナスって言ったら分かるか?」
「アクイナス? ……それって、あの大会社か?」
彰が思い出したアクイナスとは、外食産業、レジャー産業、その他諸々を手広く展開する大会社の一つだった。日本の企業トップ10に入るその大会社は、テレビでもよくCMが流れている。
……そういえば、この前インタビューを見たな。
彰はアクイナスの社長自身が答えていたインタビュー「アクイナスがここまで成長した理由」が載っていた新聞を読んだことを思い出す。
「………………」
あれ……?
彰は脳裏で何かが引っかかったような気がした。
…………そうか!
それが分かった瞬間、彰は火野に答えを告げていた。
「もしかして風野ってアクイナスの社長の風野藤一郎氏の事か?」
インタビューには社長自身が答えていたのを思い出していた彰。
「おお、正解や」火野はパチパチと拍手して、「……そしてな、風野家は風の錬金術者の家系でもあるんや」
「風の錬金術者……その家系……」
彰も同じく風の錬金術者だ。能力とは遺伝することでしか持つ事が無いのだから、本来、彰も風野家の縁者で無いといけないはずなのだ。
なのに、彰は風の錬金術者であった。
イレギュラーな存在であった。
「………………」
……その理由が今回の能力者会談で分かるといいんだが……。
彰が思っていると火野が説明を続ける。
「そのアクイナスが運営している内の一つの旅館で、毎年能力者会談を開催してるんや。しかも、風野家のご厚意で宿泊代は全て無料にしてもらってるんや」
「……そうなのか」
風野藤一郎氏は太っ腹だな。
彰はまだ会っていないその人に感謝して、今度は自分から質問した。
「それで日本に能力者って何人くらい居るんだ?」
「日本に居るのは四、五十人くらいや。子供は少なくて、能力者のほとんどが成人を迎えている。……他の国の状況に関しては知らんけどな」
少ない……のか? まあ、多くは無いんだろう。
能力者の世界に入ったばかりの彰には判断基準が無かった。
「まあまあだな」
彰は結局そんな感想を言うに留める。
「昔は日本にも、もっと多くの能力者がいたらしいけどな。……まあそこら辺の事情は俺も詳しくは覚えていないから、明日、大人たちから聞いてくれ」
「分かった……って明日なのか?」
今日から能力者会談はあるのに明日。そこが気になって返すと、
「まあ、今日は無理やな」
火野がきっぱりと言った。
「今日は無理ですね。……みんな使い物になりませんから」
恵梨もうんうん、とうなずいて同意する。
「どういう意味だ?」
まだ彰には知らないことがあるようであった。
その疑問に火野が少し考え込んだ。
「そうやな。……彰は能力者会談に対して勘違いをしているかもしれないな」
「勘違い?」
何を勘違いしているのだろうか?
そう彰が悩んでいると、考えをまとめた火野が話し始めた。
「例えば、軍隊っていうのは平和な時にはそんな必要ないやろ。……まあ、災害の救助なんかで自衛隊が出動したりはするけど、戦争をしているわけではないから本来の役割『戦力』と言う意味では役に立っていない」
「? ……何を言いたいのか見当がつかないが」彰はそれが今までの話と、どうつながるのかを疑問に思いながらも、「……相手に攻め込まれるのを牽制したり、威嚇になったり、と実際には使わなくても『戦力』ってのは持っていることが重要だろ」
彰の相槌に、火野は我が意を得たりと話を進める。
「それや。まあ結局『戦力』てのは平和な時は使われることが少ない。……同じように『能力』というのも平和な時は使われることは少ないんや」
「……まあそうだな」
実際彰も科学技術研究会の戦闘人形や、目の前に座っている火野が攻撃してこなかったら「風の錬金術」を使う必要は無かった。
「日本は平和だし、能力者であることで何かメリットがあるわけではない。大体俺が知っている日本の能力者のほとんどが普通に会社とかに就職して能力を使うことなく暮らしている」
火野はいったん言葉を切って溜めを作ってから言った。
「……まあ、ぶっちゃけると能力者会談なんかしなくても、能力者が各々普通に生きていけばそれでいいはずなんや」
「………………そうか」
「ああ、今まではそうだったって話やで。……今年は科学技術研究会とかいう組織や、異例な能力者であるおまえの話とかあるからな。……まあそれもある程度話をするだけだろうが」
今から向かう会談を否定されて虚を突かれた顔をする彰に、火野はそう付け足した。
そうなると彰には一つ気になる事が残る。
「まあ今年の事は置いといて、今まで能力者会談ってのは何のために開催されていたんだ?」
必要ないものを今まで毎年開催していたのだから、理由というのが必要になるはずだ。
「そう。それが元の話題の、今日は詳しい話を聞く事が無理な理由につながるんだが……」
説明しようとした火野が、ふいに窓の外に視線を向けた。
「……時間切れやな。……もうそろそろでこの電車が目的地に着くはずや」
「そうですね。海が見えてきました」
恵梨も同じように窓の方を向いて、遠くを眺めて言った。目的地の旅館は海辺にあるようだ。
「百聞は一見に如かず、やな。この際自分の目で見てもらったほうが早いな」
「そうですね。あの光景を見れば一発で分かります」
二人が同意したのを見て、「いや、歩きながらでも話はできるだろ」と思った彰は仕方なく自分の意見を引っ込めた。
ちょうどそのとき三人を乗せた電車が目的の駅に着いた。
時刻は夕方。
彰たち三人は自分の荷物を持って駅のホームに降りる。
駅は都会に比べれば劣る結上市の駅よりも、更に田舎的な雰囲気の駅であった。それでもこの辺りでは一番大きい駅らしい。
駅を出た彰は、旅館の場所が分からないので知っている他の二人についていく。
GWということで、ある程度は観光客が来るような場所ではあるらしい。しかし恵梨によると、海が近くにあるので夏休みはかなり人が多くなるそうだ。恵梨も何年か前に夏休みにここに来て、夏祭りに行ったらしい。
海が近くにあったり、程よく田舎の雰囲気だったりとのんびりするのは最適なのかもしれない。
目的の旅館は駅から徒歩五分ほどで着いた。
木造建築、二階建てと昔懐かしい旅館で、大会社のアクイナスが経営しているとは思えない。
受付で自分たちの名前を出すと、それだけで対応していた人が「ああ」と納得した顔を取った。すぐに受付が終了してそのまま部屋に案内してもらう。
とりあえず荷物を部屋に置いた彰は、二人に案内されるままに旅館を歩いている。
「まずは挨拶をしておかないといけませんからね」
隣を歩いている恵梨が彰にそう言った。
「挨拶って?」
「ここに泊めていただく風野藤一郎さんにですよ」
「……まあそうだが」
彰も同意する。真面目な彰は礼儀とかを重んじるタイプだ。
「ついでにそれを見れば今日が無理な理由が分かるで」
一歩前を歩いている火野が、彰を振り返って付け足した。
それから少し歩いて、
「着いたようやな」
火野が襖の前で立ち止まった。部屋の中は和室のようで、中からは騒がしい声が聞こえる。
「ここまでくればもう分かるやろ」
「……ああ、この部屋が何をするための物くらいは分かるからな」
彰が「そういう理由だったのか」と呆れた顔をするのを見て、火野は襖を開いた。
その途端、彰の耳に入ってくる音の奔流。
「久しぶりだったな!」
「おう! まあ、座れ座れ! 酒をついでやるから」
久しぶりの再会をする大人。
「それであんたのところの会社はどうなってんの?」
「それが不景気をもろに食らってさー」
すでに話が盛り上がっている大人。
「ハハハハハハハハハハハ」
酒をあおりながら無意味に笑っている大人。
そのどれもが顔を赤くして騒いでいた。
その部屋は宴会場であった。
大人たちはみな酔っ払っており、その加減から昼ごろから既に酒を飲んでいるのではないかと思えた。
その大人たちは全て普段は会社などに勤めている、それぞれに違った能力を持つ者達であった。
彰は頭の中で整理する。
能力者会談が本来そこまで必要ないことなのに毎年あった理由。それは毎年みんなが集まって宴会をする理由が欲しかったから。
今日は詳しい話を聞けない理由。それは大人たちがみな酔っ払っているから。
つまりはそういうことであったようだった。




